気配を感じた。
 荒れ狂う野獣のような気配。
「陽ノ下さん。先に行ってください」
 すみれが急に足をとめる。
 光もすみれから少し先にいったところで足をとめ振り返る。
「え?すみれちゃんは」
「獣退治かな」
 すみれの額の石が黒く光ると、2人の間に水の壁が現れる。
「どういうこと!」
「陽ノ下さん。ここから先には敵はいません。さぁ、魔王の元に急いで」
 すみれが仮面をはずし、光に微笑む。
 その目はまっすぐと光を見据え、力強く輝いている。
「わかった。でも、死んじゃだめだよ」
「はい」
 光が奥に向かって走り出す。
 直後、背中にさっきを感じる。
「キサマヲ、コロス」

「アカネが死んだか」
「残ったのはアタシとカズキ様だけか」
 ホムラは魔王に背を向け歩き出す。
「アタシは、必ず勝つ。そして」
 左耳からピアスをはずす。
「この世界を変えるんだ」
 はずしたピアスを右の耳に刺す。
 耳からは血が流れ、床を濡らす。
「たとえ、アタシが死んだとしても」
 扉を開き魔王の間を出る。
 その瞬間、ホムラの身体に激痛が走る。
「ぐうぅぅぅ!!」
 メモラーのピアスには2つの役目がある。
 1つは命を肉体につなぎ止めるための鎖としての役目。
 ピアスが壊れてしまうと、強すぎる力に耐え切れず、肉体が崩壊し命を失うこととなる。
 そしてもう1つは、力の制御。
 いくら肉体をまもるピアスとはいえ、全力の力をだしてしまえば、その肉体は壊れてしまう。
 そのため、力を制御するリミッターの役目も担っている。
「この。チカラ、ナラ!」
 しかし、ピアスを右耳につけることにより、そのリミッターははずれ、最大の力を振るうことが出来る。
 今、ホムラの身体には力が溢れている。
 これまでの数倍以上の力が。
「グォォォォォォン!」
 ホムラが獣のごとき雄叫びを上げる。
 今、彼女が立っているのは、魔王の間に通じている唯一の細い橋の上。
 この直下には2人の戦士がいた。そして、その間には水の壁生まれている。
 そのうち、1人は奥へと駆け出す。
「マツカ。イヤ。サキニ、アノオンナダ」
 ホムラは橋から飛び降りる。
 目の前には背を向けた戦士が1人。
「キサマヲ、コロス」

 すみれが振向くとそこには、鬼のような形相のホムラが立っている。
「その力は。そう、やはり知っていたのね」
 すみれが悲しそうな顔でホムラを見る。
「ダマレ!コロシテヤル」
 ホムラが一直線にすみれに飛びかかる。
 すみれは、それを横に飛びかわす。
 背後でホムラが壁に激突し、巨大な穴を穿つ。
「スグニ、キサマモ、オナジウンメイニアワセテヤル」
 ホムラが振向き、手にもつ石を粉々に粉砕する。
「キエロ!!」
 先ほどよりも速い動きですみれに飛び掛る。
「くぅ」
 ホムラの身体を両腕で受け止めるすみれ。
 岩の壁に穴を開け、素手で石を砕くホムラの身体を完全に受け止めている。
「バカナ!?」
 ホムラがすみれの身体をつかみ、一気にへし折ろうと力を込める。
 しかし、逆にすみれに腕をつかまれすさまじい握力で、骨が砕かれる。
「グワァァァァ!」
 ホムラの絶叫が洞窟内に反響する。
「ホムラさん。ここは、あなたと私の終着点です!」
 ホムラが見たものは、すみれの右耳に赤く光るピアス。
 まぎれもなくメモラーの力の象徴でもあるもの。
「ナゼダ!ナゼキサマガ、ソレヲ!!」

