「あぁ、遅くなってしまいました」
美帆が夜道を急ぎ足で進んでいく。
立ち寄った公園で、魔物に襲われ、それを倒した時には辺りは夜の闇に包まれていた。
「心配されているでしょうか?」
今日の戦いで携帯電話が壊れてしまい、みんなに連絡がとれない。
そういったこともあり、タクシーを拾うために大通りに急いでいた。
「!?」
急な寒気を感じ、足をとめ振り返る。
電灯の光の当たらない場所。
顔は見えないけど、そこに人がいることは確かだ。
「あの〜。先を急いでいるので変質者さんはお断りですよ」
人の気配が消える。
すると今度は、美帆の真後ろ。すぐ側で息遣いが聞こえる。
「相変わらずね」
自分と同じ声が耳元で聞こえる。
「真帆、ちゃん?」
振向くとそこには道化師のお面が暗闇に浮かび上がっている。
「ひっ」
暗闇で体が見えないわけではなく、お面だけが、美帆の肩の上に浮いているのだ。
その面の刳り貫かれた右目の部分から、生身の眼球が美帆を睨む。
「私ね。このお面無しじゃ生きてはいけなくなっちゃったの」
今度は左腕が何処からともなく現れる。
黒いタイツにその腕をつつみ、手には大きめの純白の手袋。
闇に映える純白の手袋が仮面をはずす。
「そ、その顔」
「醜いでしょ。でも、これで間違えられなくて済むわね」
顔の左半分に重度の火傷の跡がある。
完全に焼け爛れて、左眼も溶け落ちその場所には暗い空洞があるのみだ。
「知ってた?あなたたちにつけられた傷は、あなたたちの血でしか治すことが出来ないのよ」
再度、仮面をつける。
「だから、美帆の血を。私にチョウダイ」
左手の手袋を突き破り、赤黒く鋭い爪が伸びる。
そして、その爪が美帆の首を。
「きゃぁぁぁぁ」
「ん。ここは」
「お目覚めね。いい夢は見れた?」
美帆が目を覚ますと、目の前には私服姿のマホが笑顔で立っている。
しかし、その顔には火傷の跡が痛々しく残っている。
逆に美帆は何も身に付けていない。唯一左腕にはブレスレットだけが申し訳無さそうについているだけだ。
「美帆の血じゃ、治らなかったわ。やっぱり、傷をつけた本人じゃないとダメみたい」
美帆が身体を動かそうとするが全く動かない。
その背には巨大な十字架が。
そして両腕、足、首、腰の5箇所を紐で縛られくくりつけられている。
「だから、美帆には、ヒビレンジャーを倒すための生贄になってもらうわ」
「そんな!やめなさい、真帆。こんなことをしても」
「いつまでも姉貴面しないでよ」
美帆の胸に爪をつきたてる。
あらわになっている真っ白な肌に、鮮血が流れる。
「綺麗な肌。すぐにこの肌を真っ赤に染まるのよ。美帆のお友達のせいでね」
「みんながここを見つけ出してくれます」
「無駄よ。ここは私が作り出した空間。ここを見つけ出すことは出来ないわ」
今、二人がいる場所は、白雪家の美帆の部屋に似ている。
しかし、それはマホがそう作っただけであって、光たちのいる世界とは遠くかけ離れた世界。
「それじゃあ、そこで死ぬまでゆっくりしていってね」
マホが立てかけてあった、全身鏡の中に吸い込まれるように入っていく。
「みなさん。ごめんなさい」
「美帆さんを何処へ連れて行ったの!」
「遠いところよ。すぐにあなたたちも同じところへ連れて行ってあげる」
マホの手にした巨大な鎌が、光たちを襲う。
「きゃぁ!」
琴子が鎌の一撃を受け吹き飛ぶ。
マホのスピードは今までの比ではない。
ことごとく光たちの攻撃を回避し死角に現れ鎌を振るう。
「は、早いのだ」
「ここまで不規則に動かれたら、捕まえるのも難しいわね」
マホはパワーが低いために、決定的な打撃を出せないのが光たちには幸いだが、捕まえられなければ倒すのは無理だ。
それに時間が経てば、集中力も途切れ、変身が解けてしまう可能性もある。
そうなってしまっては、成す術がない。
「そこ!ファイヤーウォール!」」
光が、マホが出現したポイントに炎の壁を出現させる。
「残念でした」
しかし、寸前で後方へ飛んでさけられてしまう。
「なら、これならどうなのだ!グランドファング!!」
今度はマホに向かって、メイからマホまで直線上の地面から無数の刺が伸びていく。
「んふふ。そんなの横によけちゃえばいいんだよ」
バカにするかのように手をメイの方に振りながら、横に跳躍しそれをかわす。
「琴子さん」
「えぇ。点や線の攻撃がかわされるなら、面の攻撃はどうかしら」
すみれが精神の集中にはいる。
