ここは和輝が住んでいるアパート。
 数時間前に電話で話をしていたら、急に会いたくなって来てしまった。
 ドアをノックする。
 ・・・・
 あれ?
 再度ノックする。
 ・・・・
 まさか留守?
 電話かけようかな。
「あれ。たしか君はカズキの」
 声をかけられ振向くと見知らぬ男が立っている。
 ちょっと怖いので、スタンガンを装備しておこう。
「誰なのだ?」
「あれ?覚えてない?俺はカズキと一緒に仕事してるロブだ。前に会ってるだろ」
 ふむ?あぁ、そう言えば。
 以前、修学旅行で来た時に確か会ったような。
「カズキに会いに来たのか?」
「うむ。しかし留守なのだ」
「いや、あいつ引っ越したんだ。ちょっと待ってな、引越し先の住所教えるから」


 目の前にはニューヨークでも5本の指に入ると言われる高級ホテル。
 ここの最上階のワンフロアを貸し切って、そこに住んでいるらしい。
「もらった住所はここなのだが」
 中に入ると、すぐさまボーイが迎えてくれる。
「最上階の部屋に行きたいのだ」
「もうしわけありません。あのお部屋は」
「メイの知り合いが住んでるのだ」
 カバンの中から伊集院家のゴールドカードを取り出し、提示する。
「これは失礼いたしました。こちらへどうぞ」
 エレベータに案内され、乗り込む。
 どうやら、最上階との直通エレベータのようだ。
 40階をわずか数秒で上りきってしまう。あたりまえだが、窮屈さなどは微塵も感じない。
 ドアが開く。
「いらっしゃい」
 そこはすぐ玄関になっており、目の前には和輝が立っている。
 さすがに驚いた。どうしてくることがわかったのだ?
「こんなホテルだよ?誰かが来ればちゃんと知らせてもらえるようになってるんだよ」
 私の考えを見透かされたような回答。
 まぁ、普通に考えればそうか。
「あまり驚いてないのだな」
「来たのがメイだってことはわかってたしね。けど、これでも結構驚いてるんだよ」
 むぅ。前回といい今回といい。驚かされるのは私ばかりで、ちょっと悔しい。
「さ、こんなところで話しててもしょうがないし。中へどうぞ」
「うむ。お邪魔するのだ」
「ちょっと待ってて、今、ココアでもいれてくるから」
 そう言って、玄関から左手のドアを開けて中に入る。
 玄関の先には巨大なリビングルーム。
 奥の一面は全てガラスになっていて、ニューヨークの街並みが一望できる。
「なんだ、メイではないか。どうした?」
 この声は?まさか。
「お、お姉様!?どうしてここにいるのだ」
「どうしてって、ここは私の部屋だぞ」
 奥から出てきたのはレイお姉様だ。
 今年の4月からアメリカに来ているのだが。どういうことなのだ?
「ここは和輝の部屋ではないのか?」
「もともとは私が借りていたのを、和輝にも一緒に住まわせているだけだ」
 確かに和輝がこんな部屋を借りれるわけが無い。
 けど、それって・・・
「同棲!?」
 いくら広いとは言え、男女が同じフロアで過ごすなんて。
「ふわぁぁ。おはよ」
「ミシェル。そういう格好で出てくるなと言っているだろうが」
 ・・・
 お姉様が出てきた部屋とは別の部屋から、今度はTシャツとショーツだけという、ラフないでたちの女が出てくる。
「紹介しよう。この女も同居人の」
「ミシェルよ〜。お久しぶり。この前はあまり話せなくて寂しかったわ」
 ミシェルと名乗る女は、私の頬にキスをした。
 あまりの無造作ぶりに全く動けなかった私。情けない。
 そう言えば、修学旅行で来た時に出会った女か!
「ごめん、ココア切れてて、紅茶でもいいか?」
「和輝!!どういうことなのだ!!!」


 1時間あまりの時間を費やし、やっとこの状況が飲み込めた。
 なぜ、こんなにも時間がかかったかと言うと。
「メイ。はい、あ〜ん」
 ミシェルが邪魔をしてくるからだ。
「ミシェル。いいかげんにしろ」
 それをお姉様が止めにはいるからさらに時間がかかった。
 どうやら、このホテルは元々伊集院がオーナーで、お姉様がこちらで滞在する間に使用する場所だったらしい。
 そこで、先にこちらに来ていた和輝も一緒に住まわせることになったというのだ。
 もちろん、その話を決めたのはお父様とお母様。2人とも今では和輝がいたくお気に入りだ。
「しかし、それならば何故この女がいる?」
「それは、なりゆきというか・・・」
「和輝がバカなせいだ」
 このフロアには全部で20もの個室がある。
 中心をリビングとして全てつながっているのだが。現在はこの女のほかに、大学の学生が数人住んでいるというのだ。
 どうやら、和輝がここに住んでいるのがばれて、その友人の何人かが住み着いてしまったらしい。
「私も勉強の邪魔にならなければいいと言う理由で開放しているのだが」
「それが、さらに住み着かせる原因になったわけなのだ」
 お姉様はいつの間にこんなに優しくなられたんだろう。
 昔は、メイにだけ優しかったのに。
 なんか、寂しい。
「ん。あ。ちょ、ちょっとやめるのだ」
 ミシェルが私の胸を揉みだす。
「ん〜。メイの胸って柔らかくて気持ちいいわぁ」
「ミシェル!」
 和輝が私を抱き上げ、自分の膝の上に乗せる。
 私は猫か・・・
「いいじゃない。ちょっとくらい」
「ダメだ」
 そう言うと私を抱きかかえたまま立ち上がる。
「ど、どうするのだ?」
「ここじゃ落ち着けないから俺の部屋に行くんだよ」


