「動いたら死ぬわよ」
 ベルスペースから戻ってきた光たちを待っていたのは、転送先として指定した裏山と1人の剣士。
 その剣士の剣が美帆の喉元に突きつけられる。
「あ、あなたは!?」
 かろうじて琴子だけが、声を発することが出来た。
 剣士は真っ黒な甲冑に身を包んでおり、まるで中世の騎士のようだ。
 顔は同じく真っ黒なマスクで覆われている。
「私は暗黒騎士。ヒビレンジャー。あなたたちもこれで終りよ」
 騎士の手に力が加わる。
 剣が美帆の喉元を貫くかと思われたその時、一条の閃光が騎士の剣をはじく。
 琴子がその隙に、美帆を騎士から離す為に、自分の方へ抱き寄せる。
「誰?」
 騎士が閃光の元へ顔を上げる。
 光たちのすぐ後ろの巨木の上。そこに、ヒビレンジャーのスーツに身をまとった1人の姿が。
「え?」
「ヒビレンジャー、なのでしょうか?」
 しかし、そのスーツの色は紫。
 ヒビレンジャーの中にはその色は存在していない。
「誰でもいいわ。消えなさい!」
 騎士が右の篭手から小型のナイフを取り出し、投げつける。
 しかし、そのナイフは当たることは無く空を切り裂くのみとなった。
「今のは一体」
「それを気にするのは後なのだ。今は、こいつを倒すのが先なのだ!」
「伊集院さんの言うとおりよ。行くわよ」
『転身!』
 4人の姿が光と共にヒビレンジャーへと変わる。
 1人欠けた状態ではあるが、今はこれで戦うしかない。
「先手必勝なのだ!」
 メイと美帆が腰から銃を抜き、撃ちだす。
 騎士は閃光をものともせずに鎧で受け止め、落ちた剣を手に取る。
「これなら!」
「いくわよ」
 琴子が上段から振り下ろし、光が足元をサーベルでなぎ払う。
 上下それも縦と横を合わせた同時攻撃。両方を避けるのは至難の業だ。
「避けられなければ受ければいい」
 足元に剣を刺し光のサーベルをはじき、左腕の篭手で琴子の斬撃を受け止める。
 そして、隙の出来た琴子の胸部に強烈な蹴りを放つ。
「かふぅ」
 吹き飛びぶつかった木が折れる。
「こと、かはぁ」
 足元で体勢を起こそうとしている光を、足で踏みつける。
「陽ノ下さんを放して!」
 美帆とメイが銃を連射する。
 しかし、騎士の姿は一瞬にしてその場から消え、2人の後方に現れる。
 跳躍し離れようとする2人に向けて剣を一振り。
 剣風は真空となり2人のスーツを切り刻む。
「きゃぁぁ」
 体勢を崩し、地面に激突する。
「他愛もないわね。この程度とは」
 騎士は美帆の頭を手で掴み、片手で軽々と持ち上げる。
「抵抗しなければ痛い思いをしないですむと言うのに」
「ファイヤーボム!」
 騎士の背中で爆発が起こり美帆を放してしまう。
 光が立ち上がり、手を騎士に向け突き出している。
「木霊落し」
 琴子の言葉に反応し周りにある木が一斉にざわめく。
 そして、それぞれの枝が膨れ上がり巨大な木槌と化した。
 琴子が上げていた腕を下げると、一斉に木槌が騎士に向かって飛んでいく。
 すさまじい音と共に、騎士が木槌に打たれ何度も空中で吹き飛ばされる。
 地面に叩き付けられるが、すぐに立ち上がり4人の方を向く。
「無傷?」
「まさか、あれだけやればいくらなんでも」
 立ち上がった騎士の鎧には全く傷はついていない。
 丈夫というレベルを超えている。
「その程度?」
「まずは、頑丈なあの鎧をどうにかしないといけないのだ!狙いはマスクなのだ。あそこだけひびが」
 鎧は無傷であるが、そのマスクには細かい傷がついている。
 そこを砕けば、人間の弱点の顔が剥き出しなる。
「木喰縛り!」
 琴子の技で木が騎士の身体を縛り上げる。
 ゴーレムすらも抜けれないほどの力だ、騎士も力をこめるが抜けることが出来ない。
「鋼の槍」
 美帆の手に、鋼鉄製の槍が現れる。
 切っ先の刃は、鏡のように研磨され、鋭くとがっている。
「いきます」
 美帆がそれを投げる。
 美帆の力は関係なく、その槍は徐々にスピードをあげ騎士の仮面に突き刺さる。
 刺さったのはわずかに切っ先の数ミリだけ。しかし、厚さ1センチほどの仮面を割るにはそれで十分だった。
「え!?」
「そんな、先生」
「うそなのだ。どうして1週間前に行方不明になっていた先生が」
「なぜですか?答えてください!」
 仮面の下。
 その素顔は麻生華澄。彼女たちと共に戦ったヒビキノグリーン。
「か、華澄さん」
「光ちゃん。戻ってこれたのね」
 琴子の集中が切れ、華澄を縛っていた木が消え去っている。
 逆に身動きが取れない光の元へ歩いてやってくる。
「よかった。心配していたのよ」
 華澄の手が、光の喉に伸びる。
「そんな、華澄さん」
「本当に心配だったのよ。私があなたを殺してあげれなくなりそうで」
 華澄が光の首を締めそのまま持ち上げる。
「ふふ。光ちゃんは最期にしようと思ったんだけどね。やっぱり美味しいものを最初にしましょう」
 光の意識が朦朧としてくる。
 意識が無くなればスーツは消えてしまう。
 そうなれば、この力なら一瞬で首をへし折られてしまうだろう。
「やめてください!」
 琴子が華澄に体当たりをする。
 その衝撃で手が外れ、光がその場に落とされる。
「水無月さん。あなたが先に死にたい?」
 体当たりで体勢を崩した琴子の左腕にナイフを突き刺す。
「くっ」
「そのナイフは特別品よ。刺さるとナイフを伝わって血液が外に出てくる仕組みなの」
「はぁはぁ」
 ナイフの柄の部分から血液が滴り落ちる。
「どうして!華澄さん!!」
 光が華澄の顔を見上げる。
「もちろん、和輝君のためよ。それ以外に何があるの?」
 華澄が髪をかきあげ、左耳があらわになる。
 そこには真っ赤なピアス。
「メモラーの証なのだ」
「それじゃあ、先生は」
 メイと美帆も、その場にへたり込んでしまう。

