「はぁ!」
俺の拳が男の腹に決まる。
その場に崩れた男に立ち上がる気配は見えない。
だが、そこで俺はまだ息をつくことは出来ない。
「ふっ」
振り向きざま、後ろから殴りかかってきた男への回し蹴り。
これで何人の男を倒したか。
途中で数えるのにも飽きた。
俺の周りには10人以上の不良たちが倒れている。
事の起こりは今から1時間ほど前。
「ふぅ。終わった終わった」
今日は新入生の入学式。
後輩ができて、やっと俺も2年生って自覚が出来た。
「あれ。一文字さんと赤井さん。なにしてんだ?」
「ほむらが生徒会の仕事手伝ってくれって言うから」
一文字さんの机の上には10枚ほどのプリント。
「・・・また仕事ためちゃったんだ」
「あははは・・・いやな、勝手にたまっていくんだって」
赤井さんは乾いた笑いでごまかしているが、仕事をしない常習犯。
これで生徒会長だっていうんだから、この学校もすごいというかなんというか。
というか、1年のころから生徒会長になれるってのはどうかと思うけど。
「ほむら、ちょっと席はずすよ」
そう言って、一文字さんは俺の服の袖をつかんで廊下にひっぱってくる。
「ごめん。今日は一緒に帰れないや」
「あぁ。ん。仕方ないさ。一文字さんがいないと赤井さんの仕事、終わんないだろうし」
「そうなんだよねぇ・・・はぁ」
さすがの一文字さんもどうやら疲れたみたいだ。
まぁ、そうだろうな。
あの量からいって、仕事サボったのって1日・2日って感じでもないし。
「頑張れよ。んじゃ、また明日な」
「うん。バイバイ」
さて。今日は一人か。
久しぶりにゲーセンでも行くか、それとも本でも買って帰るか。
「おい」
それとも、まっすぐ帰って掃除でも。
「牧和輝!」
あ、そういやマンガの新刊が出てたような。
「無視すんじゃねぇ!!」
「うっさいなぁ」
俺が校門を出たあたりから後ろをついてきた数人の男。
長ランやら短ランやら。リーゼントにパーマ。
あたたた。またこいつらか。
「今日という今日は、いままでの借り全部返したらぁ!!」
「今日はパス。気分じゃない」
「そっちが気分じゃなくても、こっちは殺る気満々なんだよ!」
面倒くさい。
これで今年にはいってからは、えっと何回目だっけ?
去年から数えると、もう両手両足の指じゃ足りないよな。
「いいかげん、懲りてくれてよ」
と、言うわけで俺はいま、伊集院大橋の下で不良どもを相手に大立ち回りを演じていたわけだ。
ひぃ、ふぅ、みぃ・・・・16人か。
記録更新だな。
「さて。気がすんだろ?俺は帰るぞ」
うへぇ。学ランがボロボロ。せっかく新しいのだったのに。
こいつらに請求書だしてやろうか。
あ、だめだ。一文字さんに迷惑がかかりそう。
「ま、まて。おでが相手だ」
「ん?」
俺が振り向くと、土手の上に一人の男が立っている。
あいつも不良の仲間だよな。
だが、いままでの奴とは体格も雰囲気も全然違う。
「おでの名前は桜田門長太」
「き、筋肉・・・番長。どうして・・・ここに」
不良の一人がよろよろと立ち上がり言葉を発する。
ちっ、とどめをさしきれてなかったか。
と、そんなことより。筋肉番長?
たしかに、力士なみの筋肉はありそうな体だな。
つうか・・・筋肉達磨?
「はっはっは!牧!!番長四天王が来て下さったからには、お前に勝ち目はブヘ!」
「うるさい。なんでお前がいばるんだよ」
俺は長々と口上をたれてる不良を足蹴にする。
こいつ、意外と元気だったんじゃ。
「番長四天王ね。いいぜ、俺もちょうど体が温まって来たところだ」
「おで、勝つ・・・お前・・・負ける」
筋肉番長は土手の上から俺目掛けて突進してくる。
パワーはありそうだけど、見て避けれないスピードじゃないな。
「ぬぅん!」
俺の目の前にまでやってきたヤツは、俺の顔面に向けて張り手を放つ。
予測していた俺は、体を横にずらしてそれをかわす。
すさまじい音と共にコンクリートがはじけ飛ぶのが見えた。
「おいおい?うそだろ」
張り手は俺が背にしていた橋げたに当たったのだが・・・当たった部分にはくっきりと手形が残されている。
コンクリートすらも貫くパワー。想像以上の馬鹿力だな。
「よぐ、がわじだ」
「ったく。化けものじみた力の持ち主め」
力比べをしたら確実に負けるな。
ヤツは俺を睨みつけ、今度は肩から突進してきた。
速い!?
