和輝がアメリカに行って1ヶ月がたった。
 寂しい。
 電話でたまに声が聞けるけど、短い時間だし。
「メイさん?」
 雪峰が話し掛けてくる。
「ん。あぁ、どうしたのだ?」
 今日は電脳部の新人への説明などを行っている。
 今は、部で作ったゲームを体験してもらっている最中だ。
 説明もまだ先だから私は一人、椅子に座っていたのだが。
「昨日も電話来なかったんですか?」
「なんのことなのだ?」
「和輝先輩のこと。メイさん、電話が来た日とそうじゃない日で全然態度違うもん」
 やはり顔、というか態度に出てしまっていたか。
「これで1週間ですよね。和輝先輩から電話こなくなって」
 図星だ。そんなに態度が違うのだろうか。
 少し注意して生活しないと。
「きっと忙しいのだ。お兄様の話では、コミナアメリカは最近、ゲーム以外にも様々なコンピュータ分野を開拓してる場所らしいから」
「心配じゃないの?」
「和輝は2年で帰ってくるって言ってたのだ。だから、それを信じているのだ」
「そうじゃなくて、向こうで新しい彼女とか」
 私は言葉に詰まる。
 確かに、和輝はかなりモテる。
 このひびきの高校だけでも、かなりの人数が和輝のことを好きだったらしい。
「だ、大丈夫なのだ。信じているのだ」
「そっか。そうですよね。先輩もメイさん一筋って感じだったし」
 雪峰が上を向いてしまう。
 ひょっとして雪峰も和輝を?
「それじゃあ、私もメイさんを心配ばっかしてないで彼氏でもさがそうかな」
「それがいいのだ。メイに出来ることなら何でもするのだ」
「ありがとう」
 雪峰が可愛く笑いながら、説明のために新入生の方に行ってしまう。
 光と同じように、無邪気に笑う。
「信じているのだ」


「あ、メイちゃん」
 お昼休みに屋上に出たら、そこには光が既にいた。
 和輝の特等席から街の方を眺めている。
「昨日はどうだった?新入生」
「まずまずなのだ。けど、ゲームが好きでも作るのは別だからこれから先はわからないのだ」
「そっか。こっちはちょっと不作かな。男子はいいんだけど、女子はね」
 光とは最近ではこうしてよく話をするようになってきた。
 そう、和輝がアメリカに行ったあの日から。
「うす」
 もう一人屋上に上がってきた。
 バカ猿。もとい、生徒会長のほむらだ。
「何しに来たのだ」
「別に。風に当たりたっかただけだ」
 バカ猿もフェンスに寄りかかる。
 そういえば、よくゲームの話をここでしてたって言っていたな。
「電話あった?」
「電話あったか?」
 同じタイミングで光とバカ猿が声を掛けてくる。
 まったく、やはり考えることは一緒か。
「ないのだ」
「ってことは、前にあったのが先週の木曜だから、まる一週間か」
「全く、和輝君たら」
 少しだけ気まずい空気が流れる。
 そういえば、光の和輝に対する気持ちは聞いたがこのバカ猿はどうなのだ?
 こんな場所に来るのは、ひょっとして。
「おい、貴様も和輝のこと好きなのか?」
 あまりにストレートすぎたか?
 けど、回りくどいのは嫌いだし。これぐらいがバカ猿にはちょうどいいだろう。
「あん?」
「私も、ちょっと気になるな」
 光もバカ猿の方を向く。
「アタシは別にそんな感情はねぇよ。まぁ、女友達より仲のいいヤツではあったけどな」
「そっか」
 バカ猿の表情を見てる限りではウソではないだろう。
 そっか、友達か。よかった。
 和輝もバカ猿と話をしてると結構楽しそうに話すから、ちょっと心配だった。
「それにしても和輝君はサイテーだよ。こんな可愛い彼女をほおっておくんだから」
「そうだな。次に電話きたらガツンと言ってやれ」
 私は面食らった。
 光はまだしも、バカ猿にそんなこといわれるとは。
「お前が落ち込んでるとからかう事もできねぇしな。そうなると面白くねぇし」
 バカ猿は明後日の方向を向いてしまった。
 顔をそむける直前に少しだけ見えた顔は、真っ赤だった。
 バカ猿に心配されるとは、私も不本意だけど。
「悪いのは和輝なのだ!!」
「そうだよ、和輝君が悪いんだ」
「あのバカ和輝が」
 3人で屋上で叫んだ。そして、笑った。いっぱいいっぱい笑った。
 まだ、昼休みだから校内にもいっぱい人がいるというのに。
「そうだ、今日の放課後、一緒に駅前の喫茶店に行かない?」
「お、いいねぇ」
「メイもかまわないのだ」
「じゃあ、放課後、校門前でね」


