「新郎よ。汝は富めるときも貧するときも新婦を愛し共に歩むことを誓いしますか?」
「はい、誓います」
 ボクの隣の男性が返事を返す。
「新婦よ。汝は健やかなるときも病めるときも新郎を愛し共に歩むことを誓いますか?」
「・・・え?」
 誰?この人。なんでボクの隣にいるの?
 それにボク、これウェディングドレスだよね。
 結婚式?
 だめだよ、ボクには好きな人が。
 もう会えないかもしれないけど、でもでも、あの人が。
「新婦よ。誓いますか?」
 返事したくないのに。
 でも。
「・・・あ・・・・・はぃ」
「待て!!」
 ボクが返事をしようとした時、入り口のドアが勢いよく開く。
 そこには一人の男性。
 逆光で顔は見えないけど、ボクが昔から好きだった、彼。
「茜!」
 彼は腕を大きく広げる。
 ボクは無意識のうちに駆け出して、彼の胸に飛び込んでいた。
「ボク。君のことが」
「茜。茜!茜!!」
 ボクを呼ぶ声が急に低く深い声に変わった。
「あれ?」
「あかねぇぇぇ!!」
 ボクがビックリして顔を上げると、そこにあるのは彼の顔じゃなくて、もっと見知った顔。
「お、おにい・・・ちゃん?」
 そこに居たのは彼じゃなくて、お兄ちゃん。
 無駄にでかくて体も頭も硬くて。
 大飯食らいの喧嘩ばっかしてるお兄ちゃん。
「ご飯だぞ?と呼びに来たんだが」
 ボクは今の自分の体勢を良く見てみる。
 お、お兄ちゃんに抱きついてる?
「お兄ちゃんの馬鹿ぁぁぁぁ!!」


「はぁはぁはぁ」
 今日が入学式だってすっかり忘れてた。
 もう。お兄ちゃんのせいなんだから。
「ふぅ。ギリギリセーフ」
 ボクが教室に入ると同時にチャイムが鳴り出した。
 うん。遅刻じゃないよね。
「えっと、ボクの席は」
 あ、ここだここだ。二つ空いた席の一つ。向こうは男子の席だからボクのはこっちだよね。
「よう。初日から遅刻寸前か?」
 前の席の女子が後ろを振り向いて声をかけてくる。
 あ、ほむらじゃないか。
「ちょっと嫌な夢見てね。あとお兄ちゃんが」
「ははは。まぁ、遅刻じゃないからいいけどな」
 彼女は赤井ほむら。ボクの小さい頃からの幼馴染で、ずっと一緒に遊んでたの。
 そっか。同じクラスだったんだ。
 クラス発表の日に用事があって先生に教えてもらっただけだったから、全然クラスメートのこと知らなかったんだよね。
 ほむらは赤井でボクは一文字だから、出席順で並んだんだ。
「ま、でも本当に遅刻してきてるやつもいるけどな」
 ほむらが顔を向けてるのは、もう一つ空いたままの席。
 誰なんだろう?
「ほら、みんな静まれ」
 教室の前のドアが開いて大人の人が入ってくる。
 先生だよね?やっぱこの場合。
「俺はこのクラスの担任の海老原だ。まぁ、詳しい紹介は後にして、とりあえず出席取るぞ」
 海老原先生が男子の名前を出席番号順に呼んでいく。
「牧和輝。ん?牧!居ないのか」
「はいはいはい。すみません」
 後ろのドアが開いて男の子が元気良く返事をしながら入ってくる。
 肩で息をしてるし、汗はダラダラだし。寝坊かな?
 男の子が唯一開いた席に座る。
「今日は多目に見るが、気をつけろよ。それより、どうした?その目の下」
 先生がそう言うと、クラス中のみんなが一斉に彼の方を見る。
 あ、ホントだ。なんか左眼の下にアザがある。
「あぁ、ちょっと歩道橋の階段から」
「はぁぁぁ。もう少し注意して行動しろよ」
 先生が出席の続きを取り始める。


「つかれたぁ」
 入学式も終わって帰ってきたけど、やっぱり何とか式って嫌いだなぁ。
 勉強も嫌いだけど。
 あ、でも家庭科とかは結構好きかな。
「あ、姉さんお疲れ様です」
 居間ではいつものようにお兄ちゃんの舎弟たちがたむろしてる。
 あ、お兄ちゃんって。言うの恥ずかしいけど、この辺り一帯の総番長なの。
 この時代に総番長って・・・天然記念物ものだよ
 だから、世間一般にガラの悪い人が毎日来るんだよね。
「あれ?怪我してるの?」
 その中の2人が顔や腕や足に包帯を巻いている。
「あぁ、こいつら高校生に絡んでいって返り討ちにあったらしいんですよ」
「あいつ、つぇっすよぉ」
「そういや、姉さんとこの制服でしたぜ」
 無視して自分の部屋に戻ろうかと思ったけど、気になる一言が。
「ボクと同じ?」
 ってことは、ひびきの高校の生徒なんだよね。
「しかも一人に負けたんですぜ?ったく、なさけねぇ」
 へぇ、みんな喧嘩は、結構強いんだけどな。たった一人で二人を倒すなんて。
「けど、あんなやつここいらで見たことあったか?」
「いやぁ、ねぇな」
 ってことは転校生かな。
 あっ
 あの、遅刻してきた・・・えっと、ま、ま、牧伸二?
「いやいや。違うか」
 頭の中に別人がうかんじゃった。名前なんだっけ。
 えっと。確か牧だよね。
 彼も初めて見る顔だったな。
 まぁ、中学とかと違って遠くから通ってくる人もいるけど。
 怪我してたし。ひょっとして。
「あの野郎・・・」
「むかつくぜ。最後に名前を言っていくとこがさらにな。牧和輝ったか?」
「それだ!!」
 ボクの大声にみんなが一斉にこっちを見る。
 あう。
「知ってんですか?」
「あ、えっと。知ってると言うか。えっと。あ、晩御飯の用意しないと」
 やっぱり彼だったんだ。
 へぇ、喧嘩強いんだ。
 あ、でも、きっとこれでお兄ちゃんたちに狙われちゃうなぁ。
「明日教えてあげよっと」

 
 

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