水蒸気が集り、彼女の回りに無数の水の塊が浮かぶ。
「豊穣の恵み」
その水の塊が、一斉に地面に落ちる。
地面の広い範囲に水の染み入る跡。
「水生木。水は木々をはぐくむと言う理。腐の樹海!」
地面から無数の木や草が生えてくる。
その勢いはすさまじく、たったの数秒で辺りは森林のごとく植物が成長する。
成長した木々により、4人の姿はマホの視界から消える。
「これがどうしたの、木が生えただけじゃない。こんなのこの鎌で切り倒せばいいだけよ」
マホが鎌を振るう。
その一帯の木が、まるで豆腐を包丁で切るかのように簡単に切り倒される。
「これで、姿を隠したつもりでしょうけど。無駄よ!あなたたちもこの鎌で同じ運命にしてあげるわ」
「その鎌で戦う気なの?」
「え?」
マホが鎌を見ると、刃の部分の半分以上が溶けてなくなっている。
「ここの植物をただの植物だとは思わない方がいいわよ」
「くそ!」
マホが鎌を投げる。
すると、鎌は柄の部分までもが鋭い刃となり、辺り一面の植物を切り裂く。
「あ!?」
マホに向け無数のつぶてが飛んでくる。
先ほど切り裂いた植物の中に、巨大な花があり、その植物が衝撃で種を飛ばしてきたのだ。
花はマホの周りに多く存在し、そのため、全方位からつぶてが飛んでくる。
「空間転移が出来ない!?」
「無理です。この一帯には結界を張りました。逃げ場はありませんよ」
すみれの声が辺りに響き渡る。
「くぅ」
花からのつぶてがマホを襲う。
足元が悪くスピードもでずに、ほとんどかわすことが出来ずにただそのつぶてを受けてしまう。
つぶてを身体で受けたマホの服が、無残にも裂かれていく。
「どう?まだ戦うの?」
琴子とすみれが、マホの前に姿をあらわす。
「美帆さんはどこ?教えて」
光とメイが、マホをはさみ反対側から現れる。
マホは完全に逃げ場を失ったようなものだ。
「教えるわけがないでしょ」
「そう」
琴子が指を鳴らすと、2本の巨木からツタがマホに向かって飛んでくる。
そのツタはマホの両腕を捕らえ、それぞれ左右に引っ張る。
「くぅぁぁぁ」
両腕が肩から引き裂かれるような力がツタにかかる。
それどころか、ツタには無数の刺が生え、マホの腕を絞めつけるたびにその刺が食い込む。
「あまりこういうやり方は好きではないのだけれど。白雪さんはどこ?」
「教えないね。ぐぁぁぁ」
マホの腕にかかる力が強くなる。
「教えなければ、私はこのままあなたの腕を引き裂きます」
「こ、琴子!?」
「光は黙っていて」
強い口調に、光たちが一歩下がる。
琴子がマホの側に歩み寄り、サーベルを彼女の首に当てる。
「う、腕が。くぅぅぅ」
「さぁ、白雪さんの居場所を言いなさい。時間をかければかけるほど、あなたの腕は絞まっていきます」
「あぁぁ。きゃぁぁぁぁ。なんちゃって」
仮面がはずれ、マホが舌をちらりと出す。
「え?」
マホが気合を込めると、ツタはちぎれ巨木が倒れる。
目の前で呆気に取られている琴子の腹部に、マホの蹴りが炸裂する。
ブーツにはナイフが仕込まれており、それが琴子のスーツごと腹部に傷をつけた。
「あら。珠のお肌に傷がついちゃったじゃない」
マホが、手袋をずらし、ツタでつかまれていたはずの手首をあらわにする。
しかし、そこには傷一つついていない。
身体の方も、服は裂けているが、皮膚が傷ついている場所はない。
「そんな」
「傷がないのだ!」
「ホント、美帆可愛そう。今ごろあの子、傷ついて泣いてるんじゃないかな」
落ちた仮面を拾い上げまた顔につける。
「第2ラウンド、開始しようか」
「くぅ。はぁはぁはぁ」
十字架に縛り付けられた美帆の身体には無数の傷があった。
手首には何か細いもので縛られたような跡。その上、針のようなもので刺されたように穴があいていた。
美帆は、先ほどから見えない力により、体中に傷が増えていく。
「これは、どういう、こと、でしょう」
既に息も絶え絶えだ。
先ほどはあまりの痛みに失神しかけたくらいだ。
「ブレスレットの力も、働いてない、みたい、ですね」
普段ならすぐに治る傷が全く治らない。
無常にも、真っ白な肌を真っ赤な血が染めていく。
「なんとか、ここを、脱出しないと」
美帆は、以前にマホが十字架を鎌に変えたのを思い出す。
ゆっくりと気持ちを落ち着け、背後の十字架に集中する。
「んっ!」
美帆の右頬に新しい傷が生まれる。
痛みに耐え、十字架の形を変えることに意識を向ける。
その間にも顔に傷が増えていく。
「もう、少し」
