「・・・一刀だ・・・それで十分終わる」
 俺の目の前に立つ男は、木刀の切っ先を俺の方に向けて立っている。
 決闘。
 まさにその言葉にふさわしい状況と言えよう。
「いくぜ!先手必勝!」
「・・・ふっ」
 お互い同時に飛び出した。


「牧和輝だな・・・本日夕刻・・・空けておけ」
「あ?」
 つぶれて平らになった帽子。無駄に長い長ラン。そして、テーピングされた木刀。
 どこからどう見ても、アイツらの関係者としか思えない。
「番長四天王とやらか?」
「俺の名は神田。神田秋葉・・・木枯らし番長だ」
 四天王ってことは4人いるんだよな。
 筋肉に火の玉に・・・こいつで3人目か。
 一般の不良と違って、こいつらは格が違うからな。
「場所は」
「・・・伊集院大橋の下・・・待っているぞ」
 それだけを言うと木枯らし番長は俺に背を向け去っていく。
 ん〜・・・渋い。
 あんな不良なら、ちょっとあこがれるかも。
「おはよ。どうしたの?ボクが来る方向の逆を眺めて」
「うす。んや。なんでもない」
 茜が俺の隣を歩く。
 通学路が逆方向だから、校門の前で待ち合わせるのが俺たちの朝の決まりだ。
「ん〜・・・怪しい」
「へ?」
 茜が背伸びをして俺の顔を、すぐ目の前で凝視する。
 俺が少しでも顔を傾けると、キスできそうだな。
 でも、さすがに校門の前じゃダメか。
「ま、いっか。さ、いこ」
 茜が俺の手を握って校舎の中へと入っていく。
 まだ、木の芽吹きには早いこの季節。
 俺は背筋に感じた寒気を、そのせいだと勘違いしていた。


「・・・っ」
 俺は声が出せなかった。
 背中に走る激痛。顔に感じる地面の感触。
「やはりその程度か」
 木枯らし番長がつぶやく。
 俺の一撃は紙一重でかわされ、かわしざまに背中への一撃。
 鮮やかだった。
 木枯らし番長が歩き去ろうとする音が聞こえる。
「ま・・・まて」
 声を出すたびに肺が痛む。
「ほぅ」
 無理矢理立ち上がり、番長を睨む。
 素早く攻撃力もあるが絶対ではない。
 こちらの一撃を当てさえすれば勝てる。
「立ち上がったか。君への認識を改めよう。だが、俺には勝てない」
「もう一度だ」
 背中の痛みはすでに限界に達している。
 立っていられるのもあと1、2分。
 攻撃できるのは1回が限度だろう。
「・・・ふぅ・・・ならば、見せてやろう。俺の奥義を」
 木枯らし番長が目を瞑り、神経を集中させている。
 う・・・すごい闘気だ。
「真・不動明王」
 番長の背に何かが見える。
 鬼?いや・・・言葉どおりなら、不動明王。つまりは、仏ってことか?
 まったく。何でもありだな。
「唐竹割りぃぃぃぃ!!」
 袈裟切り。
 肩の辺りから袈裟懸けのように振り下ろす切り方。
 俺は、番長の方へと一歩踏み込む。
 これで威力は半減したはずだ。そして、ここに拳の一撃を・・・
 が!?
「ぐうぅ」
 振り下ろされた木刀。
 俺は肩から左腕がなくなったんじゃないかと言う錯覚を受けた。
 気絶しそうなほどの激痛。
「その程度でこの俺の攻撃を防げると思ったか?」
 俺は全身から汗が吹き出た。
 格が違う。
 いや、格ならば師匠の方が上だろうが、あの人が本気になったことは見たことが無い。
 恐怖。
 初めて感じた感情。
「・・・終わりだ」
 同時に俺は地面にひざを落とした。
 俺がナイフで斬られたあの日もこんな恐怖は感じなかった。
 完全に俺の負けだ。
 だめだ。もう、意識が。
「この程度で、姉さんと付き合うなど・・・それこそ100年早い」
 姉さん?
 茜?・・・茜!!
「まだだ・・・」
 俺は茜のためにも負けるわけには行かない。
 そう。勝負に負けても、心までは折れるわけにはいかないんだ!
「一週間だ・・・一週間後にここで決闘だ」
「・・・よかろう」
 俺はそれだけを聞くとその場に倒れてしまった。


「っっ・・・」
 俺が次に目覚めたときは、自分の部屋のベッドの中だった。
 あれ。何で俺がここに?
 たしか、河川敷で倒れて。あれ、そのまま倒れてたはずなんだけど。
「まぁ、いいか」
 俺はこれから1週間。必要になるものをカバンに詰めた。
 最低限の衣類だけなんだけどな。
 俺はカバンを持つと一階へと階段を下りる。
「お、目が覚めたか」
「親父」
 居間には親父がいた。
 普段、あまり帰ってこない親父だ。珍しい。
「びっくりしたぞ。二ヶ月ぶりに戻ってみたらお前が玄関前で倒れてたんだからな」
「玄関に?」
 誰が運んだんだ?
 木枯らし番長?まさかな。
「どこかに行くのか?その怪我で」
 俺は何も言えない。
 さすがに自分の親に学校を休んで修行に行くとは言えない。
「ふっ。行って来い。母さんには俺から言っておいてやる」
「え?」
「お前は俺と母さんの子だぞ?わかってるんだよ・・・行って来い。そして、もう一回り大きくなったら酒でも飲み交わそう」
 俺は一度うなずくと家を出た。
 親父はなんとなく、俺と同じような匂いがするというか、俺が親父にそっくりなんだけど。
 お袋もそうなのかな。まぁ、今度ゆっくり聞いてみるか。
 俺は近所のバス停からバスに乗り込む。
 向かう先はひびきの駅。
 そこから電車に乗り込んでひびきの市の北にある山へと向かうためだ。
「あの山で、もう一度鍛えなおさないとな」
 俺が師匠に一度だけ連れてこられた山。
 この時期だと雪も積もっているだろうし、滝の水もかなり冷たいだろう。
 だが、そのほうが弛んだ俺の精神には必要なのかもしれない。
 必ず強くなって戻ってきてやるぞ!

 
 

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