「え?そんな」
「すまないねぇ」
ここはボクがバイトをしている定食屋さん。
味もいいし、安くて量も多いから学生やサラリーマンがよくくるんだ。
でも、それもあと1ヶ月みたい。
「ここも開発が続いて、駅前にいっぱいお店ができたろ」
「あ。はい。でも、お客さんはまだ」
店長が首を横に振る。
「茜ちゃんはバイト初めてまだ1年だからわからないだろうけど。かなり減ってきているんだよ」
そりゃ確かに1年前よりは減ったかもしれないけど。
そっか。ボクがバイトをはじめる前はもっと多かったんだ。
「それに、茜ちゃんももう高校生だ。ここ以外にもバイトで雇ってくれるとこは多いだろう」
「でも、ボクは。あんな一般的な味より、この店の味を残していきたい」
「ありがとう。でも、さすがに維持がもう・・・きついんだよ」
そっか。儲けをあまり考えない料金設定だったから。
お客をほかの店に取られちゃうと、本当に・・・
「ちぃっす・・・やってます?」
「あ、いらっしゃいま・・・あ、牧くん。どうしたの?」
「どうしたって。定食屋に来て洗濯はしないだろ。飯食いにきたんだ。一文字はバイトか?」
牧くんはカウンター席に座ってお品書きを見始めた。
あ、お水出さないと。
「はい、お水。うん、ボクはバイトなんだ」
「へぇ。偉いんだな。あ、親子丼ね」
「親子丼一丁」
店長が厨房で親子丼を作りはじめる。
「・・・でも、あと1ヶ月なんだけどね」
「ん?」
「1ヵ月後には閉店しちゃうんだ・・・」
「なるほどな。けど、こんだけ美味くて安いのに閉店は惜しいな」
「うん」
あのあと、ご飯を食べながら牧くんは話を聞いてくれた。
ボクもこの店のご飯は大好きだし。残ってほしいんだけど。
「でもまぁ・・・なるほどな」
??
店の中を見回して何かを納得したような雰囲気だけど・・・なんだろう?
「一文字。明日もバイトか?」
「え?ううん。明日はお店・・・お休みの日だから」
「ちょうどいいや。最後の悪あがきしてみねぇか」
悪あがき?
何をするつもりだろう。
「あと、バイト終わったら少し付き合え。何時だ?」
「8時だけど。何をするの?」
「言ったろ。閉店させるには惜しい店だって」
「お。ずいぶん早いな」
「うん。今日はお客さん少なかったから」
最近、お客さんの数が一定じゃないけど・・・今日はこの1ヶ月くらいで一番少なかったな。
「じゃ、いくぞ」
「え?ど、どこ行くのさ」
牧くんが歩き出したからとりあえずボクも後ろをついていく。
あれ。こっちって、ひびきの駅だよね。
・・・ひょっとして。
「さ、ここだ」
牧くんが連れてきてくれたのは、最近出来たばかりの松野屋っていう定食屋さん。
全国にチェーン展開していて、24時間営業のお店なの。
「ちょ、ちょっと待ってよ。どうしてここに?」
「ここで飯を食ったことは?」
「ない」
「敵を知り己を知らば百戦危うからずだ。まずは、敵情視察ってとこだな」
あ、なるほど。
えっと・・・そういえば、外見もあんまりまともに見たことなかったけど。
蛍光灯がいっぱいあって外も明るいなぁ。
それに旗も立ってるし。今は鳥定食が安いんだ。へぇ。
「外見で気づいたことは?」
「えっと、明るくてメニューも見やすくて・・・あと、安い商品がわかりやすい」
「ほかには?」
え?ほかに?
えっと・・・あれ・・・そういえば、ここって前面は全部ガラスなんだ。
中で食べてる人がよく見えるなぁ。
「中の人が見えるだろ?」
「うん。普通のお店じゃあまりないよね・・・」
「でも、これが売上を伸ばす方法の一つさ」
え!?
こんなので売上が伸びるの?
