「ここなの?」
「はい。そうですよ」
「光。観念なさい」
 遊園地は平日と言うこともあってかなり空いている。
 そのなかで、すみれに連れられやってきた場所。
 それが、このお化け屋敷だった。
「だってぇ。嫌なものは嫌だよぉ」
「先輩。なさけないのだ」
 光がお化け屋敷の前で座り込んでしまって立ち上がろうとしない。
 陽ノ下光。苦手なもの『お化け』
「大丈夫ですよ。中のお化けは機械か人間ですし。本物なんてたまにしかでませんから」
「うわぁぁぁぁぁん」
 ついに泣き出した。
 これが18歳の女性の態度だろうか。
「はいはい。もういいわ。すみれさん案内して」
 琴子が無理矢理引きずって中へ入る。
 最初はいたって普通。
 井戸や柳があり、暗い雰囲気をかもし出しているタイプの場所だ。
「ね、帰ろうよ」
「先輩を助け出せなくてよいのか?」
「う。いやだけどぉ」
 またも涙目になる光。
 井戸から白い和服を着た女性が勢いよく出てくる。
「きゃぁぁぁぁ」
「ただの人間ですよ」
「ちょっとリアリティが少ないですよね」
「もう少し、出方を研究してほしいのだ」
「和服の着付けが出来てない」
 お化け役の女性。色々言われて、落ち込んでそそくさと井戸の中に戻る。
 この後も、光1人が驚いて、残りが辛口の評価をつけながら先に進んでいく。
「あふぅ。もぅ、歩けないよ〜」
「ほら出口はすぐそこよ」
 5人は出口から出て、陽の光を浴びる。
 約15分のお化け屋敷ツアーの終了だ。
 特に、生きた心地のしなかった光にとっては、まさに水を得た魚状態だ。
「はぁ。太陽の光が心地いぃ」
「幸せそうな顔だこと」
 1人、まさに天国にいるような顔で微笑んでいる、光。
 しかし、彼女は忘れていた。何をしにここに来たのかを。
「で、入り口はどこなのだ?」
「あっ。忘れてました」
 すみれが可愛らしく微笑む。
「入り口」
「えっと、出口のすぐ側にあった洞穴のような場所がそうです」
 徐々に光の顔が歪んでいく。
「出口の側」
「それじゃあ、行きましょうか」
 その後、光の悲鳴と共に、再度お化け役たちが落ち込むこととなった。

