『在校生代表。伊集院メイ』
メイの声が体育館に響く。
今日はひび高の卒業式だ。とはいえ、俺は事実上はこのひび高を中退していることになっている。
だから、来賓席でメイの送辞を聞くことになった。
『このチビ!誰がバカ猿だ!!卒業式にまで喧嘩売るな!!!』
今度はほむらか。相変わらずのことだな。
卒業証書が手渡され、卒業式が無事に終了する。
俺は、外に出た。
一応部外者だし。ただ、やっぱりひび高の卒業式を見たくてやってきてしまったのだ。
うっすらと早咲きの桜が咲き始めている。
「和輝君」
「あ、華澄さん」
華澄さんは俺の子供の頃によくお世話をしてくれたお姉さん。
今は、このひび高の先生をやっているらしい。
「せっかく、和輝君や光ちゃんに会えると思って来たら、和輝君、アメリカに行ってていないんだもん」
「夢を。絶対に叶えたい夢を見つけたから。それだけは妥協したくないから」
「伊集院さんでしょ」
華澄さんがくすくすと微笑む。
昔は、この微笑にやられたっけな。
「会わないの?」
「今日は誰とも会わないって決めてきたんで」
「そっか。じゃあ、私だけ特別なんだね。あ、そうそうこれを渡さないと」
そう言って、華澄さんが一枚の紙を持っていたカバンから取り出す。
「卒業証書。牧和輝殿。貴方はこのひびきの高等学校を卒業したことをここに証します。学校長、爆裂山和美」
「へ?」
その卒業証書を俺に差し出す。
そこには確かに、卒業証書と俺の名前、そして校長の名前が記入されていた。
「早く受け取らないと、みんな来ちゃうよ」
俺はその卒業証書を受け取る。
でも、どうして。
「校長がね、和輝君もこの学校の卒業生なんだからって。中退したけど、それは留学のためだし。だから、和輝君には貰う権利あるんだって」
そっか。あの校長が。
まったく、粋な計らいをしてくれる人だ。
もちろん実際に卒業したわけじゃないけど、これでこのひび高にお別れを言うことが出来る。
「華澄さん。ありがとうございました」
俺は頭を下げる。
「うん。じゃあ、頑張っておいで。そして、さらに成長した姿をお姉さんに見せて」
「はい」
俺はひび高を後にする。
校門をでて、校舎に一礼をする。
ゆっくりと、一歩一歩を踏みしめ、坂を下る。
懐かしい。たった一年だけど、この学校が、この並木道が、全てが懐かしい。
俺は、坂を下ったところで、もう一度礼をした。