NYにも秋の感じが染まってきた。
「日本とは違うけど、秋なんだ」
「何1人で外見てるんだ?いい女でも通ったか?」
 フレッドが俺の俺が見ているものを肩越しに覗く。
 そこには、一般の街路樹。
 黄金の葉が、日を追うごとに路上に散っていく。
「あんなの見て楽しいのか?それよりやっぱ女だろ。男の楽しみと言えばよ」
「フレッド。そいつに女の話しても無駄だぜ」
 ロブも俺の席に来て話しに加わる。
 つうか、あんたたち仕事はいいのか?
「あん?こいつゲイか?」
「違う!!」
「ハッハッハ。こいつ、手帳に女の写真を大事にしまってあるんだ。大方、故郷の恋人だろうよ」
 げ、いつの間に見られたんだろう。
 うぅ。職場に写真持ってくるのやめようかな。
「ほう。それは見せてもらわねぇとな」
「俺もはっきりとは見てないからな」
 そう言うと、フレッドが俺を羽交い絞めにする。
 バカな。俺が全然振り解くことが出来ないなんて。
「お、これか」
 そのうちに、ロブが手帳から写真を取り出す。
「俺にも見せろ」
「あれ、この子。どっかで」
 ロブが腕を組んで考える。
「おぉ。俺も見たことあるような気がするが」
 2人で写真を見てうなってる。
 2人がメイを?確かにコミナの大株主の娘だが、さすがに面識はないと思う。
「それも最近」
「しかし、アジアのヤツはみんな同じに見えるからな。むむ」
 フレッドが考え始めると腕の力が緩む。
 俺はフレッドから抜け出し、写真をひったくる。
「勝手に見るな」
 メイは今ごろ日本の学校にいるんだ。見たことあるはずが無い。
 大方、テレビで出てた日本人の誰かと勘違いしてるんだろう。
「なにをしているのだ」
 背後から声がする。
「ったく、こいつらがメイを見たことあるとか・・・メイ?」
 ここはコミナのNY支社。
 しかも時期は秋。
 夏休みでも冬休みでもない。
 ましてや、4月1日ですらない。
「あ、さっき飯くいに行く時」
「おう、道尋ねてきた子か」
 なに?飯って。お前らが飯を食いに行ったの、つい1時間前だろ。
 俺は椅子を後ろに回す。
 俺をさっきまで羽交い絞めにしていたフレッドの隣には、確かに俺のもっている写真と同じ人物がたっている。
「なんでここにメイがいるんだ」
「ほう、思ったほど驚いてないのだな」
 メイと一緒なら、この程度のことで驚いてたらからだが持たない。
 まぁ、多少は驚いたが。
「メイは修学旅行で来たのだ」
「修学旅行?修学旅行は確か、札幌・京都/奈良・沖縄のどれかだろ?」
「最近の高校生の修学旅行は海外旅行なのだ」
 俺も去年まで同じ高校生だった上に、その時は札幌だったのだが。
「おい、カズキ。いくらなんでも小学生が恋人はまずくないか?」
 フレッドが俺に耳打ちする。
 小学生?
「貴様。誰が小学生だ。メイはこれでも高校2年だ!」
 メイに聞こえてたら、全然耳打ちの意味無いな。
「カズキ、日本にも飛び級の制度があるのか?」
 ロブにいたっては、全く悪びれもなく聞いてくる。
「あぁ。2人ともなんか勘違いしてるだろ。メイは俺とは一つしか違わないぞ」
「なに?これだから日本人の女の年はわからん」
「ってことは俺とも4つしか違わないのか」
 フレッドもロブもマジマジとメイを見ている。
 日本人は年齢より幼く見えると言うが、小学生とは。
「ってことは、あれらも同じ年か?」
 フレッドが親指で指す方向には、見覚えのある制服に身を包んだ男女が10人近くいる。
 なんで、ここにひび高の生徒がいるんだよ。
 あ、よく見ればメイも制服姿か。
「あぁ、いたいた。メイさん先に行かないでよ」
 その集団の一人からメイが呼ばれる。
 この声は、雪峰か?
「先輩!お久しぶりです。元気でしたか?」
「あ、あぁ。久しぶりだな。けど、なんでみんなここに?」
「修学旅行です」
 言い放った。さっきメイも言ってたがやはり修学旅行なのか?
 しかし、修学旅行ならもっと別の場所を見てまわるはずだが。なんで、ここに。
「ふむ。まだ、納得できていないようなのだ」
「メイさんの提案なんです。今年から海外にしようって」
「メイが?」
「うむ。貴様の仕事を見てみたかったのだ。それで社会科見学もかねて来てみたのだ」
 なるほど、それで合点が言った。
 要約すれば、俺の仕事が見たいから修学旅行をNYにして、なおかつ大株主の娘の特権で見学を許可されたわけか。
「なんの話だ?」
 雪峰が来てから日本語で話していたから、フレッドもロブもついて来れてない。
 仕方ないので、英語に訳して伝える。
「なるほどなるほど。つまりは彼女がカズキに会いたくて学校のイベントにかこつけて会いに来たと」
「どこをどう聞けばそうなる。ロブ」
 メイの顔が赤くなる。まんざら遠くもなさそうだ。
 しかし、メイの英語力もなかなかだな。さっきの会話も綺麗な英語だったし。
「なら。カズキは今日は早退だな」
「あぁ。そのようだ」
 そう言うと、フレッドとロブが席を離れる。
「どういうことなのだ早退とは」
「帰って、みんなをいろんなところに案内しろってことだろ」
 俺の台詞に雪峰が反応する。
「ってことは、この後は先輩も一緒ですか?」
「あぁ。どうやらそのようだ」
「みんな〜。これから牧先輩がニューヨークを案内してくれるって」
 廊下で歓声があがる。
 俺としてはメイと2人っきりのほうがいいんだが。まぁいいか。