『くそ!力が強過ぎる!』
『きゃぁぁぁ』
『あははは!死ね死ね、アタシの前にみんな死ねぇ!!』
 ホムラの放ついくつもの火球が、人や動物を燃やし尽くす。
「すみれ。ここから逃げなさい」
「でも」
 すみれの曾祖母である野咲あやめが、すみれを逃がそうとサーカステントの裏手に回る。
 あやめは、自らの腕に捲いたブレスレットをはずし、すみれに渡す。
「これで魔王の進行を食い止めるのよ」
 サーカステントに火の手が上がった。
 この場所がホムラにばれるのも時間の問題だろう。
「あと、これも持っていきなさい」
 お守り袋から取り出される1つのピアス。
 炎のように赤いそれは、まるで脈打つ心臓のような存在感を持っている。
「さぁ。お逃げ。私が言ったことは忘れるんじゃない、ぐふ」
 あやめが口から血を流す。
「みっけ」
 ホムラの持つ鞭が、まるで槍のように鋭く硬くなり、あやめの心臓を貫いていた。
「さ、100年前の生き残りはこれで後1人か」
 ホムラが影のかなに消える。
 どうやら、あやめの死角になり、すみれには気付かなかったようだ。
「行きなさい。あなたの仲間のところへ」
 あやめの身体が塵に変わり始める。
「いや。死んじゃいやだよ」
 すみれがあやめにすがり、泣きだす。
「私の変わりに、あなたは一生懸命生きて」
 あやめは完全に塵となり消える。
 すみれが全てを受け止め、真実を知ったのは、この直後。
 耳に光るピアス。頭の中にはあやめの記憶が流れ込んでくる。

 100年前の戦い。
 ある日、あやめはあるメモラーの闘士と戦い、敗れ。そして陵辱された。
『殺せ!このような辱めを受け、生きていられるものか』
 あやめは叫んだ。
 しかし、闘士は彼女を殺さなかった。
 魔王との戦いを控え、彼女は1つの決心をしていた。
 決戦後に自決をするということを。
『くぅぁぁぁぁ!!!』
 しかし、魔王との決戦直後、彼女に自意識は消えさり、誰もいない場所で自らの手だけで出産を行った。
 女児の双子。
 しかし、その一方は見る間に小さくなり、赤いピアスとなってしまった。
 その数年後に、あやめは自意識を取り戻すが、子供を殺すことが出来ずに成長してしまう。
 その女児は十数年後に子供を産み。その子が成長しまた子供を生む。
 そうして生まれ、ヒビレンジャーとして地に立っているのが、すみれだ。

