「ふぅ。面白かった・・・おっと、もうこんな時間か」
暦が読んでいた本を閉じてベッドの脇に置く。
その側に置かれた時計は午前1時半を示していた。
「さぁ。寝よう」
布団に潜る暦。
と同時にけたたましい電子音が枕元から発せられる。
「ゃっ・・・って、携帯電話か」
ディスプレイには母親の名前が。
Pi。
「もしもし」
『あ、暦・・・起きてたのね。あのね、母さんもう一泊していくことになったから。お父さんによろしく言っておいって」
「はいはい。気をつけてね」
Pi。
電話を切る。
「まったく。明日の朝にでも自分で言えばいいのに」
電話を置いた直後、また着信音が鳴り出す。
またもやディスプレイには母親の名前。
Pi。
「もしもし。どうしたの?今度は何?」
暦が少しぶっきらぼうに話しかける。
しかし、今度は母親の声は返ってこない。
「もしもし?もしもし?」
『・・・ぉぉ〜・・・ぉぉ〜・・・』
「ちょ、お母さん。イタズラはやめてよ」
Pi。
電話を切って枕元に置く。
「さっき読んでた本を思い出しちゃったじゃない・・・寝よ」
「・・・おはよ」
「おはよ〜って、うわ!?よみ!どうした?目の下が真っ黒だ?」
翌日、通学路で智に出会う暦。
暦は目が充血して、その目の下もくぼんだようなクマが出来ていた。
「ふわぁぁぁ。うちの馬鹿親のせいで眠れなくてさ」
「なんだそりゃ」
半分寝ながら登校する暦。
「昨日から、5回も親が変な電話してくるから寝るに練れなかったんだ」
「変な電話?」
「そ。なんか、うめき声みたいな声。ほら」
携帯の着信履歴を智に見せる。
そこには、母親の名前が6件並んでいる。
2件目以降の5件はきっちり1時間おきだ。
1時半から5時半までの5回。それ以降はまったくかかって来ていない。
「きっとこの5時半で力尽きて寝ちゃったんでしょ。まったく、娘は学校だっていうのに遊びに行って私に迷惑かけるなっての」
「よみのお母さんってそんなことする人だったっけ?」
「普段はしないけど・・・お酒でも飲んでたんじゃない?」
智が腕を組んで何かを考える。
「あれ?そういう話どっかで・・・あっ。映画だ映画」
「映画?」
「この前みたホラー映画。知り合いから7回の変な着信があって、8回目の着信で地獄に引きづられて行くっていうやつ」
「それって、エイトコール?」
「そうそう。なんだ、よみも知ってるんだ」
「昨日、本で読んだんだ・・・そうだよな。似てるよな・・・なんで、忘れてたんだろ」
エイトコール。
昨夜、暦が読んでいたホラー小説。
大まかな内容は智が言ったとおりの内容。
暦が本の内容と自分を重ね合わせる。
「・・・どうしよう。すごく似てる」
「よ、よみさん・・・大丈夫ですか?」
青ざめた顔で教室にはいった暦。
異変に気づいたちよたちは、理由を聞いた。
「あ、うん。多分、お母さんたちもその映画か小説を見てやったイタズラだと思うから」
「やなイタズラやなぁ・・・でもな。6回目はかかってきぃひんやろ?ならどっちにしろあきらめたんとちゃうん?」
「確か、映画でもそうなんだよ。主人公の所には最初に5回、親しい人の名前でかかってくるんだ。で、それからしばらくかかってこない」
智があらすじを話し始める。
ちよも大阪も榊もそれを聞く。
「主人公が安心したとたんに6回目の電話がかかってくるんだ。そして、7回目8回目は」
「あのあの。電源切っておけばいいんじゃないですか?」
「映画だと、電源切ったり捨ててもダメだったけど。イタズラならそれで防げるな」
「そっか・・・うん。そうしておくよ」
暦が携帯電話を取り出し電源を切る。
念のために電池すらもはずしておいた。
「よみのお母さん明日帰ってくるんだろ?明日までそうしておいて、帰ってきたら聞いてみればいいじゃん」
「うん・・・ふぅ」
よみが少し安心したのか安堵のため息をつく。
それとほぼ同時だった。
机の上に置いた携帯電話。
電池がはずされているにも関わらず、着信音がなり響く。
「うそ」
「・・・冗談だよな。よみ」
Pi。
「え?」
携帯電話が勝手に通話状態へと変わる。
『ぉ〜・・・ぉ〜・・・ぉぉぉぉ!!』
Pi。
智が携帯を取り上げ、切断ボタン押す。
「き、きっとこの携帯自体がイタズラなんだ・・・よみのお母さんもずいぶんと手の込んだことするなぁ」
暦の顔が青ざめた物へと変わる。
「よみ!よみ!!大丈夫だって。な。イタズラだよイタズラ」
「でも!!」
再度の着信。7回目だ。
着信音を聞くと同時に暦はその場に倒れる。
「よみ!!よみ!!」
「っく!」
榊が携帯電話を手に取り真ん中で割る。
着信音はそこで途切れた。
「水原さんには後で私が弁償する」
そのままそれを床に置いて机の足で何度も叩き潰す。
「・・・榊さん」
「榊ちゃん過激・・・でも、たしかにこれならもう平気そうだな」
「そや。そのまま焼却炉の中にもってこ」
「大阪ナイスアイディア。丁度もうすぐ火を入れる時間だしな。私が捨てに行くから榊ちゃんはよみをお願い」
「わかった」
・・・・・・・・
「んっ・・・あれ?ここ」
暦が目を覚ました場所は保健室だった。
「そうか。私・・・倒れて」
聞き覚えのある電子音。
枕元に置かれていた暦の携帯電話から着信音が鳴り出した。
「・・・ぁ。ぁぁっ」
ディスプレイに映る母親の名前。
直後、保健室の机の上の電話までもが鳴り出す。
いや、それだけではない学校中の電話がなっているのではないかというくらい、様々な電子音が暦の周りで鳴り響いていた。
Pi
また勝手に通話状態へと変わる。
『・・・繋がった・・・』
携帯電話からはうめき声は聞こえずただそれだけ。
そして、顔を上げた暦の目の前には、一人の女性が立っていた。
「お母・・・さん」
顔面は血に濡れ、右手には巨大な鎌が握られている。
そして、その鎌は・・・
大阪と智が焼却炉から保健室に向かう。
「あんな。その映画最後どうなるん?主人公助かるんか?」
「それがわかんないんだよね」
「わかんないてどういうことや?」
「最後に主人公の恋人が目の前に現れて、巨大な鎌を振り下ろすシーンで終わるんだ。まぁ、死んだんだと思うんだけど」
智が顔を上げながら言う。
「でさ、実は、主人公の恋人も同じように死んでるんだよね」
「ん?」
「映画の中で語れたわけじゃないから憶測なんだけど、この呪いかなにかで死んだ人間の携帯電話の電話帳から次のターゲットが」
「いややなぁ。それ、いつか携帯持ってる人間が全員死ぬやんか」
二人で救いようのない話だなと考えながら廊下を進む。
その時、智のスカートのポケットから電子音が鳴り出す。
「誰だろ」
携帯電話のディスプレイ。
そこにはこう書かれていた『水原暦』と。