「卒業おめでとうございます」
「ありがとうなのだ」
 電脳部の部員から花束を渡された。
「梶原。新部長として、これからも頼むのだ」
「はい。この電脳部をさらに発展させていけるよう頑張ります」
 私が引退し、新部長に変わって9ヶ月。
 その間にも何度か顔をだしたが、なかなかいい感じだ。
 今日は卒業式。
 私もついに、このひびきの高校を卒業することになった。
「メイさん。そういえば、大学進学蹴ったって本当?」
 今は雪峰と屋上で話をしていた。
「うむ。お父様が急にやめろと」
「そっか。せっかく同じ大学受かったのに」
 雪峰が下を向いてしまう。
 先生やお父様に止められていたが、雪峰にだけは言っておくべきだったか。
「けど、もう会えないってわけじゃないのだ」
「そうだよね。友達だもんね」
「けど、メイよりも彼氏と一緒な方が嬉しいのではないか?」
 雪峰は、去年の夏から付き合っている男性がいる。
 一度紹介してもらったが、雰囲気が和輝に似ていた。
「ん〜。でも、あの人、最近会ってくれないんだもん。今日だってせっかくの卒業式なのに」
「じゃあ、あれは誰なのだ?」
 校門の方を指差す。
 その先には一人の男性が立っていた。
「あ。優さん」
「いってやるのだ」
 その男性は雪峰の彼氏。
「うん。あ、メイさん、絶対に先輩を離しちゃダメですよ」
 それだけ言うと、階段を駆け下りていく。
 ふぅ、先輩・・・和輝か。
 3日前に電話が来てから、音沙汰がない。
 一応、電話は掛けているのだが。
『現在、電源が入っておりません・・・』
 こっちからかけても、電源をいれていないのか、全然つながらない。
 事故ではないと思うのだが。
「あ、やっぱりここにいた」
「ったく、探したぞ」
 屋上に見知った顔が上がってくる。
「あ、光にバカ猿」
 今日は来賓として来るって連絡を受けていたな。
 2人が卒業してからは会うのは初めてだ。
「ここも懐かしいな」
 光が街の方を眺める。
 そう言えば、和輝が向こうに行って、初めて連絡がつかなくなった時も、3人でここで話をしたな。
「バカ猿って言うな。チビ」
「少しは伸びたのだ!」
「アタシから見ればまだまだチビだよ」
 このやり取り、なんか懐かしい。
 光たちが卒業してからと言うもの、張り合いがなくてつまらない時が多かった。
「どうしたの?」
「和輝に連絡がとれないのだ」
 2人が顔を見合わせる。
「やっぱり、アタシたちが来て正解だったな」
「うん」
 2人でうなずく。
 何が何なのかさわっぱりわからない。
「あそこにいるのは誰かな?」
 光が中庭の方を見る。
 そこには、一人の男性。いや、和輝が立っている。
「どうして・・・」
「どうしてって、お前の卒業式に来ないわけ無いだろ」
「ほら、早く行ってあげてよ。式が終わってからずっと待ってるんだから」
 式が終わってからって。
 もう、1時間以上たっている。
 ずっと、あの場所で。
 私は駆け出した。
「どうして、一言でも言ってくれないのだ」
 階段を下り、玄関を出て、中庭に駆け込む。
「はぁはぁ」
「ん。あ、メイ。卒業おめでとう」
「おめでとうではないのだ!!どうしてここにいることを言わないのだ!!!危うく帰ってしまうところだったのだ」
 私が怒っているが、和輝は微笑を続けるだけだ。
 なぜ、そんなに微笑んでいられるのだ。
「ううん。俺はそんなことは無いって信じてた。ここには伝説があるんだから」
「伝説?」
 確か、卒業式の日に中庭で告白して鐘の音がなったカップルは幸せになるというあれか?
「けど、鐘は壊れていてならないのだ」
「うん。でも、卒業式の日に告白するならここでって決めてたし、絶対にメイは来てくれるって信じてたから」
 告白?
「メイは来なかったかもしれないのだ」
「ちゃんと来たじゃない」
「これは、光たちが」
「過程はどうでもいいんだよ。ちゃんと来てくれたんだから」
 伝説。奇跡。そんなものはメイは信じていない。
 和輝に再会できたのは、和輝が約束を覚えていたから。だからそれは奇跡でもなんでもない。
「けど、心配したのだ。3日前に連絡がきたっきり、全然電話にもでなくて」
 私は泣いていた。
 大粒の涙で。こんなにも、和輝が大切だなんて。
「ごめん」
 和輝が私を抱きしめる。
 暖かい。そしてすごく安らぐ。
「メイ。今日は俺はここで君に告白するために来たんだ」
「メイは、和輝の恋人になれるのか?」
「ううん」
 和輝が私を離し見つめる。いつになく真剣な表情だ。
「メイ。俺は君を好きだ。愛している・・・俺と結婚してくれ」
 え。
 けっこん?
「今日はそれを言いたくてここに来たんだ」
 私の左手の薬指に、綺麗に光るものが、和輝の手によってつけられる。
 指輪。
 まぎれもない、エンゲージリング。
「和輝・・・嬉しいのだ。今、メイは今までで一番嬉しいのだ」
 和輝に抱きしめられる。
 胸が熱い、ものすごく、涙も溢れてしまう。
 リン・ゴーーン・・・リン・ゴーーン・・・リン・ゴーーン
「鐘が」
「鳴ってるのだ」
 壊れて鳴らないはずの鐘が、高らかと響いている。
「奇跡なんて信じてなかったのだ」
「俺だってそうさ。けど、この事実は」
「神様がくれた奇跡なのだ」
 私は絶対に幸せになれるのだ。こんな奇跡が起こったのだから。
 この鐘の音は、まるで教会の鐘のように。
「メイ。絶対に幸せにするから」
「和輝。一緒にいるだけで幸せなのだ」
 口付ける。
 2人だけの結婚式。
 私は何があっても、絶対に和輝と一緒に。
 
 

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