「はぁ、牧くんの怪我。大丈夫かな?」
 お兄ちゃんの舎弟の人にきいたら、桜田門さんと戦ったって言うし。
「明日。ちゃんと体見せてもらわないと。怪我がよくならないような治療してたら困るしね」
 それにしても
 桜田門さんに勝っちゃうなんて。
 牧くんって、すごい人だったんだ。
「こんな考えてたらのぼせちゃう。早く体を洗ってあがろっと」
 鏡に映るボク。
 こんなボクを牧くんはかわいいって言ってくれた。
 もう少し、腰細いほうが牧くん好みかな?
 いつか。この体・・・牧くんに・・・
 きゃぁぁー!もう、ボクは何を考えてるのさ。
 でも、牧くんが望むなら・・・ボクは。


「いつつつ」
「ほら、我慢する。男の子でしょ」
 案の定、牧くんはほとんど怪我の治療はしてなかった。
 あざはいいとしても、血が出た場所をそのままにするかなぁ・・・普通。
「手は大丈夫?」
「あ?あぁ。さすがにこっちは湿布貼ったよ」
 牧くんは右手と左肩に包帯を巻いてる。
 さっき触らせてもらった感じだと、骨は大丈夫だと思うけど。
「もぅ。はい。顔は終わり。今度はシャツを脱いで」
「え!?ちょ、体はいいって。それに誰かきたらどうするんだよ」
「別に保健室だし大丈夫。それに、牧くん男の子なんだから平気でしょ」
 牧くんは抵抗するけど、手に力がはいらないせいで簡単にシャツを脱がせることができた。
 あ・・・
 すごい傷。心臓の上あたりから斜めに・・・まるで、刃物かなにかで切られたような。
 普通の喧嘩とかじゃつかないような傷。
「すごい傷だろ・・・見られてあんま格好がつくようなものじゃないし」
「どうしたの?これ」
 保健室の中に沈黙が訪れる。
 聞いちゃまずかったかな。
「聞くと、茜はつらくなるかもしれないぞ?」
「うん・・・大丈夫。話して」
 牧くんすごくつらそう。
 やっぱり、嫌な思い出なのかな。
 これだけの傷だもん。絶対に普通の出来事じゃないよ。
 きっと思い出したくもないような嫌な思い出に決まってるよ。
 あう、ボクの馬鹿。
「俺が引っ越した先での話だ」
 ボクのことなんて考えずに、牧くんは沈痛な面持ちで話し始める。
「俺は親父の紹介で小5から武術を習ってたんだ。古武術なんだけど」
 それで・・・あんなに強いんだ
「武術の師匠には娘がいたんだ。俺よりも3つ上だったんだけどな・・・優しい人だった」
「いた?・・・だった?って」
「・・・もう死んだんだ。自殺。自分の手首を切って」
 っ!!
 自殺・・・!?
「俺が中学2年・・・あの人が高校2年のある夏の日だ。その日は師匠が留守にしていて・・・道場にいたのは俺とあの人だけだった」
「うん」
「夕方・・・突然、数人の男が道場に上がりこんできたんだ。そして、俺を突き飛ばし。あの人を」
 そんな
 そんなの、ドラマや本の中だけの話だと思ってたのに。
「男たちは言ってた。俺の師匠に恨みがあるって・・・だからって、師匠の子供に・・・あんな」
 じゃ、じゃあ・・・その胸の傷は
「俺は何度も何度も男たちにつっかかっていった。けど、一人が大きなナイフを取り出し」
 そういって牧くんは、自分の胸についた傷の周りを掴む。
 爪が皮膚に食い込むくらいに。
「・・・牧くん・・・血が・・・出てるよ」
「俺はなんとか一命をとりとめることが出来たけど・・・俺が道場に戻ったときには・・・もう、あの人は」
「牧くん・・・もう、いいよ」
 ボクが牧くんの手にふれると、彼はボクの手を握ってきた。
 震え、力の入らない大きな手・・・こんなにも弱々しい彼をボクは知らない。
「遺書が残ってた。自分が犯されたことよりも、俺が傷つけられたことがつらい・・・だから死ぬって」
「そんな!!そんなの・・・身勝手・・・だよ」
 そんなの・・・残された方が・・・つらいに決まってるじゃないか。
 あれ・・・涙・・・ダメだよ・・・ボクが泣いちゃ・・・本当につらい牧くんは・・・泣いてないの・・・に
「牧くん」
「茜」
 あっ
 牧くんの腕の中・・・暖かい
「俺はもう・・・大事な人を失いたくない・・・だから」
「・・・うん」
 どれくらい抱き合っていたんだろう。
 窓の外が紅く染まってきた。
「・・・茜」
「なに?」
 抱きしめられているから顔は見えないけど。
 さっきまでとは感じが違う。いつもの、牧くんだ。
「・・・俺は・・・俺も茜のお兄さんも、戦いを生業としてる。もちろん俺は学生だけど・・・そういう人は、多かれ少なかれ恨みを買うものなんだ」
「うん」
「だから、俺は茜を守れるように・・・強くなる」
 嬉しい。
 牧くんはボクを大切にしてくれている。
「牧くん」
「茜」
「・・・ラブシーンはよそでやってくれないかな」
 !?
 保険医の先生かぁ・・・
 あぁ、びっくりした。
「私は別に恋愛はするなとは言わないし、セックスだってしたければどうぞ。けど、学校内ではやめろ」
「あ、あははは」
「ごめんなさい」
 牧くんが急いでシャツと学生服を着る。
 ボクも薬とかしまわないと。
「お、おじゃましましたぁ」
「あぁ、そうそう。避妊はするんだぞ」
 うちの学校の先生って
 変な人が多いなぁ。本当に。