十字架が徐々にその姿を変化させはじめる。
「やめて!!」
すみれが鞭でマホからナイフを取り上げる。
先ほどまで、自分の顔にナイフの刃を滑らせていたのだ。
「どう。私は傷がつかない体になったのよ」
「どういうことだろう」
「多分、他の何かがその傷を肩代わりしているとしか思えないわね」
マホはナイフで顔の右半分を傷をつけていたにも関わらず綺麗なものだった。
樹海の中でマホと対峙する光たち。
ただし、マホに傷がつけれないため、何も身動きが出来ない状態だ。
「誰が肩代わりしているのだ?」
「多分。状況からいって、白雪さんでしょうね」
もし、そうであればさらに攻撃することは出来ない。
マホへの攻撃はそのまま美帆へ攻撃していることになるのだから。
「どうにかして白雪さんを助け出せれば」
その時、マホの前方の空間がガラスのように割れた。
美帆の背中の十字架は、溶けて金属の塊になった。
「うまく、いきましたね」
美帆は先ほどマホが移動に使った鏡を見る。
鏡は淡く光を放っており、そこにはマホと対峙している光たちが映っていた。
「ひょっとして」
美帆は近くにあった椅子で、その鏡を叩き割る。
すると、今までいた部屋の空間が歪み、今度は見慣れない森が姿をあらわす。
「美帆さん!」
「白雪さん」
「白雪先輩なのだ」
4人の声が重なる。
美帆が横を向くとそこには光たちがおり、その逆側にはマホが立っている。
ただし、マホの身体には無数の傷が出来ていて、体中から血を流している。
「転身!」
美帆の身体がスーツに包まれる。
「ば、バカな。あの空間を抜けてきたの!?」
「マホ。あなたももう、これでお終いです」
美帆が銃を構え、マホに近づく。
「く。呪いは解けたわけじゃないんだ!あんたが私を攻撃したらあんた自身も傷つくよ」
「けど、私が傷つけば、マホも傷つきます」
その場にいた全員が目を疑った。
「真帆ちゃん。あの、閻魔様のいる世界で会えるといいですね」
美帆の身体が鮮血に染まる。自ら大量の血を吐いた。
美帆は何もしていない。だが、異世界を抜ける際に体中にダメージを身体に負っていた。
それが、今、耐え切れずに起こってしまったのだ。
「うぅ。くぅぅぅ。あぁぁぁ!!!」
マホも同じように血を吐く。
「はぁはぁはぁ。死んでたまるか」
マホが力を振り絞り、呪いを解くための印を組む。
「ダメよ。一緒に」
美帆がマホを抱きしめる。
それにより、印はほどけ呪いを解くことが出来なかった。
「美帆さん」
美帆とマホ。2人の身体が塵になって風に流れる。
「光さん。和輝さんを、お願いしますね」
最期まで微笑を絶やすことのない美帆。
ゆっくりと目を閉じる。
「あぁぁ。白雪先輩」
「そんな、せっかく知り合えたのに」
メイとすみれの目からは涙がこぼれる。
「これが。これが白雪さんの望んだ現実?違う、よね」
琴子は魔王に対し、怒りが燃え上がる。
美帆の身体が完全に消えてしまうまで、誰も動くことが出来なかった。
その場には純白のブレスレットが、太陽の光を反射し輝いていた。
光 「うぇぇぇん。白雪さんがぁぁ」
美帆 「よしよし。光さんは泣き虫ですねぇ」
作者 「普通、こういう場合、光を抱きしめるのは和輝の役目だろう」
真帆 「あ、あいついないよ」
作者 「なに!?」
真帆 「なんか、お姉ちゃんが裸で傷つくの見てたら、走ってどっかいっちゃった」
匠 「大方、トイレだろ」
美帆 「まぁ。和輝さんたら」
メイ 「何でトイレなのだ?」
すみれ 「さぁ。おなかでも痛くなったのかな?」
琴子 「あなたたちは、そんなのは気にしなくても、十分生きていけるわ」
作者 「と、言うわけで。華澄さんに続き、美帆がここで戦線離脱です」
華澄 「純粋なヒビレンジャーでは初ですね」
美帆 「先の台本も読ませていただきましたが。ここからは」
真帆 「そうよねぇ。いいのかしら。クレームくるわよ」
作者 「もうこの路線をここで止めるわけにはいかないだろ」
光 「始めから無理があったんだよ」
琴子 「行き当たりばったり企画を立てるからこうなるのよ」
華澄 「もう少し、考えて欲しいものです」
匠 「ここまでいわれる作者も珍しいな」
作者 「そんなこと言ってると、本当に、成人向けの書くぞ」
光 「う、そ。それは」
美帆 「今もギリギリですけどね」
チャンチャン
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