部屋の中にゲームの音楽が流れる。
「さて、明日から連休だし。今日は徹夜だな」
俺にはここ1ヶ月ほど前から、はまっているゲームがある。
最近増えてきたネットワーク型RPGなのだが、このゲームは少し違う。
なんと言っても自由度が半端ではなく高いのだ。
「はじめる前に掲示板でも確認するか」
まずは職業の数が800以上。
もちろん、街の外でモンスターと戦ったりして冒険するのも、街の中でお店を構えるのも自由。
と、いうか。このゲームにNPCが極端に少ないのだからそうなるのはあたりまえだ。
NPCとはノンプレーヤーキャラクター。いわゆる、お決まりごとを伝える、町人や商人などのことだ。
「目新しい情報は無し。いつもどおり求人関係だけか」
そのせいで、ほぼ全てのことをプレーヤーがやらなくてはならない。
だから、商売なども自由に出来る。生産者がいれば小売りを営むものもいる。もちろん、販売も。
まさにもう一つの世界と言っても過言ではない。
「おぉ。ついにプレーヤー人数200万人突破か」
ネットゲームでこれほどの人数はすごすぎる。
どれだけ巨大なサーバーを使用してるのか。
「さて、ゲーム開始」
テレビには俺の分身でもある剣士が映し出される。
今日はどんな冒険が待っているのかな。
俺は泊まっていた宿屋の1階に降りる。
この街には初めて来たからなぁ、何もわからない状態なんだよな
1階は、酒場になっているみたいだからここで情報を集めておこう。
「あんた、賞金首のノヴァだな」
階段を下りると3人組にいきなり声をかけられた。
ノヴァとは俺の名前だ。
「そうだが。俺のこと賞金首って言うことは、お前らはウォールドの仲間か」
ウォールドとは俺の所属する組織『ミスリル』と敵対している組織『ネオン』ボス。
それにしても宿屋で襲撃とは、何を考えているのか。
「たった3人。それもレベル20程度で俺の相手になると?」
「3人じゃねぇ」
男の一人がそう言うと、酒場の椅子に座っていたやつらが一斉にこちらを向く。
これ、全部がそうなのか?30人は越えているぞ。
「お前が俺たちの仕切る宿に泊まったのが運のつきだ」
しまった、昨日は夜、急に眠くなって下調べもせずに、着いたこの街のこの宿屋に泊まってしまったんだった。
よりにもよって敵対組織の宿とは。
「しゃぁない。相手になるからかかってきな」
ま、これだけいればレベルアップできるかも。
「た、たった5ターンで全滅だと!?」
「いくら束になっても、レベル130の俺を相手にするのはちょっと早かったかな」
ん〜。おしい、もう少しでレベルアップだけどちょっと足りない。
「お前を倒せば131になるな」
俺が男に近寄ると、男が不意打ちをかけてくる。
不意打ちのスキルをもってるってことは、こいつはシーフか?
1対1で負けるわけもなく、軽くあしらう。
「うっしゃ」
ウインドウにレベルアップを知らせる文章が表示される。
100を越えた後は、もう全然レベルがあがらないから、やきもきしてしまう。
その分、上がったときはものすごく嬉しいけど。
「ま、一日後には復活できるんだし。機会があったらまたきな」
俺は宿屋を後にする。
「待つのだ!」
宿屋の前に3人の女性が立っている。
レベル以外のステータスが見えないところをみると『ネオン』のやつらか。
3人ともレベルは116。
さすがに同時に相手するにはきついレベルだ。
「クロエ。ノア。準備はいいか」
が、どうやら相手はやる気満々。
「もちろん。フレイム。いつでもいいわよ」
「こちらも準備万端なのだ」
俺も剣を構える。
戦闘開始だ!
「先手必勝!」
フレイムの拳と俺の盾がぶつかり合う。どうやら、こいつは拳闘士か。
しかも、相手に先手をとらえてる。不意打ち!?
「甘いわよ」
クロエという少女が炎で燃え上がるナイフで切りかかる。マジックナイフか?
