アメリカに来てすでに1ヶ月がたった。
7日のうち3日はコミナ、3日は大学。んで、1日休み。
きつかったのは最初だけだな。
もちろん大変だけど、今は楽しいと言う気持ちの方が多く占めている。
「カズキ!」
今日は月曜なのでコミナで研修。
向こうから、俺の研修先のプロジェクトのメンバーが歩いてくる。
フレッドとロブ。
2人とも優秀なエンジニアだ。ただ、その性格が。
「おうカズキ。向かいのバーにな、新しいねぇちゃんが入ったんだけどよ、これがまた美人なんだ。一緒にどうだ?」
未成年に酒と女を薦める不良中年がフレッド・マーカス。一応、俺が参加しているプロジェクトの主任。
「まったく。お前は酒と女しか言えんのか。それよりもうまい儲け話あるんだがどうだ?」
で、こっちで裏のバイトを紹介したがるのかロブ・ケーニッヒ。まだ、結構若い。
「どっちも結構。まったく、こんな場所で何を研修すれってんだ」
と、開始1ヶ月、あまり研修になってない。
プロジェクトには、この2人以外のメンバーにも5人いるのだが、若い日本人ってだけで少々嫌煙されがち。
ふぅ。なんとかしないとな。
「主任。ここの見積もりなのですが」
メガネをかけた女性がフレッドに話し掛ける。
たしか、マリアって名前のはず。同じプロジェクトだが、まだ話をしたことは無い。
「あん?ここはお前に任せてあったはずだが」
「申し訳ありません」
フレッドが真面目な顔してる。初めて見た。
「あいつ、仕事の時は真面目なんだがな。なかなかスイッチがはいらないんだよ」
ロブはプロジェクトで一番若いから、結構俺との感覚や話が合う。
が、いかんせん裏が怖い。
「カズキ。念願の初仕事だ。指示をだすからついて来い」
「おう」
「うへぇ。疲れた」
念願の初仕事。と言われて行ったら、馬車馬のごとく使われた。
プログラムを組み、コピーを取り、コーヒーを入れ。
おかげで、他のメンバとも少しは仲良くなったが。
「う、今日は大学の日か」
3日間徹夜はないだろう。
今日は大学に行かないと。幸いなことに、抗議は午後からだから少しは眠れるけど。
「ふわぁ」
ん。気付いたら昼の12時43分。
もう少し時間があるが、我ながらなかなかの体内時計だ。
「行くか。っと、いってくるな、メイ」
出掛ける時の日課。メイの写真に挨拶。
けど、本物に挨拶したい。
時間差があるからあまり電話も出来ないし。
はぁ、たった1ヶ月でここまで参ってしまうとは。きっとメイの方は何事も無く過ごしてるんだろうな。
「落ち込んでてもしょうがない。行くか」
大学まではバイクで20分。
バイクは、すでに原型がわからないほどカスタムされたのを、ロブに譲ってもらったわけだが、なかなかの好調。
しかし、これを俺にくれた時のロブのにやけ顔がどうにも気になる。
なんかあるんだろうか?
