−CHIYO−
「・・・なので昨日はすごく楽しかったです」
「おぉ。あのお兄さんとか」
昨日はお父さんとお母さんとお兄さんと4人で遊園地に行ってきました。
忠吉さんはお留守番です。
「へぇ。よかったじゃないか」
「えぇなぁ。私も遊園地に行きたかったなぁ」
今はみんなにお土産を渡しています。
「そんなにいい兄ちゃんなんだ。どんな人なんだ?」
「えへへ。見ますか」
私のカバンの中には昨日撮ったデジタルカメラが入っています。
カメラのデータにはお兄さんの写真もいっぱいです。
これで、お兄さんが帰っても寂しくはありません。
でも、最初だけかもしれません・・・
「ちよちゃん?」
「あ、す、すみません。えっと、この人です」
みんなが覗き込みます。
「へぇ。結構かっこいいな」
「・・・うん」
「榊さんほどじゃないですけどね」
「隣に住んでた松永さんにそっくりや〜」
「いいなぁ。こんなかっこいい兄ちゃんがいてさ」
「ふふん。どうだ」
「どうして、そこで智がいばるんだよ」
えへへ。みなさんがお兄さんを褒めてくれると私もうれしいです。
「いつまでいるんだ?」
「えっと、再来週の日曜の朝の便だって言ってました」
「よっしゃ。その前に一回会いに行くで〜」
「おぉ。大阪にしては珍しくいい案だな」
「はい。ぜひ会いに来てください」
−TAKA−
「貴洋くん。どうだい一杯」
お父さんがブランデーをすすめてくる。
「酒は二十歳になってからですよ」
「家に居る時くらいは気にするな」
俺もアメリカでは飲んでいたから別に酒を飲むことには問題はない。
お父さんの向かいのソファーに腰掛ける。
「ちよは寝たのか?」
「えぇ。先ほど」
グラスの中の液体に口を含む。
口の中が熱くなってくる。
「そうか。じゃあ、丁度いい機会だ。帰ってきて1週間たったしな・・・聞いておきたいことがあったんだ」
「なんですか?」
「君が家に来て10年ほどか」
「えぇ。今まで本当にありがとうございます」
俺は心から感謝している。
俺のことを本当の子供のように育ててくれたお父さんとお母さん。
「時に貴洋くんは、ちよのことはどう思ってるのかね?」
聞かれた。いずれそういう質問がくるだろうと思ってた。
「ちよとは血が繋がっていないんだ・・・もし君が」
ちよは確かに可愛い。
だけど、10年以上妹として接してきたんだ、いまさら。
「俺はちよのことは妹としか思っていません・・・それ以上でもそれ以下でも」
「・・・そうか・・・ちよ?」
「え?」
俺は後ろを見る。
リビングのドアが微かに開きそこからちよの顔が覗いていた。
「あ、あの・・・盗み聞きとか・・・じゃなくて、あの」
「ちよ。今度ゆっくり説明する。今日は寝なさい」
「あ・・・はい」
俺は・・・寂しそうな顔のちよに何も言えなかった。
−CHIYO−
「おはよ〜・・・!?ちよちゃんウサギさんや!!」
「え?」
「目が真っ赤やで?何かあったん?」
昨日は一睡も出来ませんでした。
お兄さんはお兄さんじゃなくて・・・でも私は妹で・・・
「・・・何かあったのか?」
「あ、榊さん・・・いいえ、ちょっと心配事あっただけです。今は平気です」
平気・・・です。
心配ではありますけど、私にはどうすることもできません。
「ちよちゃん・・・今日、放課後時間・・・ある?」
「あ。はい。大丈夫ですけど」
榊さんが私を誘ってくるなんて珍しいです。
その日、私は勉強が身に入りませんでした。
お兄さんのことだけが頭の中をグルグルと回ります。
「ちよちゃん・・・一緒に帰ろう」
「あ。はい」
今日は榊さんと一緒にどこかに行くのでした。
「どこに行くんですか?」
「・・・もうすぐ」
私は榊さんと一緒に公園にやってきました。
「修一」
「あ、姉ちゃん」
ブランコのところに男の子が居ます。
あれ?どこかで見たことがあるような。
「・・・ちよちゃん。弟の修一」
「あ。美浜ちよです・・・はじめましてじゃないですよね」
「覚えててくれたんだ。よかった。俺は榊修一。小4の時に一緒のクラスだったんだぜ。まぁ、ほとんど話とかしてないけどな」
あ、そういえば。
「先生にイタズラして怒られてた榊くん?」
「うわ。そういう覚え方か。でも、まぁ・・・その榊だ」
そっか。榊くんのお姉さんが榊さんだったんですね。
「えへへ。久しぶりですね。元気でしたか?」
「あ、お、ぉぅ」
榊くんは顔が赤くなってうつむいてしまいました。
あれ?さっきまで近くにいた榊さんがいません。
「あ、あのさ・・・美浜って今・・・つきあってるヤツとかいるか?」
「え?あ・・・」
お兄さん。
あ、あれ?どうしてお兄さんの顔が。
「い、居ません」
「そ、そうなのか。えっと、あっと・・・なんていうか・・・あのな」
「ん?」
何の用事なのでしょう。
「あのさ。お、俺と・・・付き合ってくれないか?」
「え!?・・・えぇぇぇぇぇ!?
付き合うって、あの、それは、遊びに行くとか・・・あのあの。
「へ、返事はすぐじゃなくていいんだ。あ、ご、ごめんな。じゃあ、またな」
「あっ」
榊くんが走って行ってしまいました。
・・・私は・・・どうすればいいのでしょう。
−TAKA−
「ただいまぁ。あれ?」
玄関に見慣れない靴がある。
大きさはちよのよりも少し大きい程度。けど、男の子の履くような靴に見える。
「あら、貴洋さんお帰りなさい」
「あ、お母さん。お客さん?」
「えぇ。ちよのボーイフレンドみたいなの。ちよったら、違うって言うけどきっと間違いないわ」
ちよのボーイフレンドか。
「確かにちよにもいてもいい年頃ですものね」
「えぇ。ただ、お父さんがなんて言うか」
心配はしているようだが、娘に彼氏が出来たことの方がうれしいらしい。
顔が笑ったままだ。
ふむ。丁度いいかな。
「お母さん。お話しがあるんですけど」
・・・
俺は部屋に戻って周りを見る。
といっても、ベッドとタンスと机。あとはラジカセなどの小物類しかないのだが。
「ん〜・・・今のベッドとタンスは借り物だからこれをもっていくとして。小物類は処分かな」
そんなことを考えながら俺は携帯電話をとる。
「今日が火曜だから、金曜の午前中までにっていうと時間がもうないな。けど、今はシーズン外だしどこかあるだろ」
手に持った電話帳を机に置いてページをめくる。
さて、今日から忙しくなりそうだな。