「じゃあ、質問。同じお店でも、中がこうやって見えて食べてる人がいるのがわかるのと、そうでないちに入る?」
ん〜。難しいなぁ。
一方は中が見えてて人がいっぱい。
もう一方は人は入ってるかもしれないけど、中は見えない。
「見えるほうかな?」
「ほう。理由は?」
「人が見えるってことは、確実に誰かが食べてるわけでしょ?それに安心感みたいのあるし」
牧くんがニンマリと微笑む。
正解だったかな。
「さすがだな。その通りだ。ほら、コンビニの本棚は窓側にあるだろ?立ち読みしてる人がいれば他の客もはいりやすいわけだ」
へぇ。そんな理由があったんだ。
でも牧くんってずいぶん物知りだなぁ。
「じゃあ、次は味と値段だな」
「うん」
うわぁ。自動ドアだ。
『いらっしゃい』
店員さん・・・バイトなんだろうけど、やる気のある声とない声が混じってるなぁ。
「あ、ここで先に食券を買うんだよ」
「そうなんだ。あれ・・・?」
「どうした?」
食券の券売機を見ると、料理がいっぱいあるのはわかるんだけど。
その中の3分の1はヘルシーメニューだ。
「気づいたか。以前はこういう店ってのは男の客がほとんどだったんだ。だから女性客を呼び込むために」
「ヘルシーメニュー・・・ダイエットブームに便乗して」
「正解」
なるほど。
メニューの隣にカロリーも乗ってるから、これならダイエットしてる人でも頼みやすそう。
「じゃあ、ボクはこの豆腐サラダセット」
「俺は親子丼にするかな」
「え!?さっき・・・食べたばっかり・・・」
「いいからいいから」
食券をもって席につくと店員がすぐにやってきて厨房にメニューを伝える。
やる気のあるなし関係なく、動きは結構テキパキしてるかも。
「バイトのレベルは、まぁ、どこもこのレベルだな」
「そっか。きちんと指導されてるってことだよね」
料理がやってきた。ずいぶん早いなぁ。
ボクのとこのあのお店の半分以下の時間だよ。
「いただきます・・・・・ん・・・」
「どうだ?」
「・・・どうしてこの味でこんなに客が入るの?」
味はお世辞にも美味しいとは言えない。
キャベツやニンジンはシナシナだし、豆腐の味付けは中途半端。
ご飯だってウチのお店の方がいいお米使ってるよ。
「ま、その話は店を出た後にしてやるよ。この親子丼も食ってみな」
ん・・・モグモグ・・・う・・・
これも美味しくないよぉ。
鶏肉も卵もぜんぜん新鮮じゃない。
それに、なによりもダシが微妙な味。味は濃いし・・・これじゃあ病気になっちゃうよ。
食事を終えて二人で公園に来たの。
さっきのお店のことを話すためになんだけど・・・
「どうだった?」
「美味しくない。ウチのお店の方がぜんぜん美味しいよ!」
「まぁ、それは俺も認めるよ」
どうしてあんなに美味しくないお店にお客さんがはいるんだろう。
値段だって同じくらいなのに。
「味に関してはそうだが、他はどうだった?」
「他って?」
「店の雰囲気とか入りやすさとか」
「そりゃあ、あれだけ明るくて人が入ってれば入りやすいだろうけど」
でも、だからって味があんななのに。
「まぁ、他にも立地条件なんかの理由もあるんだろうけど。1番の理由は日本人の舌のせいだろうな」
「日本人の舌?」
「あぁいった店に行く人はどんな人だと思う?
「えっと、サラリーマンとか学生?」
「半分正解。もっと言えば、その大半が一人暮らしをしてる人だな」
あぁ。そっか。家族がいるひとはあんまりいかないよね。
でも、それがどう関係してるんだろう。
「んでな。あぁいった店に行く人ってのは、食事の半分以上がファーストフードかコンビニ弁当だ」
うんうん。
「つまり、別にあの程度の味でもぜんぜん平気ってわけだな」
「えぇぇぇ!?そうなの?」
「コンビニ弁当から比べればあの店の方がうまいくらいだぞ」
そっか。
そういう人にとってはあの味が普通なんだ。
「でも、体に悪そう」
「悪いとは言い切れないけど、よくはないだろうな」
「ウチの店なら絶対にそんなことないのに」
悔しいなぁ。
あんな店に負けちゃうなんて。
「と、敵のこともわかったし、対応策は見えてこないか?」
「対応策?」
「一文字さんのバイトしてるお店を立て直す計画」
えっと・・・味はウチの方が勝ってて、値段は同じくらいだから・・・
あとやることは・・・
「外装を変える?」
「出来るのか?一介のバイトがそんなこと」
「う・・・無理かな」
「んじゃ、明日までの課題。明日の放課後に答えを聞きに行くからな」
「わかった・・・あ、もうこんな時間」
早く帰らないと。
お兄ちゃんたちお腹すかせてるよ。
「じゃあ、また明日ね」
「あぁ・・・ん・・・送ってくよ」
牧くんがボクの歩幅にあわせて隣を歩く。
へへ。なんかうれしいな。
恋人・・・みたい。
あ。ぁぅぁぅ。な、何考えてんだろうボク。でも・・・牧くんなら・・・
「ん?俺の顔に何かついてるか?」
「え!?あ、ううん。なんでもない・・・なんでも」
えへへ。ちょっと歩くの遅くしようかなぁ。