「・・・今日は特に連絡はなしだ。ただし、テスト3週間前だからな、気をひきしめるんだぞ。解散」
 相変わらず、体育会系というか軍隊系な挨拶も終わり、放課後となった。
 さてと。
「一文字さん。課題の答えは出た?」
「一応ボクなりに考えてみたんだけど、人が入りやすいようにすればいいんだよね?」
「あぁ」
「外装の工事とかは無理だから、外で食べたらどうかな?」
 へぇ、俺と同じところに目をつけたか。
「これから夏になって室内じゃクーラーかけても暑いしさ。隣の駐車場って広いけどあまり車はいらない  まぁ、あの密集した商店街の中じゃあ、車で買い物に行く人なんていないだろうな。
 昨日も車なんて、お店の出前用のしか置いてなかったし。
「長いすとか和風の大きな傘を置いて。それで外で食べてもらえばいいんじゃないかな」
 言って、不安そうな顔で俺の顔を覗き込む。
「ん。大体は俺の考えてた通りかな。俺としては、その上でお茶やお茶菓子も用意して喫茶もかねれば客をさらによべるかなと」
「そっかぁぁ!うんうん。ボクの家の行きつけのお茶屋さんに協力してもらえばそれもいけるよ」
 せっかくこの近くに小・中・高と学校があるんだ。その生徒もターゲットにしないとな。
 男子も女子もひっぱるためには、ちょっと変わり種を仕込むのが一番だ。
 軽く話がしたい人は和風喫茶で。
 お腹がすけばその場で料理を頼んでもよし。


「外にねぇ。でも、その椅子とかはどっから調達するんだい?維持費もあるし、それに衛生面だって」
「調達と維持はある程度は俺がまかないます」
 さっそく、一文字さんのバイト先の店長に俺の案を話してみる。
 ただし、まぁあたりまえのことだけど・・・いい顔はしないか。
「衛生面については、水をまくことで砂埃なども飛びませんし、ここの商店街は車の出入りも少ないので」
「ふぅ・・・なるほどねぇ・・・」
 もう一押しかな?
「店長。ボクもこの店、もっと続けてほしいな。店長の作るご飯、美味しいし」
「私も先代から続いたこの店をつぶすことはしたくないが」
 おぉ。一文字さん、ナイス。
 まぁ、でも店長さんが返事を保留してるのもわかるな。
「基本的に、改装は外だけなのでお店を休みにする必要もありませんし、予算も、喫茶でやるお茶とお茶菓子代くらいで」
「・・・ふぅ。わかった。なら、店をたたむまでの1ヶ月間。そっちも行おう」
「試すわけ・・・ですか」
「そういうわけじゃねぇ。のこりの余生をあがくだけといったところだ」


「やったね。牧くん。これで儲けがでれば店長も考え直してくれるよね」
「いや、儲けがでるだけじゃだめだな」
「え?」
 なるほど。1ヶ月・・・そういうことか。
 店長も結構な商売人じゃないか。もう少しいい場所に立ててあればファーストフードにも負けないだろうな。
「リターン客が入らなければおしまいだ」
「リターン?」
「そ。同じ客が、2回3回と足を運んでくれないとダメってことだ」
 もの珍しさだけで1回こっきりの客じゃダメだ。
 何度も足を運んでもらわないと、店として成り立たない。
 なんといっても、同じような店が乱立するこの時代だ。下手な宣伝よりも客の評判が客を呼ぶはず。
 飲食店でその評価の良し悪しを見るには、約一ヶ月。一ヵ月後にリターン客が少なければそこで終わりだ。
「そして、その時に最も重要なのが・・・」
「目玉商品」
 俺はうなずく。
 来た客にもう一度来ようとという気にさせるような何か。
「じゃあ、それが次の課題だね」
「明日は土曜で休みだから、俺は椅子とか調達してくるよ」
「あてがあるの?」
「まぁな」
 この広さなら、長椅子を3脚と和傘も数本あればいいな。
 あとは・・・
「お茶の方は任せてよ。町内会や商店会にかけよって協力してもらうから」
「よし。それじゃあ、来週の月曜にオープンできるように頑張るか」
「うん」


「おぉ。和輝。こっちだこっち」
「叔父さんお久しぶり」
 俺はひびきの市から離れ、家具業を営んでいる叔父の家にやってきた。
 ここで長椅子を調達するのだ。
「元気そうでなによりだ。これが約束の品だ。こいつでいいか?」
「え?・・・いいのこれ?だってこれって普通にお店で売れるものじゃ」
 叔父さんの家の倉庫の中。
 出しやすいように手前に置いてあった長椅子を指差す。
「出来がいいように見えるか?」
「うん」
「はぁっはっは!こいつはな、売り物にはなんねぇんだ」
 え!?
 どっからどう見ても、立派な長椅子だよ。
 多分、3万円の値札が貼られていてもぜんぜん不思議じゃないくらいの。
「こいつはな。どっかの有名な職人が作ったもんなんだけどよ・・・ほれ、ここに傷があるだろ」
「うん・・・えぇぇ!?これだけで売り物にならないの?」
「普通の椅子なら直せば平気なんだけどな。この職人のじゃだめなんだよ」
 ウソだろ。
 たったこんな小さな傷で売り物にならないなんて。
 俺の知らない世界は多いな。
「本当にいいんだよね?」
「あぁ。で、どうやって運ぶんだ?」
「宅急便を呼んであるんだ。午後には取りにくるはずだけど」
「あぁあ!?もったいねぇなぁ。んじゃ、ウチの会社のバイト呼ぶから、ウチのトラックで運んでやるよ」