 とりあえず、みんなで外に出た。
 ここにきた集団は、みんな電脳部の後輩で俺のよく知った顔でメイや雪峰含め8人。
 ちょっと懐かしい。
「まずは何処に行きたい?」
「はいはいは〜い。自由の女神を見たい」
 雪峰がそう言うと、他にもそれに賛同するようにうなずくのが多数。
 ってことはまずはリバティー島か。
「んじゃ、行くぞ」
「行くって何処へ?仕事をサボって」
 急に耳に息を吹きかけられる。
 まぁ、俺は毎回毎回やられてるわけで、今では平気だが。
「ミシェル。今日は俺は早退だ。旧友との再会でな」
「あらあら。可愛い少年少女たちね」
 日本語を流暢に操るミシェルの登場にみんな、目を白黒させている。まぁ、それ以外でも驚いていると思うが。
 あ、この言葉ってアメリカ人相手だと、目を白青になるのかな?
「誰なのだ?」
「ん?こいつはミシェルって言って、俺が行ってる大学の学生だ」
「こんにちは。あら?あなた、カズキの」
 しまった、こいつにもあの写真見られてたんだ。すっかり忘れてた。
 おもちゃにされてしまう。メイが。
「さ、行くぞみんな」
「もう行くの?」
「またな。ってか、メイがいる前でお前と話をしていたくない」
 俺は集団を引き連れて歩き出した。
 後ろでヤツが何か言っているが無視だ。
 しかし、もう、ヤツには会いたくない。大学で会わなきゃいけないけど。
「和輝。なにか隠しているか?」
 俺の隣を歩いているメイが聞いてくる。
「いや?別になにも」
「ウソだ。貴様はウソをつくとき、絶対にメイの方を見ようとしないのだ」
 そうだったのか?
 けど、正直に話してもな。
「それに、明らかにヤツ離れようとしていただろ。何か、一緒にいるとメイに都合が悪いのか?」
 悪すぎです。それはもう。
 ってか、メイだけじゃなくて、雪峰とかも。
「まぁまぁ。せっかく一緒に行くんだからもっと楽しく行きましょうよ」
 間に雪峰が入る。
 なんだか、仲裁役が似合うようになってしまった。すまん、雪峰。
「ふむ。この話はあとでじっくり聞くのだ」
 うぅ。メイの目が怖い。


「これが自由の女神だ。こいつの説明は略。どっかでガイドブックでも買った方が詳しくわかるぞ」
 実は俺も間近で見るのは初めてだったりする。
 ん〜。本当にでかいな。
「中に入れるんですか?」
「あぁ。入れるし、あの冠のところまでいけるらしいが、階段がつらいらしいぞ」
 そう言うと、みんな一瞬ひるむ。
 あまり運動しない電脳部だ。多分、途中で力尽きるのが多数だろう。


