俺が負けた決闘から1週間が過ぎた。
山ごもりしたと言っても、一朝一夕で力がついたり、必殺技を編み出せたわけじゃない。
が、俺に必要なのは身体能力よりも精神的な力だ。
おごりのない、正真正銘の俺本来の力。
「来たな」
「待たせたか?」
俺が1週間前に負けた場所。
そこにはすでにあの男が立っていた。
神田秋葉。
「いや。俺は佐々木小次郎とは違う。気にするな」
「別にじらすような作戦じゃないんだけどな」
俺は山を降りたその足で、まっすぐここに向かってきた。
家にも茜のところにも寄らずに。
茜には一度顔を見せて欲しいと言われていたが、今は授業中だ。茜には悪いが破らせてもらった。
「・・・ふっ。いい顔になった」
俺は何も言わずに構えをとる。
前回の戦いで、ヤツの攻撃は一撃必殺型だということがわかった。
ならば、一撃目をかわして懐に飛び込むことが出来れば俺の勝ちだ。
相手の動きを見るためにはどこを見ればよいか。
一般的には目と言われているが、相手が場慣れしていればフェイントを入れてくる可能性は高い。
ならば呼吸。そして、剥き出しの腕の筋肉。
力を出すために息を吸いながら行動をとる人間はいない。
必ず、息を止めるか吐き出すはずだ。つまりは、行動の前には必ず鋭い呼吸を行う。
その一点がわかれば。
「・・・ふっ」
番長の鋭い呼吸と共に腕の筋肉がかすかに動く。
来る。
俺はその動きに合わせて前に出た。
上半身を半身ひねり、振り下ろされる木刀を紙一重でかわす。
「!?」
足元に寒気が走る。
俺はとっさに後ろに飛び跳ね距離を開ける。
刹那、俺の鼻先を木刀が掠める。
振り下ろした直後の切り上げ。
気づくのが遅ければ、腹か顎が打たれていたはずだ。
「よく避けたな」
俺の背中には冷や汗がにじむ。
一撃必殺なんてのは俺の思い違いだ。
あんな技が、それこそ一撃必殺を信条としている奴にできるわけがない。
前回の戦いで見せたあの力を持ちながら、実は技巧派とは・・・恐れ入ったぜ。
「かかってこないのか?」
「いくさ・・・アンタが隙を見せたらな」
軽口を叩いて見せるが、俺は心を落ち着けるので精一杯だった。
隙なんて全く無い。
逆に、俺が隙を見せないようにするので全神経を使い切ってしまいそうだ。
「この前よりは気迫も集中力もあるようだが、力の差はまだまだ歴然としているようだな」
力の差。
俺の力はこの程度なのか?
俺は本当に全ての力を出し切ったのか?
俺は・・・
「むっ」
・・・俺はまだこの程度じゃない!
「まだやるつもりか?」
「あたりまえだ。俺がお前を倒すまでな!」
隙が無いなら作ればいい。
木刀が何度も飛んでくるなら、全てかわしてやる!
