「榊さんは私が好き・・・嫌い・・・好き・・・嫌い」
 学校の中庭。
 一人の少女が花壇の前にいる。名前はかおり。
 どうやら花占いの最中らしい。
 彼女の足元には大量の花びらのなくなった花が捨てられていた。
「・・・嫌い・・・あうぅ・・・何回やってもダメだ〜」
 かおりが頭を抱える。
 クラスメートである、憧れの榊さんとの占いは『嫌い』で終わってしまっているようだ。
「えぇぃ・・・もう一回」
 花壇に埋まっていた花を一輪摘む。
 そして、花びらを一枚・・・また一枚とむしってゆく。
「あぁぁ。まただめだぁぁ・・・えぇい、次」
 花を投げ捨ててもう一輪に手をかける。
「あ?はれ・・・」
 だが、手をかけた瞬間、かおりの目の前が真っ暗になり意識を失ってしまった。

「ん・・・あ。あれ?ここ・・・どこだろう」
 次にかおりが目を覚ましたときは、いつもとは違った感覚にとらわれていた。
 身体がまったく動かない。
 視線は常に上を向いている。
 どうやら花壇の中らしく、視界の中には花壇の花々がかすかにはいってくる。
「どうしたんだろ・・・私」
 意識も少しぼやけていて曖昧だ。
 その彼女に向かって誰かが近づいてくる。
「かおりさん・・・心配ですね」
「あぁ・・・うん、そうだな」
 近づいてくるのは二人。
 かおりのクラスメートのちよと榊だ。
 かおりも声でそれと気づく。
「あ、榊さ〜ん」
 かおりが声をあげる。
「もう、行方不明になって1週間・・・警察も手がかりを見つけていないらしい」
「1週間・・・かおりさん・・・もう」
 だが、榊もちよもかおりに気づかない。
 二人はもう花壇のすぐそば、今はかおりの視界にもかすかにその姿は入ってきているのにだ。
「榊さん!榊さん!!行方不明って、私はここにいますよ」
 かおりが必死で叫ぶが、二人はやはり気づかない。
「・・・どうして・・・私・・・一体」
「ここ、かおりさんがよく花占いをしていた場所でしたよね」
「うん」
 ちよと榊が花壇の前でしゃがむ。
 かおりの視界いっぱいに二人の姿がうつっている。
「榊さん!ちよちゃん!!何で?どうして私に気づかないの?」
 身体を動かそうとするが一向に動く気配はない。
「・・・花占い。してみましょうか」
「うん。神頼みも・・・いいかもしれない」
 ちよのちいさな手が、徐々にかおりに近づいてくる。
 ちいさいはずのその手は、かおりにはとても巨大に見えた。
「!?っっっ・・・」
 突然、かおりの足元に痛みがはしる。
 といっても、顔が動くわけではないのではっきりとは見えないのだが、感覚的にそう感じる。
 その痛みは、まるで彼女の脚のひざから下がちぎれたような、激しい痛みだ。
「ぁっくっ」
 痛みで声が出ない。
「かおりさんが」
 再度、ちよの手が近づく。
「いや・・・やめて・・・」
 恐怖に震え、そう懇願するがちよには届かない。
「戻ってくる」
 ちよの手が花びらを一枚むしる。
「いやゃぁぁぁぁぁ」
 同時に香りの手の指に鋭い痛みが走る。
「ぅっ・・・ぅっ・・・なんで・・・」
「ちよちゃん、私もやるよ」
 今度は視界のすみから榊の手が近づいてくる。
「ダメ・・・榊さん・・・ダメです」
「戻ってこない・・・戻ってくる」
 榊が連続で二枚の花びらをむしり取った。
「か・・・ぁ・・・」 
 痛みでもう叫びも出ない。
「戻ってこない・・・戻ってくる」
 ちよと榊は次々と花びらをむしる。
 徐々にかおりの精神は痛みと恐怖が麻痺しはじめていた。
「戻ってこない・・・あぁ・・・終わっちゃいました」
 最後の一枚をちよが取る。
 かおりの精神は崩壊寸前・・・いや、もう崩壊しているのかもしれない。
 痛みは感じているが、これで終わったことに安堵している彼女がいる。
「どうしましょう?」
「もう一回やらないか?」
「そうですね」
 ちよが花を捨て、別な花に手を当てる。
 同時に、かおりの脚にちよの手が触れる感覚。
「えっ?」
「お花さん、ごめんなさい」
 ちよが花を摘むとかおりの脚にはまた激痛が。
「い、いやぁぁぁぁ・・・」




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