えっと、お肉にお野菜。それに、お魚。
よし、買い物終了っと。
さ、早く帰って晩御飯を作らなくっちゃ。
「あ、和輝くん。お〜・・・あ、バスに乗っちゃった」
どこかに行くのかな?
もう夕方なのに。
って、ボクもこんなことしてる場合じゃなかったよ。
早く帰らないとお兄ちゃんがお腹すかせちゃう。
「姉さん。お帰りですか」
「ん?あ、神田さん。うん。お兄ちゃんのご飯作ってあげないと」
「荷物、持ちますよ」
「あ、ありがと」
神田さんは不良たちの中でも常識あるほうかな。
まぁ、見た目はアレだけど。
でも、気が利くし結構優しいし。
クールって言うのかな?いつも冷静で無口なんだよね。
「あれ?神田さん、怪我してる。珍しい」
「ん?・・・ほぅ」
お腹のところが、まぁ怪我っていっても、少し赤くなってるだけだけど。
でも、神田さんに怪我をさせれるとしたら・・・お兄ちゃんくらいだと思うんだけど。
「姉さんは気にしないでいいですよ。さっさと帰らないと、番長がご立腹になりますぜ」
「はっ。そうだった!急がないと」
「遅いなぁ」
いつものように校門の前で和輝君を待つ。
待つ。待つ。待つ・・・・・・こない!
もうすぐチャイムなっちゃうよ。
「一文字、何してんだ?遅刻するぞ」
2階の窓から担任の海老原先生が顔を出している。
「えっと、かず・・・牧くんを待って」
「牧?あいつは今日は休みだぞ。さっき親御さんから連絡があったぞ。インフルエンザだとよ」
休み?
でも、昨日バスに乗ってどっかに・・・
「ほらほら、呆けてないで早く教室に入れ」
う〜ん。
今日、お見舞いでも行ってこようかな。
はっ。チャイムが!?
本当にもう。休むなら休むってちゃんと言ってよね。
「お。家に何の用かい?お嬢ちゃん」
へ?
和輝くんの家のチャイムを押そうとしたら、いきなり背後から声をかけられた。
誰だろう、この男の人。
学校の先生・・・じゃないし。町内会長さん・・・が、声かけてくるわけ無いか。
「あ、あの和輝くんに」
「アイツに用事か。悪いな、しばらく面会謝絶なんだわ」
「え?そんなに具合が悪いんですか!?」
男の人は暗い顔でうつむく。
ま、まさか、癌とか!?
「全身の毛が抜け落ちて、筋肉はやせ細り、歯もボロボロ・・・とてもじゃないが人様に見せれる状態じゃ」
「・・・ウソ・・・」
だって、少なくとも学校ではあんなに元気だったのに。
か・・・和輝・・・くん・・・
やだよ・・・そんなの・・・
「お、おい。何も泣くこたぁ」
だってだって。和輝くんがそんな風になったら・・・涙が止まらないよぉ。
「アンタ。息子の彼女をからかってどうすんだよ」
「え?」
あ、男の人の後ろに立ってる人・・・たしか、和輝くんのお母さん。
「この嬢ちゃん、和輝のコレなのか?」
男の人はバツの悪そうな顔でボクを見ている。
ひょひょっとして、この人って。
「からかってすまんかったな。俺は和輝の親父だ」
からかって?
え?それに親父って。お父さん?
じゃぁ、和輝くんは?
「やれやれ。茜ちゃん。和輝はね、今、家にいないんだよ」
「家にいない?」
「あぁ。ここから北に行ったところに、白露岳って場所があるんだけどな、そこに行ったのさ」
白露岳。たしかに行楽シーズンにはボクもピクニックに行ったことあるけど。
この季節は雪に埋もれて立ち入り禁止のはずだよね。
「でも、どうして?」
「行ってみればわかるさ。白露岳の滝のそばの山小屋にいるはずだからね。ちゃんと暖かい格好していくんだよ」
そう言うと、和輝くんの両親は家の中に入っていく。
ちょうど明日から3連休。
和輝くん。ボクになんの説明も無しで行くなんて。会ったらどうしてあげようかな。
「うぅ。すごい雪」
ボクはピクニックコースを歩いているはずだけど、自信なくなってきたなぁ。
あまりにも雪が多すぎて道が見えないんだもん。
たしかに、これじゃあ立ち入り禁止になるよね。
「えっと、方角はあってるはずだけど」
道沿いに行けば滝の側までいけるけど、道はあってるかわかんないし。
もう、この方位磁石だけが頼りだよ。
「あ・・・水の・・・滝の音だ」
ふぅ、よかったあってたんだ。
これで和輝くんに。
!!?
