あの日、茜は帰ってこなかった。
俺は夕方まで駅で待ったが、連絡すらなかった。
きっと、あの相馬という男と何かあったのは間違いなさそうだ。。
そして、あの日から一度も茜とは連絡をとりあっていない。
「和輝、今日は登校日でしょ?起きないの?」
部屋の外からお袋の声がする。
あ、そうか。
さすがに今日は卒業式前日の登校日か・・・
「休む」
「そう、明日はちゃんといきなさいよ」
学校には行きたくない。
茜に会いたくないから。
今日までが自主登校でよかったとすら思う。
明日も極力茜を避けて行動するか。
「ふぅ」
かといって、家にいても体がなまる。
出かけよう。
俺は電車でとなりのきらめき市にやってきてた。
ここなら茜に会う心配もないしな。
来たのはいいけど、やる気でないな。
「おい」
誰かが俺の肩をつかむ。
返事するのも億劫だから、顔だけをそちらに向ける。
誰だ?
見たことの無い男たちが数人。
「お前、ひびきのの牧だな?」
「だったら?」
男の一人が顔で向こうへ行けと合図する。
その先は人気の無い路地裏。
いや、今は人気がないが、時機にこいつらの仲間が増えてくるだろう。
俺は何も考えず男たちの誘いに乗る。
どうせ、もう守るものも何もないんだ、なら。
「死ね!!]
俺は背後から不意をついてきた男の腕を取って、コンクリートの壁目掛けて投げつける。
それが、開始の合図となった。
「雨・・・か」
俺の体からは血が流れている。
頭や腕、脚。
服はナイフで切られボロボロだし、顔も腫れているだろう。
だが、俺の足元には20人近い男たちが倒れている。
俺の体を雨が洗い流す。
出来ることなら俺自身も・・・洗い流して欲しい。
・・・
どれくらい雨のの中をたたづんでいただろうか。
男どもが目を覚まし、俺の顔を見るなり逃げ出していく。
人を化け物扱いしやがって。
「和輝くん」
俺はその声にハッとなる。
後ろを振り向けば、そこには俺が今一番会いたくない人の姿があった。
雨の中、傘も差さずにたっている茜。
「ほむらの友達にきらめき高校の子がいるの。その人がほむらに教えてくれたんだって・・・」
運が悪いというかなんというか。
俺は茜の顔を見ないようにその横を通り過ぎる。
「・・・和輝・・っく・・・くん。ボク・・ひっく・・明日の卒業式・・・っ・・出れないんだ・・・」
茜の声が嗚咽にまみれる。
「結婚・・・させられちゃうの・・・ひっく・・・んっく」
結婚?
あの相馬とだろうか。
「そうか」
「・・・それ・・・だけなの?」
「それ以上に俺に言うべき言葉はないだろう・・・おめでとう」
俺の後ろで水の跳ねる音がする。
俺の背に触れる懐かしい感触。
「っく・・・ごめん・・・ね・・・会いに行きたかったけど・・・今まで、行けなくて・・・」
「風邪引くぞ・・・明日は大事な日・・・なんだろう」
俺は本心とは別な言葉が、先ほどから口に出る。
いや、本心なんて本当はわからない。
今の俺には何をすればいいのかも、何を思っているのかも。
茜が俺から離れる。
「ばい・・・・・ばい」
俺とは逆方向に走り出す茜。
俺は走り去る彼女を追いかけることができなかった。