「メイ様。つきました」
「うむ」
 ここは、ひびきの市から少し離れた別な市の神社。
 2年参りに来たのだが、肝心のお父様やお母様、それにお姉様が見当たらない。
「まったく。どこにいるのだ」
 仕方が無いので境内の方へ歩いてみる。
 鳥居をくぐると人の山だ。
「う、凄い人なのだ」
 去年、和輝と一緒にひびきの市の神社に2年参りに行ったときはこれほどではなかった。
 さすがに、全国でも5本の指に入るだけの大きさの神社だ。
 けど、どうやってみんなを探そう。
「!?」
 急に視界が暗くなる。
 何者かが私の目をふさいだのだ。
 誘拐?それとも強盗のたぐいか?
 私は力をこめ、相手の腹があるであろう場所に肘を叩き込む。
「うぐ」
 見事にヒットしたようだ。視界を覆っていた手がどけられる。
 後ろを振向くと同時に、スタンガンを手に持ち、相手の首に当てる。
「観念するのだ」
「あはは・・・降参」
「和輝!?」
 危うくスタンガンのスイッチを入れるところだった。
 それにしても、どうしてここにいる?
「危ないのだ和輝。このスタンガンはプロレスラーでも失神するほどの物なのだぞ」
「ずいぶん、物騒な護身具だね」
 和輝が先ほどスタンガンを当てた位置を手でさすっている。
 うぅ。
 気が付いたら、和輝に抱きついていた。
「どうして、ここにいるのだ。そんな話してなかったのだ」
「秋の修学旅行のお返し」
 そう言って、和輝は私の唇に自分の唇を重ねる。
 周りではあけましておめでとうの声が耳に聞こえる。
「ん・・・」
「ふぅ。間に合った。去年に引き続き2年越しのキス」
 ダメだ。完全に頭が働かない。
 完全に和輝の為すがままだ。
「け、けど、どうして今日なのだ?」
「お正月を一緒に過ごしたかったって言うのもあるし、それに、去年のお賽銭でメイさ」
「聞いてたのか!?」
「聞こえたんだよ」
 失敗した。確かに、去年はお賽銭を入れるときに、『和輝と来年も一緒にこれますように』と言ったが。
 まさか聞こえていたとは。
 は、そういえば。
「お父様たちはどこなのだ?」
「あの、大きな仮設テントにいるはずだよ」
 ふむ。そうか。ずいぶん神社に不似合いなものだと思ったが。
 ん?
「なぜそれを知っているのだ?メイは知らなかったのだぞ」
「だって、メイが知ってたらここでウロウロしててくれないだろ?咲之進さんに手伝ってもらった」
 咲之進め・・・
 最近、咲之進の態度がどうもおかしいと思ったら。


「ん・・」
「あ、おはよう」
 目の前に和輝の顔がある。
「おはようなのだ。ここはどこなのだ?」
「ここ?天国だよ」
 和輝の頭の上には見慣れない輪が浮いている。
 天国?え?
「どうしたんだメイ?」
「て、天国!?メイは死んだのか?それに和輝も」
 どういうことだ。えっと、神社で和輝に再会して、そのあと2人でお父様とお母様に挨拶して。
 そうだ、そのあと2人で和輝の両親のお墓に行って。
 あれ?そのあとはどうしたんだっけ。
「うん。ほら、体が浮いているだろう」
「え!?」
 体が宙に浮いている。
 こんなこと現実にはありえないのだ。
「和輝」
「お別れ・・・だね、天国では一緒にいれないんだって」
「え?」  どういうことなのだ?・・・・和輝と別れるのは嫌!和輝とは一緒にいたい!!
「和輝!!」
「大丈夫?」
 目の前に和輝の顔がある。
 いつものやさしい顔。頭に輪もついてない。
 ん。和輝だ。暖かい。
 私は無意識のうちに和輝を抱きしめていた。
「怖い夢でもみたんだね」
 和輝が私の頭を撫ぜてくれる。
 夢?夢だったんだ。よかった。
 けど、ずいぶんとリアルな夢だったな。
「和輝さま、もうすぐで到着します」
「わかった」
 あれ?ここ、リムジンじゃない。
 これ、伊集院家の自家用旅客機?
「メイはどうしたのだ?」
「俺の両親の墓参りのあとに、寒いからって甘酒飲んだだろ。それでメイ酔っ払って」
「倒れた」
 和輝がうなずく。
 う、私ってそんなにお酒に弱かったのかな。甘酒で倒れるなんて。
「それでこれは?」
「今、ハワイに向かってるんだ。俺の休みが3日間しかないから、そのあいだだけでも2人でいたくて」
「2人っきり?」
「うん。あ、ちゃんとメイのお父さんには了解を得てきたよ」
 和輝と3日間、2人っきり。
 ってことは・・・うぅ、光や雪峰に教わったことが頭の中をぐるぐると。
「どうした?顔が赤いぞ」
「え!?あ、な、なんでもないのだ」
「メイ様。和輝さま。そろそろ」
「わかった」
 和輝が立ち上がると、座席の下からリュックのようなものを取り出す。
 あれって、パラシュート?
 まさか。
「それで降りるのか?」
「うん。あ、大丈夫。ちゃんと資格はもってるから。さ、メイこっちへ」
 私と和輝が金具で固定される。
 ハワイならちゃんとした空港だってあるのに。
「荷物はホテルの方に届いていますので」
「ありがとう咲之進さん」
 ドアを開く。
 しかし、時速百数十キロで飛び、なおかつ高度4000メートル以上なのだ、空気の層が出来ているため、室内の空気はそれほど暴れない。
「それじゃあ、行くよ」
「了解なのだ」
「いってらっしゃいませ」
 私もスカイダイビングは別に初めてではない。
 むしろ、何度も経験している方だ。
 こんな風にハワイに降り立つ方法は初めてだが。
「それじゃあ、行くよ・・・スリー、ツー、ワン、ジャンプ!!」
 和輝の掛け声と共に、旅客機から飛び降りる。
 自由落下。手を足を広げ、バランスをとる。
「メイうまいじゃん」
 ヘルメットの中のスピーカから和輝の声が聞こえる。
 伊集院製の高感度マイクとスピーカーだ。
「あたりまえなのだ。和輝こそ、いつの間に資格をとったのだ」
 2人で笑いながら、くるくると回転する。
 この感覚は、ジェットコースターなどの人間が作り出したものでは決して味わえないような感覚だ。
 数十秒の自由落下を楽しみ、和輝がキャノピー(パラシュート)を開く。
 一瞬、上に引っ張られる衝撃を感じる。
「それにしても、こんな入国して大丈夫なのか?」
「普通はだめなんだけどね。ちゃんと入国審査は受けてるし許可もとってるから大丈夫だよ」
 キャノピーを操作し、ゆっくりと地上に降りる。
「何処に着地するのだ?」
「そこ」
 和輝が指を下に向ける。
 そこには、スカイダイビングの着地用のドロップゾーンがあり、数人の人が立っているのが見える。
 それにしても派手な入国だ。
 ゆっくりとキャノピーを操作し、ドロップゾーンの中心に降り立つ。
「ようこそ、ハワイへ!!こんな派手な入国は珍しいよ」
 キャノピーを切り離す前に、周りの人間が入国を祝ってくれる。
 その上、先ほどよりもギャラリーがものすごく増えている。