 この後も、SOHOやワールド・トレード・センター跡地であるグラウンドゼロなどを見てまわった。
 グラウンドゼロでは、さすがにみんな静かに祈りを捧げた。
「先輩。今日はありがとうございました」
「いや、俺もいい骨休みになったよ」
「じゃあ、私たちはこれで」
 そう言って、みんな地下鉄に乗り込む。メイを残して。
「メイ?」
「どうしたのだ?」
 ドアが閉まり、地下鉄が動き出す。
「どうしたって、帰らないのか?」
「帰って欲しいのか?」
 なるほど、どうやらもう少しメイと一緒にいれるらしい。
 俺はメイの手を握る。
「まさか。時間の許す限り一緒にいたいよ」
 メイが俺の手を握り返してくる。
「そうか。嬉しいのだ。今日は7時にレストランを予約してあるのだ。そこで一緒にディナーを食べるのだ」
「7時?あんまり時間ないな、外に出てタクシー拾おう」
「うむ」
 2人で地下鉄を出る。
 久しぶりの2人っきり。やはり、メイとこうやっている時間が一番落ち着く。
「あ、そうだ。どうしてこの前の電話の時に今日のこと教えてくれなかったんだ?」
「ふふん。その方があったときの喜びもでかいのだ」
 大方、光かほむらに入れ知恵されたな。
 ビルの陰に入る。
「まったく。俺は夏休みも会えなくて辛かったっていうのに」
「そ、それはメイも一緒なの。ん」
 メイを口をふさぐ。甘い味と花の香りがする。
 久しぶりのメイの唇の感触。もう、忘れかけていたこの感触。
「ん。メイ」
「い、いきなりは卑怯なのだ」
 メイの顔は真っ赤だ。
 やっぱりメイがこの世で一番可愛い。
「だって、次はいつ出来るかわからないし」
「か、和輝が望むなら・・・メイは・・・いつでもいいのだ」
 俺はメイを抱きしめた。
 早く帰りたい。早く帰っていつも一緒にいたい。
 メイ。愛しているよ
「さぁ、行こう。レストランの予約の時間に遅れる」
 俺はメイの手を引く。
 うつむきながらメイが俺についてくる。
「時間とらせたのは・・・貴様なのだ」
「メイがあまりにも可愛いせいだよ」


 やってきたレストランはニューヨークの中でも最高級の場所。
「しまった。正装してくればよかった」
「気にする必要はないのだ」
 メイがウェイターと会話を交わす。
 すると、奥から一人の男性がこちらへやってきた。
「はじめまして。わたくしは当レストランの支配人でサーブと言います」
 サーブと名乗る支配人がメイと俺に頭を下げる。
「本日は当レストランをご利用いただきまことにありがとうございます」
「うむ。先日、お父様とお母様が来た時に、美味しかったと言っていたからな」
 支配人が再度深々と頭を下げる。
「そのようなお言葉をありがとうございます。それではこちらへ」
 支配人に案内され、テーブルにつく。
 ニューヨークの夜景が綺麗に見える場所だ。
 少しして、コック帽をかぶった男性がこちらにくる。
「本日、伊集院様のお料理を作らせていただく、ハーベンと申します」
「そうか。確か、先日のお父様とお母様の料理を作ったのも」
「はい、私です。それでは、ごゆっくりお楽しみください」
 もう、その後はあまり覚えていない。
 急にあんな場所に連れて行かれても、味わうことも忘れてしまう。
 外にでて、やっと生きた心地が戻ってきた。
「おぉ、そうだ。今日はこれを渡す予定だったのだ」
 そう言って、カバンから箱を取り出す。
「衛星を経由する携帯だ。これなら和輝がどこにいても連絡が出来る」
「え!?でも、高いんじゃ」
「これは伊集院製の携帯で衛星も伊集院家の私物を経由するものだから、通話料は必要ないのだ」
 箱を受け取る。
 確かに、箱もなにも書いていないシンプルなものだ。
「これなら、電話しやすいのだ。あ、すでにメイと光とバカ猿の電話番号は入っているのだ」
「ありがとうって、光とほむら?」
「うむ。2人にも同じ物を渡してあるから、電話するといいのだ」
 まさか、ここで2人の名前がでてくるとは。
 一体、この半年間の間になにがあったんだろう。


 タクシーでひび高が泊まっているホテルにメイを送る。
「またしばらく会えないのだ」
「うん。けど、今度は俺が会いに行くよ」
「本当か?」
「うん。絶対に」
 ホテルの手前でメイを抱き寄せる。そして、熱い口付け。
 次に会う時までメイを忘れないように。
「それに、電話も毎日かけるよ」
「メイからもかけるのだ。声を聞きたいときは」
「うん」
 メイを身体から離す。
「それじゃあ・・・おやすみなのだ」
「おやすみ。またね」
 メイがホテルに入っていく。
 と、言ったものの・・・俺は帰れる日があるんだろうか?
 
 

 戻る