「おい!牧和輝」
「あん?・・・えと・・・ポチタマ番長だっけ?」
「誰が犬と猫じゃぁぁ!」
 高校生活最後の春休み。
 今日は、茜も用事があるらしくて久しぶりに一人でフラフラとショッピングセンターを見て回ってるところだ。
 そんな午後のだらけた雰囲気の中にあつっくるしいやつがやってきた。
「冗談だ。火の玉番長。んで、どうした?」
「お、おう。そうだった。大変なんだ」
「だから何がどう大変なんだ」
 どうせこいつのことだ、ろくでも無いようなことを大げさにしている可能性がる。
 お、意外と4人目の番長との決闘が決まったか?
「姉さんがさらわれたんだ!」
「お前の姉さんがどうしたって?」
「違う違う!姉さんだ!総番長の妹の」
 総番長の妹?だけど、こいつの姉?ややこやしいなぁ。
 ・・・なに!?
「茜がさらわれただと!?」
 総番長の妹って茜のことじゃねぇか。
「だからそう言ってるだろ」
「お前らの言い方は回りくどいんだよ!んで、どこだ!!」
「総番長のところに文が届いた。それによれば、北地区の廃工場だ!」
 俺は場所を聞いたとたんに走り出した。
「お、おい!」
 ここからなら急げば5分。近場だったのが不幸中の幸いだな。
 それにしても、あの廃工場まだあったのか。俺がガキの頃もあったはずだぞ?
 いいかげん取り壊さないと危ないだろ。
 まぁ、今はそんなことはどうでもいい・・・茜。待ってろよ。


