「あんな、ともちゃん」
「なんだよ」
「私、きゅうけつきやねん」
智は大阪を無視してパンを食べ始める。
一緒にいたちよや暦、榊、神楽も同じだ。
「なんで無視するん」
「あのなぁ。お前みたいにポケポケした吸血鬼がいるわけないだろ」
「それに、真っ昼間に屋上で弁当を食べる吸血鬼も居ないと思うぞ」
「今日は快晴で太陽が気持ちいですからねぇ」
「・・・春日さんのお弁当の餃子に、にんにく入ってる」
「ダメダメじゃん」
5人は明らかに完全否定だ。
「真祖には関係ないんや・・・しゃあない。なら見せたる!!」
すっくと大阪が立ち上がる。
その手にはどこから取り出したのか、裏地の赤い真っ黒なマントが。
マントを羽織り、目を瞑る大阪。
「大阪さ〜ん。お昼休み終わっちゃ・・・えぇぇ!?」
急に空が暗くなる。
分厚い雲で辺りが覆われる。
そして、彼女たちの周りにはただならぬ雰囲気が。
「おお・・・さか?」
大阪の髪の色が徐々に美しい金色へと変わり、長さも腰までとなる。
「・・・くっくっく・・・あ〜っはっはっはっは!!」
マントを翻し大阪は4人の方を向く。
その目は紅く染まり、口には牙が見え隠れしている。
高笑いに呼応するかのように校庭に落ちる雷。
「きゃぁぁ」
「大丈夫・・・大丈夫」
榊はちよを抱きしめる。
「大阪・・・なのか?」
「大阪?私は吸血鬼。吸血鬼のアユムンジェリン・A・K・マクダウェル」
5人の前でアユムと名乗る吸血鬼が高笑いを始める。
「・・・見つけた・・・・・・斬空掌!!」
榊が立ち上がりざま腕を高く上げる。
そして、高く上げた腕を一気に振り下ろした。
彼女の腕から発せられる衝撃波。
「ふっ」
アユムが右手を前に出すと、直撃したはずの衝撃波は一瞬で掻き消える。
「神鳴流か。無手で出せるとはなかなかの手練れ」
「さ、榊さん?」
ちよが榊を見上げる。
眼を瞑り精神統一をする榊。彼女の左手には鞘に収められた一本の日本刀が握られていた。
「京都神鳴流剣士。榊素子・・・参る!」
右手で刀を抜き、アユムとの距離を一気につめる榊。
「神鳴流奥義・・・斬岩剣!!」
榊がまるで演舞を見ているかのような滑らかな動きで刀を振るう。
その切っ先から青白い不思議な光が放たれる。
「甘い」
しかし、刀がアユムの体に届く直前、彼女は半身をそらし一歩踏み込んだ。
「私を倒すにはまだ力が足りないようだな」
榊の眼前で微笑むアユム。
彼女の口からは小鳥のさえずりのような流れる声が。
−lic lac la lac lilac−
突如激しい雷撃が榊を襲う。
「よみちゃん!」
「はい!」
神楽の声に呼応するかのように、暦が立ち上がる。
吹き飛んでくる榊を受け止める暦。
「え?・・・よみ?神楽?」
立ち上がった二人をキョロキョロと見る智。
「姉さんはいないけど、仲人さんのために頑張ります!」
「とも。ちよちゃん・・・驚かせてごめん。僕は神楽仲人・・・本当は男なんだ」
神楽が着ていたシャツを脱ぐと、なぜかその下には水干と呼ばれる和服。
胸は無い。
「すまない。水原」
暦は抱きとめた榊をその場に立たせる。
「よみちゃん。榊・・・行こう!」
「了解しました!!」
「承知」
暦と榊がアユムに向かってファイティングポーズをとる。
「ほぅ。鋼鉄天使とその術者か・・・面白い・・・とも・・・アンタもそろそろ正体を現したらどうだい?」
「あちゃー・・・ばれてた?他は誰も気づいてなかったんだけど」
残念そうな顔でアユムを見る智。
「もうちょっと楽できると思ってたけど、だめだったわさ」
「わさ?と、ともちゃ〜ん!?」
しかし、一向に立ち上がる気配は見せない。
「私は戦闘向きじゃないから、それはまかせるだわさ。まぁ、怪我の治療は任せなさい」
今からすることを楽しい遊びのように待ち望むアユム。
排除すべき敵として真剣にかかる榊・神楽・暦。
まるで、スポーツでも観戦するかのようにのんびりしている智。
そして、一人取り残されワタワタとアユムと暦たちを見ているちよ。
雷の一閃と共に戦いの火蓋は切って落とされたのだった。
続く。
「続きませんのだ!!」