「どうもありがとうございました。叔父さんにもよろしく言っておいてください」
「あれ?もう長椅子もってこれたんだ」
 俺が長椅子を駐車場に運んでいると、一文字さんがバイト着で外に出てきてくれた。
「あぁ。これで明日は、改装にもっと時間が取れそうだ」
「ねぇねぇ。これ食べてみて」
 一文字さんが俺に一枚の皿を差し出す。
 その上には、緑色のお団子が。
「いただきまぁす」
 んむんむ・・・お。
「美味い。何これ。普通のお団子じゃないよね?」
「うん。ボクのお母様の知り合いがやってるお店の新製品なの」
 皮は抹茶味なんだけど甘くて、逆に中の餡子は甘さ控えめ。
 ちょっと意表をつかれたこの味は少し苦めのお茶によく合いそうだ。
「これじゃあ、目玉商品にならないかな?」
「これ?ん。人気は出そうだけど・・・新製品なんだろ?ここで使うのはまずくないか?」
「大丈夫だよ。お店自体は少し離れた場所だから、逆にここでお店の宣伝もしてくれるならって」
 なるほど。それもありか。
「よし、じゃあ、それを第1の目玉商品として使おう」
「うん」


 昨日からの準備もほとんど完了だな。
 長椅子に和傘。それに喫茶関係の物をおいておく屋台に、蕎麦などを食べるためのテーブル。
 よし、これで準備は万全・・・
「あ・・・」
「どうしたんだい?」
「チラシを用意するの忘れた・・・立地条件があまりよくないからチラシがないと」
 まずい、このままじゃ明日の開店に人があつまらない。
 学校帰りに通る学生くらいか。
「ふふん、はい」
「あ・・・これ」
 一文字さんが取り出した紙の束。
 そこにはこの店の新装開店の文字がでかでかと載っている。
「へへへ。こんなこともあろうかと作っておいたんだ」
「一文字さん・・・さすがだよ」
「いま、ほむらたちに手伝ってもらって駅前で配ってるから」
 ほむら?・・・あぁ、赤井さんか。
 そういや一文字さんと仲がよさそうだったな。
「あと、明日は学生じゃないバイトの人に連絡して、お昼からはいってくれるようにおねがいしたんだ」
「そっか。一文字さんがこれるのは学校終わってからだもんな」
 そんなところまで手を回したのか。
「さぁ、ボクたちも配りに行こうよ」
「あぁ。駅の方で配ってるなら、俺たちは商店街を中心に行こう」
「うん」


「人、集まってくれるかな?」
「やるだけのことはやったんだ、後は祈るしかないさ」

 くそ、一日がこんなに長いなんて思ったの初めてだ。
 残すは担任の挨拶のみ。
 今日は俺も一文字さんも掃除はないから、これが終わったら走らないと。
「・・・まだかまだか」
 一文字さんの方を見ると、彼女のソワソワとしている。
「・・・だ。解散」
 同時に俺と一文字さんは立ち上がり、かばんを持って廊下に飛び出す。
 学校を出て、坂を下り、商店街に入り・・・そして。
「おぉぃ。茜ちゃん、早く着替えて着替えて」
 一文字さんを見つけた店長が叫ぶ。
「あ、はい」
 一文字さんが着替えるために店の中に入っていった。
 ・・・すごい。
 駐車場に作った青空喫茶は満席状態。
 椅子が足りなかったせいで、店の中の椅子まで外に出ている始末だ。
 今いるのは主婦層の人たち。
 きっと買い物帰りに一服と言ったところだろう。
「お、兄さん。あんたのアイディア、的中だな」
「いえ、まだ今日だけじゃわかりませんよ。それに、一文字さんの協力があったからです」
「店長、何すればいい?」
 一文字さんが着替えて出てくる。
 あれ?いつもの征服とちがう。あれって、確か和服の紬とか言うんじゃなかったかな?
「えへへ。どう?似合うかな。外用に新しいの」
「うん。似合ってるよ」
 赤を基調とした紬。
 まるで時代劇に出てくる、茶店の看板娘みたいだ。
 ん?・・・なんか、周りが騒がしく・・・げ!?
「ひび高生があんなに・・・」
「あはは・・・すごい人・・・だね。人手足りるかな」
 主婦たちに女子高生。
 それが一息つけば、いつものように部活帰りの高校生もやってくるだろうし。
「ふぅ。俺も手伝うよ」
「ほんと!?」
「あぁ、ここまできて帰るもの悪いしな。最後まで手伝うさ」


「今日はご苦労様」
 一文字さんがお茶をいれて持ってきてくれた。
 にしても。はぁ・・・疲れた。
 でも、なかなか出足のいい初日だったかな。
「牧くん」
「ん?」
「・・・ありがとう」
 う、面と向かってそういわれると照れるな・・・
「これからも・・・色々とよろしくね」
「あぁ。もちろんだ」

 
 

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