 廃工場は高い塀に囲まれている。
 その正門の方がなにやら騒がしい。
「ぬぉぉぉぉ!!茜ぇぇぇぇぇ!!!」
 ・・・茜の兄貴か。
 ま、ならほっておいても大丈夫だな。
 今なら他の入り口は手薄だな。俺は裏口から入らせてもらうぜ。
 昔、遊びに来てたおかげで助かったぜ。
「っと」
 俺は裏口を飛び越える。
 ガキの頃に何度も遊んだ場所へと足を踏み入れた。
「茜!!いるか!!!・・・が、返事はなし」
 別な部屋なのか、それとも声が出せない状態なのか。
 工場とはいってもほとんど壊れかけで、この建物以外に入るのは危ないはずなんだけどな。
「・・・くん・・・ずきくん」
 茜の声?
 かすかにだけど聞こえる。
 この建物だけは無駄に頑丈にできてて、ほとんど音が外に漏れないんだよなぁ。
 ったく、声のするの方のドアをかたっぱりしから開けてやる!
「茜!」
「和輝くん!」
 1発大当たり。さすが俺。
 この部屋はどうやら倉庫かなにかに使われていたらしく、あちらこちらに色々なものがつみあがっていた。
 茜が座っている周りには有刺鉄線の柵。積み上げられたガラクタの中にも同じ物が見える。
 じっとしていれば大丈夫なんだろうけど、あれじゃあ身動きが取れないはずだ・・・酷いことをしやがる。
「大丈夫か?何もされてないか?」
「え・・・あ。うん・・・」
 最初は笑顔だった茜の顔が徐々に暗くなる。
「・・・茜?」
「ううん・・・なんでも・・・ない」
 茜。
「誰?キミ・・・僕らの仲間・・・じゃないよね」
 俺が部屋に入ってきたドアから誰か別の男が入ってきた。
 こいつ・・・確か。
「数馬くん!ダメ・・・数馬くんじゃ和輝くんには」
「茜ちゃん。僕の名前を思い出してくれたんだ・・・すごく嬉しいよ」
 なに?
 数馬くん?茜ちゃん?
「茜・・・誰だこいつ?」
「キミ。僕の茜ちゃんに対してなれなれしいぞ。僕は茜ちゃんの運命の男性なのさ」
 運命って。こいつ先月茜の家を覗いてたヤツだよな。
「運命だかなんだか知らないが・・・じゃまするなら、ぶっ飛ばす!」
「あっ・・・ダメ・・・和輝くん」
「茜?この男をかばうのか?」
 茜は顔をそむける。
 先ほどから俺の顔を見ようともしない。
「ふふん。茜ちゃんもわかってくれたみたいだね。さぁ、キミは帰るんだ」
「っと」
 呆けていた俺は、不覚にもこの数馬と呼ばれた男に押されてよろけてしまった。
 だが、別に力が強いわけでもない。戦ったら絶対に勝つ自身が俺にはある。
 茜・・・どうして。
「・・・ごめんね・・・和輝くん・・・ボク・・・一緒には帰れない」
 俺は目の前が真っ暗になった。
 何も考えれないほどに。
「さぁ、茜ちゃん。俺と一緒にっと」
 男が何かにつまずきバランスを崩す。
 俺は目を疑った。
 男がバランスを崩したときにとっさに触れたのはバランスの悪そうに積み上げられたガラクタ。
 その直後、俺たちの周りにある物がかすかにゆれだした。
「茜ちゃん逃げて!」
 微妙なバランスで積みあがっていたガラクタは今にも崩れ落ちそうだ。
「あ・・・」
「逃げれるわけ無いだろ!茜の周りには有刺鉄線が張られてるんだぞ」
 まずい。崩れる。
「茜!!」
 俺は何も考えずに茜に飛びついた。
 無理矢理有刺鉄線をを引きちぎり、茜の体を俺の体ですっぽりと包み込む。
「うっ・・・うわぁぁ」
 男は一目散に部屋を出た。
 同時に、俺の背中や頭に降りかかるガラクタ。
 鉄のバケツやら何かのガラス片やら、それこそ有刺鉄線まで降ってきた。
 あまり重いものが無かったのが幸いしたな。
 崩れ落ちるのは一瞬だった。
 ただ、舞い上がった埃や塵が収まるまで数分かかってしまったが。
「大丈夫か?茜」
 俺の腕の中で茜が顔だけを出す。
「う、うん。和輝くん・・・あっ・・・血が」
 頭から暖かいものが滴り落ちる。
「わりぃ。俺の血で服をよごしちまって」
「バカ!なんで・・・」
 俺は辺りが落ち着いたのを見計らって立ち上がる。
「決まってるだろ。お前のためだ」
 俺は茜を抱き上げ部屋を出る。
「あ、茜ちゃん。大丈夫だったんだ。よかったぁ」
 茜を床に下ろし、俺は男を殴った。
 血が足りなかったことに感謝するんだな・・・万全なら殺してたかもしれない。
「・・・な、何をするんだ」
「何じゃねえだろ!茜が好きなら、彼女を守りやがれ!!一人で逃げるなんて男の風上にもおけねぇ!!」
 俺もその場に腰を下ろす。
 血を流しすぎたうえに、声をはりあげるのはシンドイ
「和輝くん」
「お、おい。服」
「いいの。もう喋らないで」
 茜は自分の服の裾をちぎると、包帯代わりに俺の頭に巻いてくれる。
「・・・ありがとう」
「礼を言うのはボクの方だよ・・・あんなこと言ったのに」
「何と言われようと・・・俺には・・・茜だけだ」
 茜が立ち上がる。
 そして、呆けているあの男の前に立つ。
「やっぱりボクが好きなのは」
 茜が振り返り、俺にキスをする。
 俺のほうも急だったせいであっけにとられてしまった。
「ボクは和輝くんが好き・・・だから・・・キミが昔のあの時の男の子だとしても・・・ごめんなさい」
「茜ちゃん」
 昔のあの時の男の子??
「それって8年前のか?」
「え?うん・・・あの話は・・・和輝くんじゃなくて、この数馬」
「ちょっと待て!アレは俺だぞ?商店街で重いキャベツもってやった記憶もあるし」
「あ・・・そういえば」
 俺と茜はそろって数馬の方を見る。
 数馬自信も困惑しているせいなのか、俺と茜の顔を見比べる。
「お前の言ってる8年前の茜ちゃんってどんな子なんだ?」
「え・・・あっと・・・元気がよくて男勝りで」
 元気だってのは認めるけど・・・男勝り?
「あ、これは覚えてるよね!僕が犬に追いかけられてたときに、ドラゴンキックで助けてくれたじゃないか」
「ドラゴン?」
「キックぅ・・・どっかで聞いたことあるな」
 あっ。
 俺の頭の中にはウチの学校の生徒会長が浮かぶ。
 茜の方を見ると、どうやら茜も気づいたらしい・・・
「赤井だな」
「ほむらだね」
 俺と茜が同時に言葉を発する。
「え?」
「赤井ほむら。お前の出会った女の子は茜じゃねぇよ」
「うん。間違いないね」


 俺たちは数馬に赤井のことを説明した。
 説明と彼の頭の中の茜像が一致していたらしく、茜に何度も謝った。
 まぁ、今度、赤井に数馬を紹介するってことで今日は別れることになった。
 アイツのおかげで茜が他の男どもに触られなかったって事実があるみたいだしな。
 まぁ、罪を憎んで人を憎まずだ・・・違うか。
「あのね」
「ん?」
「ごめんなさい。少しでも和輝くんを別人だと」
 今は茜を家まで送る途中。
 日が落ちて辺りが暗くなってきた頃合。
「いいよ別に」
「でも」
「いいんだって・・・茜の気持ちもしれたし」
 茜は俺のことを好きだって言ってくれた。
 それが単純に嬉しかった。
 初めて・・・言われたから。
「う、うん。でも、和輝くんも・・・言ってくれたから」
「へ?俺・・・言ったけ?」
「え・・・ちゃんとは言ってないけど・・・そうなのかなって。違うの?」
 まぁ、好きなんだけど。
 こうやって言うのは気恥ずかしいよなぁ。
 あぁ・・・でも、今しか言う機会はないかもしれないし。
「・・・違わない・・・好きだ」
「和輝くん」
 茜のぬくもり。
 茜の声。
 茜の全てが俺の大切なもの。
「和輝くん・・・ボクを離さないでね」

 
 

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