「うぅぅ。ひっくひっく」
「いいかげん泣き止みなさいって」
「だって。だってぇ」
 お化け屋敷を再度抜け、すみれが言う入り口に足を踏み入れたときのこと。
 5人は一瞬にして、別な場所に移動していた。
 目の前には、半透明の身体をもつ男女が大勢。
 そう、入り口から飛ばされた先は、この世とあの世をつないでいる場所。通称、賽の河原。
 目の前で本物の幽霊を見た光は、それ以来ずっと泣きっぱなしだ。
「ここに先代の巫女という方がいるのですか?」
「はい。この世界ならば、おいそれと魔王も手出しできませんから」
 すみれが元気に進んでいく。
 川原には、多くの幽霊が橋渡しの船を待っている。
「いろんな話に聞くほど、嫌な場所ではないわね。川も綺麗だし」
 よく聞く賽の河原と言えば、鬼がいて子供が石積みを行っていたり、花畑で川の向こうに知人がいたり。
 あと、普通は川は血のように赤いのが相場だ。
「そうですね。見たところ普通の川原ですし。空も川も澄んでいて綺麗ですよね」
「昔はもっとみんなが思ってるような場所だったみたいなんだけど、今の王に変わってからこうなったらしいよ」
 船を待つ幽霊の中には、携帯電話や小型のパソコンをいじっている者もいる。
 それに、いるのは日本人ばかりではない、様々な人種の幽霊が川原にはいる。
「こんな世界。あるとは思ってなかったのだ」
「それを言ったら、ベルスペースとかメローラさんだってそうじゃないですか」
 すみれの話では、この世界は厳密には死後の世界などではなく、精神体が目視可能な異世界ということだ。
 元来、この世界は1人の王が納める普通の世界だった。
 しかし、異空間をさまよう死者の精神体を哀れみ、今では光たちの世界の死者の受け皿となっている。
「ひっくひっく。怖くない?」
 いまだに、琴子の裾を強く掴んだままの光が顔を上げる。
「怖くないわよ。むしろ、日本よりも綺麗なぐらいよ」
 空には鳥が飛び、地には虫が這う。川には魚が群れをなし、森では動物たちが駆け回る。
 自然が活きているとは、まさにこのことだろう。
「あそこに巫女様がいます」
 すみれが指す先には、五色の鳥居が並びその奥に一つの社が建っている。
 鳥居は手前から、青、赤、黄、白、黒。それぞれが五色と五行を表している。
「へぇ。綺麗な鳥居ね」
「そうですね。それに、この色。不思議な色合いです。自然の色とは違うなにか」
 鳥居をくぐって、社の前に立つ5人。
 社からは不思議な力が感じ取れる。
「暖かい」
「まるで、お母様に抱かれているようなのだ」
『はじめまして』
 社の中から声がする。
 凛とした美しい声。
 ただ、光にはこの声に聞き覚えがあった。
「私は、二度目ですよね」
『覚えていてくれましたか』
 社の扉が開き、社内から巫女装束の女性が姿をあらわす。
 この事件の始まりの日。
 ブレスレットから映し出された女性。
「すみれさん。彼女をここまで連れてきていただき、ありがとうございました」
 巫女が三つ指をつき、頭を下げる。
「あ、頭をあげてください。私はただ、遺言を守っただけだら」
 巫女が顔をあげる。
「光さん。手を」
「あ、はい」
 光が手のひらを上に向け、巫女のほうに差し出す。
 巫女がその手のひらの上に自分の手を乗せると、そこから青白い炎が上がり、2人の手を包む。
 その炎を見つめる光と巫女。
「あっ」
 突然、光が声をあげる。
 光の頭の中に、様々な情報が流れ込む。
 100年前の戦い。そして。
「光?」
 琴子が光の顔を覗き込むと、光の目から涙が流れていく。
 喜びや恐怖ではない。
 人が真に涙を流す理由。悲しみのために。
「こんなの。ひどすぎるよ」
「あなたのような少女にこの記憶を託すのは、少々酷かと思いましたが」
 光の中に流れ込んだ記憶の大半は、サクシャの記憶だ。
 生まれ、そして闇の飲まれ。自分の意志とは違う意思の殺戮や破壊。
 だが、その意思も徐々に闇の飲まれ、完全に闇と一体化してしまった自分。
「今はまだ、記憶の整理に時間がかかるでしょう。しかし、時間と共にわたくしの全てがあなたの糧となります」
「ありがとうございます。そして、さようなら。巫女様」
 巫女の身体が徐々に透き通っていく。
「役目を果たし終えて成仏するのね」
「いいえ。私はあらゆる世界から消滅してしまうでしょう」
 下半身が完全に消え去る。
「そんな!?どうしてですか?」
「私は無理をしすぎました。すでに精神体すらも残りわずか。このまま消えてしまうのです」
 両腕が消え、全てがさらに薄くなる。
「そんなのおかしいのだ!そんな」
「そうです。それじゃあ、私たちは巫女様を」
「最期にみなさんに会えて本当によかった。あなたたちに幸あらんことを」
 巫女が完全に消え去る。
 同時に、社や鳥居もなくなり、そこはただの野原と化す。
 残ったのは、巫女の頭についていた、青い髪飾りのみ。
「いいんだよ。いま、あの先代の心は、私が受け継いだから」
「光」
 琴子が光を抱きしめる。
「なぁんだ。結界が解けたと思ったら、あのおばさん消えちゃったんだ」
「誰?」
 木の枝に腰掛けるタクミが、光たちを見下ろしている。
「坂城くん?」
「残念、光ちゃん。それは間違いだよ」
 木から飛び降りると同時に、身に付けている服装が変わる。
 黒いシャツとジーンズ。その上に、真っ黒のコート。
 両手には、メイの腕ほどはある、巨大な拳銃を持っている。
「殺人鬼タクミ。カズキの命により、キミたちを殺しに来たんだ」
 銃口を光たちの方へ向ける。
「それにしても、八門遁甲だったとは。恐れ入ったね」
 八門遁甲。この名前が有名になるのは、かの天下人『織田信長』の戦略であるが、実は古くよりある言葉だ。
 元々は何かを守るために、入り口を呪術で八箇所に分け、誤った入り口に罠を仕掛け侵入者を防ぐためのもの。
 マホやタクミが発見したのは、その誤った入り口のほうだったのだ。
「本当はキミたちがおばさんと出会う前に、殺すのが役目だったんだけど。ま、キミたちをしとめれば変わらないよね」
 全く表情を変えずに、引き金を引く。
「あれ?」
 しかし、傷ついたのは光たちではなくタクミの方。
 タクミの身体には、自らが放っただけの弾丸が突き刺さっている。
「な、なにをしたんだ」
 口からは血を吐く。
 しかし、その色はまるで泥のように真っ黒だ。
『ここでの殺生はご法度だと言うことを知らんのか。若造が』
 光たちは煙のようにその姿を消し、変わりに体長が10メートル近い大男が現れる。
「え?あ、あれ?」
「どうして。私たち、撃たれたんじゃ」
 その大男の手のひらに乗っている光たち。
 彼女たちもまた事情が飲み込めていないようだ。
『我が名はこの国の王ヤマ』
「ヤマだと!?ちぃ、閻魔か。俺の攻撃を反射するなんて」
 タクミが、再度銃を構え、再度その銃口が火を噴く。
 今度は、実体弾ではなく、小型の火球がヤマに向かって飛んでいく。
『無駄だ』
 しかし、それすらも片手で受け止められ、同じようにタクミの身体に傷をつける。
 身体や顔のいたるところが焼け爛れ、体中の神経もズタズタになり、その場に膝から崩れ落ちる。
「俺もここまでか」
 タクミがコートを翻すと、その身は一瞬にして消えてしまった。
 ヤマがゆっくりと、光たちを地面に降ろす。
「ありがとうございます」
『なに。あの巫女との約定を果たしたまでだ』
 先代の巫女には、タクミの急襲がわかっていたようだ。
 そのため、あらかじめヤマに彼女たちのことを頼んでいた。
『さぁ。この世界から出してやろう。出来れば、次に会う時はキミたちは天寿をまっとうしていることを願うよ』
 ヤマが5人の頭上に手をかざすと、一瞬にしてその身が消える。
 残ったマヤは、青い髪飾りを壊さないように手にとり、そっと胸にしまった。