「カスミ」
「ここは!?あ、あなたは和輝君?」
 華澄は石造りの牢獄の壁に、両手両足首を鎖で張りつけられていた。
 そして、牢獄の鉄格子の先には魔王が立っている。
「カスミ。お前を我が下僕として迎え入れよう」
 魔王の姿が一瞬消え、牢獄の中に姿を現す。
「私は屈しないわ!ヒビレンジャーの1人として」
「ふふ。強がっていられるのも今のうちさ」
 魔王の手にある鞭を床に向けて振る。
 乾いた音が牢獄に響き渡る。
「まずは、儀式からはじめようか」
 華澄の目の前には、真っ赤なピアスが浮かんでいる。
 ゆっくりとそれが左耳に向かい、突き刺さる。
「うぁっ。くっ」
 すさまじい衝撃が華澄の身体を貫く。
 今まで味わったことのない感覚が。
「さぁ、俺の味を覚えてもらおう」

 地面に腰を落とした2人の身体がスーツから、私服に戻っていく。
「戦う意欲をなくせばすぐに変身が解けてしまう。そのスーツの欠点よね」
 突如、華澄に向かってナイフが飛んでくる。
 先ほど琴子に刺したナイフだ。
「ナイフを抜けば、すぐに血は止まるわ」
「へぇ、でも痛かったでしょ。このナイフ。抜けにくいように細かい刃がいっぱいついてるから」
 琴子の傷は治ったのか血は出ていない。
 しかし、外れた仮面の下の素顔は青白く、血の気が完全に引いてしまっている。
 今にも痛みと貧血で気絶しそうなのを、気力のみで保っている状態だ。
「そこで光ちゃんが死んでいくのを黙ってみていなさい」
 華澄が光に向き直る。
 光も既に変身が解けてしまっていた。
「本当に甘いわよねあなたたちって」
 華澄が光の頬を平手で打つ。
「華澄さん。どうして?」
「和輝君のためって言ったでしょ。私は身も心も彼に捧げたの。これほどの快楽を感じたことはないわ」
 華澄の顔が上気し、頬が赤く染まる。
「思い出しただけでイッちゃいそぅ」
 華澄の指が、赤く腫れた頬をなぞる。
 そして、鋭く伸びた爪を首に滑らせ、真っ赤な線を引く。
「綺麗よ、光ちゃんの血液」
 流れ出る血液を手で受け止め、それを舐めとる。
「極上の血液。心配しないで、あなたの血は私と和輝君がちゃんと飲んであげるから」
 光の顎をつかみ、無理矢理口付けをする。
 光の口の中を、華澄の舌が犯してゆく。
「んっ」
 突然、華澄の目が見開かれる。
 光の口内には、暖かいものが華澄の口から流れ込まれる。
「センセ。ちょっとやりすぎだよ」
 華澄の左胸。
 ちょうど心臓の部分から鎧を突き抜け、腕が生えている。
 光の目には、華澄の後ろに徐々に実体化していく人物の姿が見て取れる。
「ま、マホ。なぜ」
 最期に実体化した頭。
 それは美帆の妹のマホだった。
「私はね、最初から気に入らなかったの。新参者のくせにさ。それに」
「くぁぁぁ」
 マホが腕を抜く。
 腕は華澄の真っ赤な鮮血で染まっていた。
「みんなの血は私とカズキ様のもの」
 手のひらの血液を舌で舐めとる。
「真帆ちゃん!」
「あれ、いたんだ。今日はこの女を殺しに来ただけだから、みんなは帰ってもいいよ」