ってことは、この少女はシーフ。
2人の動きは、スキル『ブラインド』を発動させる。
「やばい、もう一人の敵の動きが全く見えない」
「ノアの魔法は痛いのだ!!サンダースコール!!」
俺の頭上から雷が無数に降り注ぐ。俺の体力の3分の1を一気に持っていかれる。
ノアは魔道士か。にしても、このしゃべり方どこかで。
この3人、戦い慣れしている。
「だけど、1ターンで俺を倒せなかったのは失敗だな」
俺は、自分が使える魔法の中で、最も凶悪なものを使用した。
使用することで術者の周り全ての生命体のHP・MPを吸い取る技だ。
ただし、味方も無差別にかかってしまううえ、一度使うと3日間使用が禁止になるので使いどころが難しい。
「マインドドレイン!!」
俺の魔法により、3人のHPとMPの残りが微量になる。
「くっ。クロエ、フレイム。撤退するのだ」
「ちくしょう!」
「必ず貴方の前にまた」
ノアが角笛を吹くと、ドラゴンが現れ3人を連れ去ってしまう。
ドラゴンの角笛?まったく、そんなレアアイテムまで持ってるのか。
ここは『ミスリル』のギルド。各町にはかならずこういったギルドは存在する。
この街には『ミスリル』と『ネオン』両方あるようだ。いわゆる中立都市と呼ばれる街。
「その名前、ネオンの3姉妹じゃないのか?」
「あぁ。そういやそうか。しまった、倒せばいい賞金が入ったな」
ネオンの3姉妹には、ここ1ヶ月前から俺たち『ミスリル』の主要メンバーがやられている。
このゲームはレベルが高くなればなるほど、死んだ時に生き返るまで時間がかかるしかけになっている。
レベル100を越せば、4日は死んだまま。150を越えれば1週間は復活できない。
「昨日、ゼブがやられてな。この1週間セカンドキャラを育てるって言ってたぜ」
一応、最大3人までキャラクターが作れるので、死んでる間に暇をすることはないけど。
「まぁ、いいや。なんか情報ある?」
「東の森のドラゴンなんてどうだ?まだ子竜だからお前一人でも十分だと思うが?」
「そいつで憂さ晴らしといきますか」
俺が東の森でまず見たのは、子竜の死骸だった。
無残にもボロボロになっている。
「このやられ方、おかしいな。モンスター使いでもいるのか?」
子竜につけられた傷は、剣や斧といったプレーヤーが使用できる武器ではない。
なにか、大型のモンスターに噛み砕かれたような感じだ。
「嫌な予感がする」
あたりを見回すと、森の奥で魔法の光が発生するのが見えた。
急いで駆け寄ってみると、そこは森の中心にも関わらず、辺りの木がすべて焼き払われ、焼け野原となっていた。
「クロエ、フレイム!しっかりするのだ」
そこには先ほど戦ったあの女冒険者たち。
ノアだけがモンスターに対峙し、残りの2人は後ろで倒れている。
しかし、その事実よりも俺はそのモンスターに驚愕した。
「サウザンドドラゴン!?」
このゲームではドラゴンは現実時間4日で100歳の年をとる。
生まれてから4日目までが子竜。それ以降は成竜となるのだ。
普通は28日目に自然に死んでしまうのだが、まれにそれ以上生きる竜がいる。
そして、40日以上生きた竜が千年竜−サウザンドドラゴン−になるのだ。
「ちぃ」
俺は無意識のうちにアイテム欄からアイテムを選択し、ドラゴンに向かって投げた。
アイテム名『竜の繭』。このアイテムをぶつけられた竜は6時間は身動きが取れなくなる。
結構貴重なアイテムなんだけどな。
「貴様は!」
ノアが俺に気付く。
「なんて化け物を相手してるんだ。無理に決まってるだろ」
「仕方ないのだ。メイたちもこうなるなんて知らなかったのだ」
メイ?ひょっとして。
このゲームはマイクを通して、実際に喋った声が文字となる。
文字をキーボードで打たなくて良いので楽ではあるのだが、普段からの口癖なども表示されてしまう。
「とりあえず、一時休戦だ。その2人を回復してやらないと」
クロエとフレイムの2人は、動けないようだが、消えないところを見ると死んではいないようだ。
ノアが回復アイテムを使用すると、2人が起き上がる。
「ふぅ。死ぬかと思ったぜ。あの野郎の爪、麻痺だけじゃなくて毒の効果までもってやがった」
「ありがとうございます。助けていただいて」
クロエが俺に頭を下げる。
ふむ。礼儀正しい子だ。ま、ネットゲームでのマナーは、私生活より厳しいからな。
「んで、どうしてこうなったんだ?」
「ドラゴンの角笛でドラゴンを操るには、ドラゴンに角笛に付けられた短剣を刺し込まなきゃダメなんです」
「けどよ。そいつ、20日で抜けちまうんだよ」
「その上、抜けた後は、操っていたプレーヤを襲いに来るようになるのだ」
なるほど、ドラゴンを操れる代わりにそんな誓約があるとは。
高レベルじゃないと、持つのも難しいな。
ってことは、これはさっきこいつらが逃げる時に使った竜か?あの時はサウザンドドラゴンじゃなかった気が。
「なんでサウザンドドラゴンなんだ?さっきの竜は500歳程度だったろ?」
「短剣が刺さっている間は成長しないで、抜けた時に一気に成長するみたいなのだ」
なるほど、それで20日分。つまりは500歳成長してサウザンドドラゴンか。