「私はこの力を制御できている。力に振り回されているあなたには負けません」
「ナマイキナ!」
 すみれが手刀を振るうと、ホムラの身体に鮮血が飛ぶ。
 すでにホムラの身体は傷だらけだ。
「グゥゥ!バカナ!?」
 力でも速さでも、ホムラはすみれに敵わない。
 それどころか、本能の如く動き回るホムラが冷静なすみれを捕らえることは難しいだろう。
「ナラバ、コレナラドウダ!!」
 ホムラの掲げた上に、影の球が発生する。
 そして、そこから現れた魔物。
 獅子と虎の頭を持ち、その身体は、普通の獅子の3倍強。
「スレア、ホーリー!!」
 すみれが叫ぶ。
 この獅子と虎をもつ魔物。元々はすみれのいたタケヒロサーカスの2頭の猛獣。
「ヤレ!」
 ホムラの声に従い、魔物がすみれに襲い掛かる。
 鋭い爪がすみれの肩を切り裂く。
「きゃぁぁ」
 鮮血を撒き散らしながら倒れるすみれ。
「スレア、ホーリー。やめて。あなたたちを苦しめたくないの」
 魔物の爪がもう一度飛んでくるが、それを横に飛んでかわす。
 しかし、そこには虎の口が待っていた。
「あぁぁぁぁ」
 腹に食い込む牙。
 魔物の喉を潤す、すみれの血液。
「スレア。ホーリー。もう、やめて」
 すみれが涙を流す。
 一瞬、魔物の動きがとまった。
「ヤレ!!ソイツヲクイコロセ!!」
 魔物はゆっくりと、口を開き牙をすみれから引き抜く。
「くぅぁぁぁ」
 引き抜かれる痛みで顔をゆがめるすみれ。
 しかし、すぐにいつもの笑顔にもどり魔物に寄り添う。
「ありがとう。スレア、ホーリー」
 魔物も目を瞑り、すみれに寄り添っていく。
「ドウイウコトダ。ナゼシタガワナイ」
「この子たちも、誰が主としてふさわしいのわかっているみたいよ」
 すみれがホムラの前に立つ。
「力におぼれたあなたに、私は負けないわ!」
 垂直に飛びあがり、腕を前に突き出す。
「見せてあげる。これが私の力。神々のサーカス!!」
 すみれの力が具現化し、空中ブランコがその場に現れる。
 それにつかまり、空を舞う。
 もっとも高い地点で手を離し、空中で回転。また別なブランコが現れそれを掴む。
 空気中の水分が、すみれの力で高圧縮される。そこにすみれがブランコで運動エネルギーを加えはじめる。
「ナンダコレハ!?ウ、グァァァァ」
 洞窟内に太鼓のような轟音が響き渡る。
 と、同時に閃光が何度も起こる。
 その間もすみれのブランコ芸は続けられる。
 ホムラが顔を上げると、すみれの技はフィニッシュを迎えようとしていた。
 ブランコの振りが速くなり、その頂点の位置も今までとは比べ物にならない。
「えぃ!」
 すみれが頂点の位置から飛び上がる。
 すさまじい轟音と閃光はさらに勢いをます。
 前方にではなく、ほぼ真上に。そして、それはちょうどホムラの直上でもあった。
「みなさん。ありがとう。そして、さようなら」
 すみれが目を瞑る。
 すると、上方への力が失われ、あとは重力に引き寄せられ、まっすぐに落ちる。
「ほむらさん。あなたにこれを受け止める術はありません」
 空気中の水蒸気がすみれにプラスとマイナスの電解をもたらし、運動エネルギーが静電気を生み出す。
 それにより、この洞窟内では絶対にありえないであろう現象が生じた。
 落雷。
 それも、巨大な柱のような。まさに神の怒り。
「グ、グググァァァァァ」
 それがすみれを通し、ホムラに向かって落ちる。
 閃光は静電気の放電。そしてその放電の爆発があの雷鳴となり轟音を響かせていたのだ。
 この一瞬だけで1万℃を越す熱量は、すみれとホムラを一瞬にして消し去る。




すみれ 「あ〜。怖かった」
光   「お疲れ。大丈夫?」
すみれ 「えぇ。あんな高いブランコ使ったのはじめてだったから」
ほむら 「いやぁ。いいもの見せてもらったぜ。一世一代の大サーカスってか」
メイ  「バカ猿はやはり野生に帰るべきなのだ」
ほむら 「何だとチビ!もういっぺん言ってみろや」
メイ  「何度でも言うのだ、バカ猿はもがもが」
華澄  「はいはい。メイさんそこまでよ」
茜   「ほむらもムキにならないの」
メイ  「あ!どうでもいいが、あんなのでは絶対に雷は発生しないのだ」
作者  「ギクッ。ばれた?」
メイ  「当たり前なのだ」
ほむら 「どういうことだ?」
作者  「雷の原理ってのは、まず、水蒸気が上昇気流にのって上空で積乱雲をつくるだろ」
メイ  「それでその中で、マイナスとプラスの電解が静電気と交じり合って発生するのだ」
光   「え?でも、そういう風になってなかった?」
メイ  「静電気の量が違うのだ。あんな人が動いた程度で雷が出来たら、雲の中をジェット機が飛んだだけで落雷なのだ」
作者  「むぅ。ばれないとおもったんだけどな」
琴子  「いいの?そんなデタラメなもので?」
作者  「気にしない。元々デタラメなようなものでしょ?この作品自体が」
すみれ 「そうですよね。確かに」
光   「と、変にまとまったところで。いよいよ第1部クライマックス」
和輝  「最期に残った俺と光はどうなってしまうのか」
みんな 「こうご期待!」
   チャンチャン
 
 

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