 マホが右腕一本で華澄を持ち上げる。
 そして、勢いよく地面に叩きつける。
「ダメぇぇ!」
 光がマホに向かって手を突き出すと、そこから火球が飛び出す。
「え!?きゃぁぁぁ」
 火球はマホの顔を捉え、一気に燃え広がる。
「くぅ。はぁはぁはぁ」
 火の消えたマホの顔。
 その左半分は完全に焼け爛れてしまっている。
「生身で力が使えるなんて聞いてない!!くそ。あんたは絶対に私が殺してやる!!!」
 マホの姿が影の中に消える。
 その場に残された5人。いや、1人はもう人の形が残っていない。
「華澄さん!」
 もう、下半身は完全に塵となり、残った上半身も徐々に塵になっていく。
「ふふふ。まさか、あなたたちを裏切った私が裏切られるとはね」
 華澄の声にはもう生気が無い。
「どうして裏切りなんて」
「わからない?私、かなり前に種を埋め込まれたのよ」
 左腕の篭手をはずすと、そこには髑髏の模様のようなものが浮かび上がっている。
「蛇なのだ」
「じゃあ、あの戦いの時にすでにこうなることは」
「魔王。どこまでも汚いやり方をするわね」
 その左腕も塵になって消える。
 もう、残っているのは胸から上だけだ。
「じゃあ。せいぜい無駄なあがきをして苦しむことね」
 そう言うと、一瞬にして残った部分が塵となる。
「華澄さん!!」
 光の悲痛な叫びだけが、無常にも残る。




華澄  「ついにこの日が来てしまったのね」
光   「華澄さん。お疲れ様でした」
真帆  「うぅ。火傷のメイクってメンドくさいぃ」
作者  「最初は、死ぬ前に華澄さんが元に戻る予定だったんだけど、なんかそのままいってしまった」
琴子  「そうなの?まぁ、どちらにしても死ぬことは変わりないのね」
作者  「うん」
真帆  「でも、先生と光ちゃんのキス。すごかったねぇ」
光   「う」
華澄  「あ、あれは。もごもご」
真帆  「和輝君とどっちが上手?先生って結構、そういうの上手そうなんだけど」
光   「し、知らないよぉ。そんなの考えてなかったし」
作者  「つまり、何も考えられないほどよかったと」
真帆  「ほぅほぅ」
光   「もう、知らない」
美帆  「ところで、あの一瞬だけ出てきたのは?」
メイ  「あぁ。最初だけ助けて、本当に大変な時に助けてくれなかった人なのだ」
琴子  「どうせ助けるなら最後まで助けて欲しいわよね」
作者  「なに他力本願な事を」
??? 「ごめんなさい。けど、本当の私の出番は、次のはずだったのに」
作者  「そ、この話で出たのはフライングなわけ。だからちょっとだけなんだよ」
??? 「今日、急に呼ばれてびっくりしまいた」
作者  「ごめんね。なんとなく出してみたくて」
琴子  はいはい。内輪ネタはやめなさいって。もう」
美帆  「それじゃあ、次回を楽しみにしてますね」
??? 「はい。次回から頑張ります」
   チャンチャン
 
 

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