「ふっ・・・笑止!」
番長は先ほど以上のスピードで木刀を振り下ろす。
それを紙一重で避けると同時に、今度は下からの切り上げ。
「くっ」
それも避ける。
間合いを開けずに、全てを紙一重で避けていればいつかは隙が出来る。
それこそ、密着した状態なら小細工は出来ないはずだ。
切っ先を見切れば避けれないものではない。
・・・何度ヤツの剣を避けたかわからない。
が、一つだけはっきりしたことがある。
ヤツの剣の動きが鈍くなった。
これならば・・・
「こういうことも可能だ!!」
俺は振り下ろされた木刀を両手で挟む。
俗に言う、真剣白刃取りだ。まぁ、真剣でも白刃でも無いが。
「ようやく、捕まえたぜ」
番長の動きが止まる。
だが、とっさに木刀から手を離し間合いを取ろうと下がる。
「逃がさねぇ!」
俺は木刀から手を離し、右拳を握り締める。
そして、ヤツが下がった一歩分だけ踏み込み、鳩尾への一撃を放つ。
「ぐっ」
追い討ちのごとく、俺の上段回し蹴りを側頭部に叩き込む。
番長は数メートル吹き飛び、うつぶせに倒れる。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・俺の勝ちだな」
はっきり言って俺ももうバテ気味だ。
高速で四方八方から打ち付けてくる木刀。
それを紙一重でよけていたのだからあたりまえと言えばあたりまえか。
「ふっ。まさか、これほどとは」
「おいおい・・・起き上がるのかよ」
番長は、起き上がり木刀を拾い上げる。
「ここしばらく、こんな痛みを感じたことはなかった。久しい痛みだ」
「化け物が・・・」
俺の蹴りは確かに手ごたえがあった。
軽い脳震盪をおこしてもおかしくないくらいだったはずなんだけど。
「・・・さすがは姉さんが見込んだ漢」
「っておい!どっち向いてるんだよ」
こいつ起き上がると同時に変な方を向き始めた。
しかも、木刀で支えてやっと立ってるって感じだ。
「・・・まさか」
「ぬお!」
軽く背中を押すと、ヤツはバランスを崩し、激しい水しぶきと共に川の中へと落ちる。
どうやら俺の一撃で平衡感覚を失ったようだ・・・なら無理して立つなよ。
「はぁ・・・ま、これで正真正銘、俺の勝ちだな」
あれ?番長が浮いてこない。
ここってそんなに深い川だっけ?
あ・・・やばい?
「番長!!」
「うぅ。まさか帰ってきてまでも水浸しになるとは・・・」
さみぃ。早く帰ろう。
「ん?あれって・・・」
茜の家は、古くからこのひびきの市にある名家でかなり大きな家だ。
塀も大きくて、昔は何度か中を覗こうとしたっけ。
って、そんな感慨にふけってる場合じゃなくてだ!
誰かが茜の家の塀によじ登っている。
「・・・怪しい」
全身黒ずくめ、というか学生服姿。
それも、短ランでもなければ長ランでもない・・・かといって改造しているようにも見えないし。
どっからどうみても、普通の学生だ。
そりゃ、全身ずぶ濡れの俺も十分怪しい人だが、アイツほどではない。
「おい」
「ちぃっ!」
うぉ。
俺が声をかけると、塀から飛び降りてどっかに走っていってしまった。
足はぇ・・・
にしてもなんだったんだ?あの男。
うちの学校の生徒か?
「あれ?和輝くん・・・どうしたのそんな濡れ鼠になって」
「ん?寒中水泳」
後ろから声をかけられたが、振り向かなくてもわかる。茜だ。
「・・・ひょっとして、神田さんに?」
おっと、振り向くと泣きそうな顔の茜が。
「んや。逆だ。負けてたらこんなところにいるわけ無いだろ」
「・・・そっか・・・でも・・・」
「ん?」
茜が近づいてくる。
そして、そのまま俺を抱きしめる。
「お、おい!お前も濡れるぞ」
「・・・無茶・・・しないでね」
うっ。
顔は見えないけど、多分泣いてる・・・よな。
はぁ。俺としたことが。また茜を泣かせてしまうとは。
「約束する。大丈夫だ」
「絶対?」
「あぁ、絶対」
上げた顔の頬にうっすらと涙の跡。
「・・・約束・・・したからね」
「お、おう。っと、そろそろ帰らないと。親父とお袋も待ってるし」
「うん。またね」
「あぁ、明日・・・学校の前でな」
俺は茜の頬にキスをする。
本当ならずっと一緒にいたいんだけど。
そういうわけにもいかないからな。
さてと。
残すは四天王最後の一人と茜の兄の総番長だけだ!
総番長!首を洗って待ってろよ!!