 5人が現れたのは、伊集院の屋敷の中庭。
「それにしても、閻魔大王とは恐れ入ったわね」
「えぇ。こんな経験ができるなんて思ってみなかったです」
「けど、あれだけ強いなら、閻魔大王に魔王退治してもらえばよいのだ」
「だめなんです。閻魔大王も魔王も同じ力だから、直接的に攻撃が出来ないんですよ」
 4人はこの経験の率直な意見を言い合う。
 ただ、光の表情だけがちょっと暗い。
「先輩。疲れたのか?」
「当たり前よ。先代の記憶を受けてるんだから」
「それじゃあ休みましょうか」
 光の表情の原因は疲れではない。
 魔王封印の方法。
 和輝を取り戻す方法。その内容のせいなのだから。

「くそっ」
 タクミがいたるところから血を流し、魔王宮の通路を歩いている。
「どうする。このままじゃ俺は死んでしまうぞ」
 ただ、その出血量からするともう長くは持たなさそうだ。
「タクミ!?どうしたのその傷」
 アカネがタクミに気付き近寄ってくる。
 一瞬、タクミの口の端が持ち上がる。
「うぐ。ア、アカネ。ごめん。俺、もう」
「ダメだよ死んじゃ。ボクを一人にしないで」
 タクミの手が、アカネの髪を優しく撫ぜる。
「一人じゃないよ。カズキを・・・頼む」
 タクミの身体から力が抜ける。
 そして、ピアスを残し塵と化し、消えてしまった。
「やだよ・・・みんな・・・」
 残ったピアスをぎゅっと握る。
 ピアスが砕け、そこから漏れた光が、アカネのピアスに吸い込まれる。
「これは・・・そっか、タクミクン。ずっと一緒なんだね」
『あぁ。ずっと一緒だよ。ずっとね』




光   「お化け屋敷は嫌だって言ったのに!!」
作者  「あれは和輝の案だ。俺じゃない!」
光   「和輝君!!!」
和輝  「お〜。なかなかいい泣き顔が撮れたぜ。グッジョブ」
光   「グッジョブじゃないよ」
琴子  「この男には何を言っても無駄よ」
メイ  「そうなのだ。そう言う場合は、言葉じゃなくて」
和輝  「な、なんなんだその馬鹿でかい拳銃は」
匠   「それ、俺が劇中で使って奴だ」
メイ  「心配しなくて言いのだ。ちょっと痛いだけだから」
光   「やっちゃえやっちゃえ」
メイ  「ファイヤー!!」
和輝  「いてぇぇえ」
すみれ 「あ、和輝さんに毬栗がいっぱい刺さってる」
琴子  「まだ、青いわね。もう少し熟れればいい栗ご飯が作れるのに」
メイ  「第2弾ファイヤー!!」
茜   「あ〜、今度はウニだウニ」
ほむら 「ウニご飯!」
美幸  「美幸は〜、お寿司がいいなぁ」
作者  「お〜い。和輝が血を流して倒れてるぞ」
琴子  「気にしないで」
華澄  「はぁい。ご飯が炊けましたよ」
みんな(和輝以外)
    『いっただっきま〜す』
作者  「もう、こいつらに逆らうのやめよう」
   チャンチャン
 
 

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