「ぐぅ」
なんとか身をよじって俺も左肩で受けたが、そのまま吹き飛ばされる。
ちっ、左腕はしばらく使えそうに無いな。
にしても、さっきと違ってえらく速い動きだ。
最初のはフェイクかよ。
「もう、しまいかぁ?」
「まさか。今度はこっちから行くぞ!」
俺の後ろ回し蹴りが番長の腹を捕らえる。
その勢いのまま、右拳で顔面を打つ。
「・・・つぅ・・・」
右拳に激痛が走る、骨が折れたかもな。
番長の方は腹も顔面も、全くダメージを感じてなさそうだ。
あの分厚い筋肉が体を守り、太い首が顔面への衝撃を吸収したか。
筋肉の壁ねぇ。
筋肉バカもここまで突き詰めれば、最強の盾だな。
「バカめ筋肉番長の筋肉は伊達じゃないんだぜ!!」
いつのまに回復したのか、先ほどのしたはず不良どもが起き上がって周りで見ている。
つうか、だからどうしてお前らがいばるんだよ。
まさに虎の威を借る狐だな。
「お前・・・弱い・・・おで・・・弱いものいじめきらい・・・」
「弱い?俺が?」
そうだな、確かに。
ったく、武術の武の字もしらないような不良どもを何人のしたところで自慢にはならんよな。
俺も記録更新とか言ってのぼせてたとこもあったな。
肉体だけじゃなくて、精神も弱くなってたみたいだな。
「筋肉番長だったよな。死ぬなよ」
俺は番長の目の前に立つ。
そして、動かすのが精一杯の左手を番長の腹に当てる。
ヤツは俺の行動が不思議なのか何もしてこない。
「はん。苦し紛れになにしてんだ?牧も番長にかかれば子供だな」
「すぅ・・・ひゅっ!」
俺は壊れた右拳で左手の甲を撃つ。
「がっはっはっはっは!!自分の手を殴るなんて・・・ついにいかれたか?」
馬鹿笑いを繰り返す馬鹿ども。
だが、筋肉番長の表情が変わるとそれも止んだ。
「・・・お、おま・・・おま・・・え・・・」
白目をむき、口から泡を吹いている。
俺が両手を下ろすと、筋肉番長が巨大な音と共に後ろに倒れこむ。
確認するまでもない。こいつがどれだけ強くてもあと1時間は目を覚まさないはずだ。
「筋肉番長!?・・・てめぇ、何をしやがった」
「俺の習った体術の中には、鎧の上から直接中の人間にダメージを当てる方法もあっただけだ」
筋肉という鎧にはばまれた男。
直接内臓に衝撃が走ったはずだ。これで起き上がれるヤツはいないだろう。
「ま、まさか。筋肉番長が」
「に、逃げろ!!」
不良どもはクモの子を散らすように逃げ出す。
なんとか、勝ったか。
けど。今回は筋肉番長が油断してくれたから勝てたようなものだ。
師匠にしれたらどうなることか。
「それにしても」
改めて自分の姿を見直す。
学ランは泥や血がついていて、ところどころ裂けている。
川に映した自分の姿は、顔や腕にもあざが浮かんでた。
「こりゃぁ・・・修行のやり直しだな」
「お。一文字さん?」
「あぁ、牧くん!やっと帰ってきた・・・あっ」
俺の家の前に一文字さんが立っていた。
日も落ちて、結構いい時間だっていうのに。
「・・・怪我してる・・・」
「平気平気・・・2、3日で治るさ」
と、強がったものの。医者に行けば絶対に1ヶ月は安静にしていろって言われるな。
っっっ。左も骨がいってたかな。
「ねぇ、ひょっとして。喧嘩?・・・だめ・・・だよ・・・体・・・こんなに」
一文字さんの指が俺の顔をなぞる。
細くて繊細な指。
俺が好きな女の子の・・・指。
「ボク、お兄ちゃんに言うよ。もう、こんなのおかしいよ・・・ダメだよ」
一文字さんの顔は涙で濡れている。
「大丈夫だよ、俺は一文字さんの」
「茜・・・二人っきりの時は・・・そう呼んでよ」
「俺は茜のお兄さんに認めてもらうんだ。俺のことを・・・そして俺と茜のことを」
かろうじて動く左腕で茜の顔を抱き寄せる。
そして、口付けをかわす。
俺が彼女にしてあげれるのはこれしかないから。
心配はかけたくないけど、この道を貫くには心配をかけてしまうのは目に見えているから。
「うん」
「送っていくよ」
「ううん・・・怪我、ひどいみたいだし・・・いいよ。ボクは・・・大丈夫だから」
俺は、この先、何度この悲しげな表情を彼女にさせてしまうのだろう。
だが、俺はここで止まるわけにはいかない。
あの日の悲劇を繰り返さないためにも。