 私はホテルでシャワーを浴び、今はベッドの上で横になっていた。
 今は和輝がシャワーを浴びている。
 あの後、ホテルから迎えが来て、部屋に案内された。
 レストランでの夕食も美味しかったし、今日はすぐに休もうってことになったんだけど。
「今夜は、ひょっとして」
 内心ドキドキだ。
 どうしよう、どうしよう。
 知識としては知っているけど、まさかこんなに早くその日が来るなんて。
「ふぃ〜・・・さっぱりした」
 和輝がシャワールームから出てくる。
 腰にバスタオルを巻いただけの姿だ。
「お、おかえりなのだ」
 何をいっているのだ私は。
 だめだ、全然、頭が回らない。
「ん?どうした?熱でもあるのか?」
「そ、そんなことないのだ。だ、だ、大丈夫なのだ」
 上半身裸の和輝が近づいてくる。
 どうしよう。
「メイ・・・」
 私のそれこそすぐ目の前で和輝が声を掛ける。
「ひょっとして、エッチなこと考えてる?」
 自分の顔がさらに赤くなるのがわかる。
 熱い、頭が溶けそうだ。
 もう一回、シャワー浴びてこようかな。
「ん」
 和輝の熱いキス。何度目なのかはもうわからない。
 けど、今までで一番熱いキス。
 和輝の舌がゆっくりと、私の口の中に入ってくる。
「んんっ」
 何度も、舌が絡む。
「メイ・・・愛してる」
 私は、ベッドの上に押し倒された。


『おはようございます。ルームサービスです』
 ドアが叩かれる。
「あぁ、いいよ」
 ドアが開き、ボーイが朝食を運んでくる。
 部屋の中にトーストのいい匂いが広がる。
「はい」
「それでは、失礼します」
 和輝が、テーブル上の札をボーイに渡すとボーイが部屋から出て行く。
 こういう場所で、チップを払うのがさらりといくとは、さすがアメリカに1年近くいるだけはあるな。
「あ、メイ。起きてたんだ」
「ん。おはようなのだ」
 今の私は、身体になにもつけていない状態だから、身体にシーツを巻きつける。
「朝食は食べる?」
「うん」
 和輝が私の隣にくる。その手にはトーストの乗った皿を持ち。
 私がトーストを手に取ろうとすると、和輝にはたかれた。
「ダメ」
 和輝がトーストをひとくち大にちぎり、私の口元へ持ってくる。
「はい、あ〜ん」
「う・・・あ〜ん」
 恥ずかしい。
 こういうことがあるのは、知っていた。けど、実際にするのは初めてだし。
 それに、私が和輝にするのが普通じゃないのか?
「んむんむ。美味しいのだ」
 和輝も自分でトーストを食べる。
「本当だ。なにか特別なトーストなのかな」
「わからないのだ。これは、家で食べているトーストより美味しいのだ」
「へぇ、あとで、このトーストがどこで作られてるのか聞いてみようか」
 そうやって、2人で朝食を平らげる。
 私の分は和輝が食べさせてくれてたから、時間がかかったけど。
「ごちそうさま。美味しかったのだ」
「そうだな。なぁ、デザート食べていい?」
「デザート?あるならよいが」
 そう言うと、和輝は私に覆い被さる。
「ん。メイって名前のデザートだよ」
「ば、バカ!」
 しかし、身体に力が入らない。
 昨夜のことも思い出され、だんだん、身体が熱くなってくる。


「メイ様どうでした。ハワイの海は」
「海には行ってないのだ」
「は?」
 帰りの旅客機の中のやりとり。
 和輝はまっすぐニューヨークに行くので、それぞれ別々の帰路についた。
「では、ショッピングを?」
「それもしてないのだ」
 うぅ。3日間、ずっとベッドの上だったなんて、誰にも言えないのだ。

 
 

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