「あ、あの・・・今日は嫌なこと思い出させて・・・ごめん」
「いや。いずれ・・・話すつもりだったし」
 あ、もう。牧くんの家の前。
 今日もお別れ・・・か。
 もっと。もっと、一緒にいたい・・・ボク、昨日よりも、ずっとずっと、牧くんのことが。
「あ、あのさ・・・茜。家に寄っていかないか?」
「え!?」
「今日・・・家・・・誰もいないから」
 そ、それって。ひょっとして。
 えぇぇぇ!?
 あ。ぼ、ボク・・・ど、どうしよう。断ったら傷つくかなぁ。でも、ちょっと怖いし
「今なら。師匠の写真とか見せてあげれるから。親いるときに師匠たちの話するのはタブーだからさ」
「へ?あ、し、師匠さんの?あ。そ、そっか。あははは。そうだよね。あ、うん。おじゃましようかな」
 牧くんの家って綺麗だなぁ。
 フローリングだし、いまどきの家って感じ。
「2階の手前の部屋が俺の部屋だから。ネームプレートあるからすぐわかると思う。俺は飲み物持ってくるよ」
「うん」
 へへへ。牧くんの部屋かぁ。
 どんなかなぁ。シンプルかな。
 あ、お兄ちゃんの部屋みたく、鉄アレイとか木刀とかあったりして。
 でも、アイドルのポスターだらけとかだったら・・・ちょっと嫌かも。
「おじゃましまぁす」
 ん〜・・・普通の部屋。
 ゲーム機があってテレビがあってパソコンにベッドに・・・
 アイドルのポスターはあるけど、1枚くらいなら普通だよね。
「あれ。どうしたのそんなところに立ったままで」
「・・・意外と普通な部屋だなと思って」
「なんじゃそりゃ。適当に座ってよ」
 じゃあ、お言葉にあまえて。
 うわぁ。牧くんのベッド、ふかふかぁ。
「紅茶でいい?」
「うん。ありがと・・・いいなぁ。ベッド」
 普段はお布団で十分だけど、こうやって座ってみるとベッドもいいなぁ。
 えい。ちょっと横になっちゃえ。
 きゃぁ。ふかふかで気持ちいい。
「茜?・・・まぁいいか。えっと、師匠の写真はっと」
「ん〜〜ん?・・・なにか硬いものが」
 ベッドと敷布団の間に何かある。
 本?あ、ひょっとしてぇ。
「えっと。この箱だったかな」
「へぇ、牧くんって胸のおっきな女の子が好きなんだ」
「え?うわぁぁ!!ちょ、ちょっと」
「あっ・・・きゃっ」
 ・・・・・
 牧くんの・・・顔が・・・こんなに近くに。
「ね、ねぇ、牧くん・・・ぼ、ボクも・・・胸。結構大きいんだよ」
 う、うわぁぁ。ボク、何言ってるんだろう。
 牧くんが唾を飲み込むのがわかる。
「茜」
「んっ!」
 牧くんの手がボクの胸に。
 だ、だめ・・・牧くん、怪我してるのに
 でも・・・でも・・・だめ・・・声、でちゃう
「・・・あっ・・・ふぅ・・・ん・・・」
 牧・・・くん。
「あ、ご、ごめん。そんなつもりは」
 牧くんが立ち上がる。
 ほっとしような、寂しいような。
「ぼ、ボク。帰るね」
「ごめん」
「ううん・・・いいよ・・・初めて触ってくれたの・・・牧くん・・・だったから」
 胸が熱い。
 触られた部分がジンジンするよぉ。
 もし、直に触られたらボク・・・どうなっちゃうんだろう。
「あ、でも。これは没収」
「へ?あ、ちょ・・・ま、しょうがないか・・・送るよ」
「ん〜・・・うん。アリガト」


 はぁ。今日一日いろんなことがあったなぁ。
 牧くんのこと、いっぱい知ることが出来たし。
 あ、師匠さんの写真。まぁ、今度でいっか。
 だって、あんなこと・・・
 よし、今日からはもっと念入りに体を洗わないと。
 へへ。あの雑誌のお姉さんになんて負けないんだから。

 
 

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