「ふぅ。ごめんな。ミシェルって可愛い女の子に目が無くて」
「なぬ!?ヤツは男なのか?」
「ううん。女の子が好きな女なんだよ」
 そういう趣味の持ち主がいるというのは聞いたことがあったけど。
 私はやっぱり、和輝がいい。
 どんな男性も和輝にはかなわない。
「ん。どうした?」
 私は無意識のうちに和輝にすりよっていた。
「和輝の周りには女がいっぱいなのだ」
「女って。ミシェルとレイさんだけだろ?」
 私の知ってるのはそれだけかもしれないけど、きっと、いっぱい彼を想ってる女がいると思う。
 高校時代のように。
 和輝が私の額にキスをしてくれる。
「大丈夫。俺が好きなのはメイだけだよ」
「うん」


 私は和輝の部屋からリビングへ戻る。
「和輝はどうした?」
「寝ちゃったのだ」
「そうか。ここ数日、レポートや研究でろくに寝てないみたいだったからな」
 リビングでは、お姉様が外を見ていた。
 お姉様は男装するのはやめ、今では髪も伸ばし、美しい女性になっている。
 お兄様だった時もよかったけど、お姉様も綺麗だ。
「すまなかった。メイには言っておくべきだったな」
「いいのだ。和輝を信じるのだ」
 私もお姉様の隣に立ち、外を見る。
 日本の街とは違う、趣きのある街。
「メイ。買い物にでも行くか」
「うん」
 お姉様が買い物に誘ってくれるなんて、珍しくて、すぐに返事をしてしまった。
 普段から色々と気にかけてくれたり、優しいけど。一緒に買い物へ行った記憶なんて数回しかない。
 欲しいものは屋敷にいても手に入ったから。
「ちょっと待っていろ。準備してくる」


「美味しいのだ」
 私はアイスクリームを舐めていた。
 それも3段重ねだ。
 最初は色が日本のアイスよりも濃くて、あまり食べたいとは思わなかった。
 けど、お姉様が美味しいっていうから。
「メイなら気に入ってくれると思ったよ」
「気に入ったのだ」
 味は濃いのにすっきりしてる。それに濃いと言ってもフルーツの味をそのままだし。
 香りもいい匂いで最高だ。
「ここの店は私もお気に入りでね。和輝にも教えていない店なのだよ」
「じゃあ、2人だけの秘密なのだ」
「あぁ」
 私はお姉様と指切りをする。
 今日はお姉様の意外な一面が見れて嬉しいな。
 急に電子音が鳴り響く。
「あ、電話なのだ」
『メイ!何処に行っているんだ!!』
 お父様。
 あ、そう言えば何処に行くか言わずに出てきてしまった。
 うぅ。お父様、かなり怒ってる。
「もしもし、お父様。レイです」
 お姉様が電話をかわってくれた。
 お父様とお姉様が電話で話をしている。
「ふぅ。ダメじゃないか。お父様を困らせては」
「ごめんなさい」
「一応、3日間んはこっちにいていい許しを得ておいたよ」
 さすがはお姉様なのだ。
 私はすぐにでも帰らないといけないと考えてたのに。
「ありがとうなのだ」


 今日はリビングで焼肉になった。
 高性能の換気扇のおかげで、においの心配はしなくていい。
「はい。メイ。あ〜んして」
「あ〜ん」
 ミシェルから肉をもらう。
 どうやら逃げたり拒んだりすると追いかけてくるタイプなようで、普通に相手にしていれば問題は無い。
 他にも、何人かでテーブルを囲んでいる。
 みんな和輝の大学の友人だそうだ。
「和輝。この野菜はメイが切ったのだ」
「やっぱり。どうりで大きさがバラバラだと思った。これじゃあ、小学生の方がうまいな」
「むか」
 和輝の口に焼けたばかりの野菜を詰め込む。
「もがんぐ」
 ふふん。私を怒らせるとこうなるのはわかってたはずなのに。
 水を探しているから、コップを渡す。
「ごくごく。ぶはぁぁぁ」
「和輝。汚いぞ」
 あははは。
 和輝に渡したのはウオッカ。もちろんお酒だ。
「メイ!!」
「メイを怒らせたバツなのだ」
 和輝が私の肩を掴む。
 あ、さすがに怒らせちゃったかな?
「今晩、このお礼はたっぷりさせてもらうからな」
 耳元でささやかれる。
 今晩?えっ?えっ?それって・・・・ひょっとして。
「ベッドの中で可愛く鳴いてくれよ」
 うぅぅ
 和輝のいじわる。

 
 

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