「アイスティーを3つ、イチゴパフェを1つ、レアチーズケーキを1つ、モンブランを1つ。以上でよろしいでしょうか」
「はい」
 ウェイトレスがカウンターの奥に消える。
「まさか、喫茶店がケーキ屋さんになってるなんて思わなかったよ」
「いいんじゃねぇの。あんま違いはねぇし」
 私たちが来た場所はケーキ屋さん。
 けど、カフェテラスがあって、お店でお茶を飲みながらケーキを食べることも出来る。
 確か店の名前はシャノワール。フランス語で黒猫。
「あ〜。これ可愛い」
 光がテーブルの上の黒猫の置物を手にとる。
「何処で売ってるのかな。この店のオリジナルかな」
「猫好きなのか?」
「ううん。小物がすきなの。いっぱいあるよ」
 光は目を輝かせて見ている。
 やはりこういう顔に男は惹かれるのだろうか。
 私には無理かな。
「お待たせしました」
 ウェイトレスがケーキを運んできて、私たちの前に並べる。
「うわぁぁ」
「すげぇ」
「こんなの見たこと無いのだ」
 何がどうなっているのか、パフェのカップは大きなジョッキだし、チーズケーキはワンホール。モンブランも超特大だ。
 どう考えても、こんなの女性の食べれる量ではない。しかも、私たちが頼んだのは普通のサイズのはずだ。
 私がウェイトレスに、訪ねようとすると。
『いっただっきま〜す』
 光とバカ猿はそれぞれ、パフェとモンブランをスプーンとフォークで口の中に入れ始めた。
 ものすごい勢いだ。
「ん〜。おいし〜」
「オープンキャンペーン中だとしてもまさかこんなのが出てくるとは思わなかったぜ」
 2人ともすでに3分の1は食べ終わっている。
「食わんのか?」
「な、なんなのだ。この巨大なケーキは」
「あん?ここに書いてるだろ」
 そう言って、メニューの下の部分を指差す。
 そこには『オープンキャンペーン。ケーキ増量中』の文字が。
 しかし、これは少々異常な気が。
「ふぅ。さすがにきついな」
「そうだね」
 もう3分の2は食べ終わっている。
 この2人も異常だ。
 しかたなく、少しだけフォークで切り取って食べる。
「ふわぁ」
 ものすごい口溶けだ。
 チーズの酸味が生クリームの甘味と混ざるだけではなく、口の中でふわりと溶けてしまう。


 3人とも完食。
「明日から・・・もっといっぱい走らないと」
「アタシはあんま気にしねぇ」
「メイも別に気にならないのだ」
 光が私とバカ猿をジト目で見る。
 だったら、全部食べなきゃいいのに。
「ふぅ。けど、和輝君、今ごろ何してるかな」
「向こうはまだ明け方前なのだ」
「ってことは、睡眠中か」
 やはり13時間の時間差は大変だ。
 完全に昼と夜が逆転してしまうから電話をかけるのも一苦労だ。
 衛星携帯電話を渡しておくべきだった。次に会ったら、1個渡しておこう。
「けど、自分の彼女、放っておいてアメリカに行くかね」
 バカ猿がアイスティーを飲みながら言う。
「さっきも光が言ってたけど、別にメイは和輝の彼女ではないのだ」
「へ?そうなのか?アタシはてっきり」
 確かに好きだとは言ってくれたけど、恋人と言うのとは何か違うような気がする。
「けど、お互い好きなんでしょ」
「ん」
 そう言われるとちょっと不安だ。
 だって、あの和輝だ。他の女にだって好きだって言葉なら言いそうだ。
 でも、信じる。そう約束したんだから、私は信じる。
「ま、大丈夫だろ?あいつならさ」
「そうだよね。あの日の和輝君の顔。真剣だったし」
 まったく、あいつは。きっと今ごろぬくぬくと寝ていて、私のことなんて考えていないんだ。
 次に電話がかかってきた時は、絶対に文句言ってやる。
「すみません。遅刻しました」
「遅いよ、かずきくん」
 え?
 喫茶店の入り口のドアが開いて、人が入ってきたと思ったらそんな会話が交わされる。
 私も、光もバカ猿も、そっちの方を向く。
「ぷ。あはははは」
 最初に笑い出したのはバカ猿だ。
 光も懸命に笑いをこらえている。
「人騒がせなのだ」
 私たちが見たかずきくんは、和輝よりも背が低く、メガネをかけていて、なにより、和輝よりかっこ悪い。
「・・・会いたいのだ」
 私のつぶやきは、他の人には聞こえないような小さな声だった。


「メイ様、学校へ行く準備が整いました」
「わかったのだ」
 私は自室で朝食を取っていた。
 時間は8時を少し回ったところ。少し急がないと。
 すると、急に電話の呼び出し音がなる。
「誰なのだ。こんな時間に」
 電話機に表示された文字。『和輝』の二文字がディスプレイに映っていた。
 私は急いで受話器を取る。
「もしもし、和輝か」
『あ。メイか・・・久しぶり』
 昨日は文句を言おうと思ったけど、この声を聞くだけで私は、もう何もいらない。

 
 

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