「きゃぁぁぁぁぁぁ」
落ちる!?雪で崖がわかんなかった。
あぁ・・・ボク・・・もう。
和輝くん・・・・・・ごめんね。
「あれ?」
「茜」
目を開けて上を見上げる。
和輝くん?
「ちょっと待ってろよ」
和輝くんがボクの体をひっぱりあげる。
落ちる瞬間に、ボクの腕を掴んでくれたみたい。
「ふぅ。大丈夫か?」
「あ・・・うん。ありがとう」
もう、頭がパニック状態で何を話せばいいのかわかんないよ。
えっと、えっと。
「なんでお前がここにいるんだ?」
「へ?あ、うん。和輝くんのご両親に」
「・・・・あのおしゃべりどもめ・・・まぁいいや。ここじゃ寒いだろ?山小屋まで行こうぜ」
「うん」
立ち上がって、ボクが落ちかけた崖を見る。
うわ!すごく高い。
下は雪だけど・・・落ちたら怪我じゃすまなかったかも。
「歩けるか?」
「大丈夫だよ。怪我は・・・してないし」
腕や足を振ってみるけど、痛みは感じないし。うん、大丈夫そうだね。
和輝くんは、こんな雪道なのにしっかりとした足取りで先に進む。
ボクが歩きやすいように雪を固めながら。
へへ。優しいなぁ。
「さ、入って」
山小屋は、思ってた通りのかわいらしい感じかな。
10畳くらいの部屋で、奥に暖炉があるの。
結構しっかり出来てて、隙間風とかも無くてあたたかいかな。
「あの」
「話はあとでな。あ、火が消えないように、暖炉に薪をくべといてくれ」
あ、和輝くんが出て行っちゃった。
何してるんだろう。
窓から見えるかな・・・ふぇ!?
うわぁ。滝に打たれてるよ。
「ん〜・・・これはひょっとして、修行ってやつなのかな?」
雪山にこもって滝に打たれたりして。
でも、何で急に。
ん?・・・この白いの包帯?・・・血がついてる。
まさか、和輝くん!
「和輝くん!!」
ダメ。滝の音で聞こえないみたい。
えぇい。女は度胸!
うぅ、冷たぁぁい。よく、こんな中に和輝くんはいれるなぁ。
「か、和輝くん」
「茜?・・・風邪ひくぞ」
くしゅん。
「はい」
「ありがとう」
やっぱり和輝くんはすごいなぁ。
ボクなんてたった数分で真っ青になるくらいに寒かったのに。
ん。ココア、おいしぃ。体の芯からあったまるぅ。
「ごめんね。邪魔、しちゃって」
「あぁ、いや。いいよいいよ。今日はもうあがる予定だったし」
小屋の中には、薪が燃える音とココアをすする音だけ。
あう。
いざ面と向かうと何を言っていいのか。
「・・・・・・あ!そうだ、和輝くん怪我してるでしょ」
「大丈夫大丈夫。もう治ったから」
「ウソ!本当に、和輝くんはいつもそれなんだから」
和輝くんは本当にがまんするんだから。
ちゃんと言ってくれれば手当てするのに。
「はいはい。見せてね」
「ちょ、ちょっと」
怪我はどこかなぁ。
お腹かな?頭・・・じゃないね。さすがに。
えっと。
「これ?」
「ん」
左肩が赤く腫れてる。
でも、これって喧嘩とかで殴られた傷じゃないんだけど・・・
まるで、なにか棒のようなもので殴られたような・・・まさか・・・
「・・・神田さん・・・なんだ」
「うぅ。でも、不意打ちとかじゃないぞ?真っ向からやって受けた傷だ」
神田さんは卑怯なことが嫌いだから、多分そうなんだろうけど。
「でも!和輝くんは素手なんだし」
「いいの。俺たちはスポーツでやってるわけじゃないんだ。だから武器だろうがなんだろうが」
「ボク!お兄ちゃんに言う。言って、こんなことは止めてもらうよ!」
こんなのダメだよ。
和輝くんが・・・和輝くんが。
「茜。いいんだ。これは俺のけじめ、だからな」
「わかんないよ。だって、和輝くんが怪我しちゃうんだよ?ボク・・・そんなのやだよ」
あっ。
和輝くんのからだ・・・あったかい。
「ごめんな。でも、俺は最後までやりとげたいんだ。俺のためにも、茜のためにも」
ボクのために。
「・・・うん・・・もう、負けちゃ・・・ダメだよ」
「もちろん。約束する」
「・・・えへへ・・・泣いちゃった」
「茜・・・可愛いよ」
んっ。
和輝くん・・・大好き。