そんな情報初めて聞いたぞ。
製作者の罠だな。ったく作成者の顔が見てみたいよ。
けど、この情報は情報屋に高く売れそうだ。あとで情報屋を訪ねてみるかな。
「んじゃ、時間も無いし、街でアイテム買ってドラゴン退治と行きますか」
「え!?」
「どうせ、繭がとければあんたらまた狙われるんだろ。なら、早めに倒すに越したことはないだろ」
「協力してくれるの?」
ここまで関わっておいて、女の子置いて逃げるわけにも行かないだろ。
それに、サウザンドドラゴンを倒したとあれば、ドラゴンキラーの称号も得れるし。
「あぁ。してやるよ」
「サンキュ。お前、なかなかいいヤツだな」
「ありがとう。キミのこと見直しちゃった。もうキミのこと狙わないであげるね」
「ノアたちだけでも十分だが、その助力、ありがたかく受け取っておくのだ」
ノアがメイだとすると、この2人はひょっとして。
「準備万端だね」
「これで倒せなきゃ、打つ手無しだ」
「作戦も完璧に練ったのだ。大丈夫なのだ」
「けどよ。繭の上から攻撃すれば楽に倒せるんじゃないか?」
現在ドラゴンは、竜の繭でぐるぐる巻きだ。
あと、10分ほどで出てくるだろうが。
「あの繭、攻撃を全く受け付けないんだ。だから、アレを攻撃しても中にはダメージがいかないんだよ」
「微妙なアイテムだな」
俺たちは陣形をとる。
俺とフレイムが前衛。クロエとノアが後衛につく。
「回復は任せるぞ」
「ウン」
すばやさのあるクロエを、アイテムでの回復役兼撹乱役とした。
繭にひびが入る。そろそろ、お出ましだ。
《ぎゃぁおぁ》
「ったく、何度聞いても嫌な声だぜ」
フレイムがぼやく。
クロエが繭の裂け目に、爆裂石を投げ込むと、繭の中で大爆発が起こった。
これで、繭は完全に壊れるが、中のドラゴンにもダメージがいっているはずだ。
「行くぞ!!」
俺の掛け声と共に、俺とフレイムがドラゴンに向かい駆け出す。
ドラゴンの炎に焼かれ、爪やしっぽの打撃を食らう。
しかし、適度なタイミングでクロエが回復をしてくれるので、十分戦うことが出来ている。
「ここだ!」
俺がドラゴンの翼の付け根に剣を刺す。
「サンダースコール!!」
無数の雷が、すべて一本の剣に向かい伸びていく。
《ぐぎゃらぁぁぁぁ》
まさに剛雷を一点に受け、片翼をもがれたドラゴンがのた打ち回る。
俺はその間に、新しい剣を装備する。
青白く光る刀身。魔法剣だ。
「そんないいものあるなら最初から使っておけ!!」
フレイムに怒鳴られたが、使用できなかったわけもある。
この魔法剣にかけられた魔法の効果がわからないのだ。
「どんな効果があるかわからない剣を、そうそう使えるか」
ひょっとしたら、ドラゴンを活性化させてしまうおそれもある。
俺は剣を握り締め、構える。
ドラゴンがゆっくりと体制を整え、こちらを睨む。
「手負いのドラゴン。ここからが本番だね」
ドラゴンの口内が紫色に染まる。
まさか!?
「みんな散開しろ!絶対にあのブレスに触れるな」
「どういうことなのだ」
ドラゴンが口を大きく開きどす黒いブレスを吐き出す。
デスブレス。
その名の通り、触れるだけで死、よくて瀕死になってしまうブレス。
「ちぃ!」
俺はすぐ後ろにいたノアを抱きかかえ後方へ跳躍。
こちらが風上であるのも幸いし、何とかブレスの範囲を脱出できた。
「クロエ!フレイム!!」
クロエとフレイムのHPが激減している。
死ななかったとは言え、もう動けないだろう。
ドラゴンがノアの方を睨む。
「くそ!いいか、俺の後ろにいるんだ」
「どうしてそこまでしてくれるのだ!!」
俺はノアに微笑みかけ、頭の上にポンと手を置く。
「お前だからだ」
「え?」
俺は魔法剣を構え、ドラゴンとノアの間に立つ。
ドラゴンがその口を大きく開き迫ってくる。
俺を噛み砕くつもりのようだ。
「ちぃ!!」
俺はその口を跳躍でかわし、その額に魔法剣を突き刺す。
すると、その魔法剣で指された場所から徐々にドラゴンの皮膚が灰色に変わっていく。
「これは?」
その変化のスピードは徐々にあがり、数秒後、ドラゴンはのた打ち回りながら完全に石化してしまった。
こうなれば、後は。
「メイ!」
「了解なのだ」
ノアの魔法が突き刺さった魔法剣に炸裂し、魔法剣ともども石化したドラゴンの身体は粉々に砕け散った。
「おぉ。ステータスにドラゴンキラーのマークがついたぜ」
「ホントだ〜。私には無理だと思ってたのに」
「うむ。感謝するのだ。さすがは和輝なのだ」
フレイムとクロエの動きが止まる。
「あ、ばれてたか」
「さっき、メイって呼んでたのだ。和輝もメイたちのこと気付いてたのだろう?」
「まぁね」
と言っても、メイ以外は予想でしかないのだが。
「それならそうと早く言ってよ。和輝君のばかぁ」
「ったく、お前はやっぱアタシと同じで、根っからのゲーマーだな」
「さて、俺は行くぞ。次に会う時は敵同士だからな」
俺はギルドに報告するために立ち上がる。
「次は必ず勝つのだ」
「私だってもっと強くなるんだから」
「戦場で会おうぜ」
3人は俺とは逆方向に歩き出す。
ふむ。このゲーム、まだまだ楽しめそうだな。