まぁ、そんなことを考えつつ、今日も快調に道路を飛ばしていく。
「ん〜。日本に戻ってもバイク買おうかな」
んで、メイとツーリングとか出来ると・・・いや、車でドライブでもいいか。
とかなんとか考えているうちに大学についた。
「ハァイ」
「!?ミシェル!いきなり耳に息を吹きかけるな」
バイクを駐輪場に停めていると、隣にバイクを停めた女が俺の耳に息を吹きかける。
ミシェル・モリンだ。
金髪碧眼、透き通るほどの白い肌の美女。
大学で初めて知り合った人物で、色々と教えてくれた。もちろん、大学とニューヨークという町についてだぞ。
「だって、その反応が面白いんだもん。今日はこれから?」
「あぁ、経済学の講義だ」
「そっか。けど、あなたって不思議よね。正式にここの学生じゃないんでしょ?」
俺はメイのお父さんの力でここの大学にいる。
ここの大学で一部の学問を学ぶためだけに。だから、正式に大学生ではない。
「だからってもぐりってわけでもないから、教授とかも何も言わないし」
「その話は、おいおいな」
別に黙っている必要もないのだろうが、あまり騒がれても困る。
実際、大学ではすでに色々と目立ってしまっているのだから、これ以上騒がれるのは本位ではない。
「それじゃあな」
「えぇ。またね」
ミシェルと別れ、俺は講堂に向かう。
俺の大学での知名度はこの一ヶ月で急上昇だ。
9月入学が普通であるこっちの大学に、4月に特別入学で入ってきたってだけでも異例なのに、一部の学科しか受けない。
あたりまえだが、普通に考えて単位が足りるわけはないのだが、教授連中も誰も指摘しなから、なおさら他の生徒から注目を受ける。
そのうえ、あの事件があったしな。
『今日の講義をはじめようか・・・』
壇上で若い教授が講義をはじめる。
その講義内容を、一言一句間違えないように聞いていく。
日常会話程度なら可能だが、少しでも専門てきな英単語が出てくるとすぐにわからなくなってしまうからだ。
『今日の講義はここまでにする。解散』
教授の声と同時に、立ち上がり講堂を出る学生が多い。
実際、面白い講義ではないし、なんでもこの教授は、テストで点をとれば単位は問題ないらしい。
俺もカバンを掴み外へ出る。
今日はこの講義のみだから、あとは自由時間だ。
とはいえ、この一ヶ月こんな日が続くものだから観光スポットなどはほとんど見てしまった。
「何するかな」
ヘルメットを被りながらつぶやく。
「ハァイ。カズキ。もう帰っちゃうの?」
「あぁ、用事もないしな」
後ろから聞こえてくる声に、振向きもせず答える。
この大学で、俺に声をかけてくる女性なんてミシェルだけだ。
「ちょうど良かった。なら、すぐそこのカフェで待ってて欲しいの。友達があなたに会いたいって」
「あぁ。わかった。けど、あまり遅くなるなら俺は帰るからな」
「大丈夫。すぐ行くから」
そう言って、ミシェルは大学の方に戻る。
カフェに駐車場があるかわからないため、バイクはおいていくことにした。
カフェの名前はブラックキャット。黒猫か。
日本じゃあまりいい意味にはとらえられないけど、俺は黒猫って結構好きだな。
「お一人様ですか?」
「いや、あとから連れが・・・」
そういえば何人くるんだ?
友達と言ったが、一人だけなのか?
「2人来る」
とりあえず、来る友達を一人にしておいた。
「では、こちらへ」
案内されたテーブルは4人掛けのテーブル。
黒猫って名前だけど、別に店内は至って普通の喫茶店だ。
窓やテーブルに黒猫のシールや置物がある程度か。
「ご注文は」
「レモンティ」
そういえば、ここのメニュー見てなかった。まぁいい。
紅茶を頼んでおけば失敗は少ないだろう。
「かしこまりました」
ウェイトレスが厨房に入り、しばし待っていると、店のドアが開く音がした。
そちらを振り返ると、そこにはミシェルと見知らぬ女性。
「あ、いたいた」
2人がこっちに歩いてくる。
「私たちはミルクとパンケーキ。二つずつね」
ミシェルが途中でウェイトレスに注文する。
そのうちに、もう一人の女性が俺の前まで歩いてくる。
・・・?なんで、俺の顔をじっと見てるんだ?
「紹介するわね。この娘は私の友達でメイ・フォーリアンって言うの」
「はじめまして」
女性が俺に握手を求める。
「カズキ・マキだ。よろしく」
握手を返す。
にしても、メイか。なんの因果か。
「どうしたの?ニヤニヤして気持ち悪い」
「ん?いや、知り合いに同じ名前のヤツがいてさ」
2人が俺の向かいの席に座る。
まぁ、けど。こちらのメイは見れば見るほどメイとは対極的だな。
背が高いし、メガネをかけている。なおかつ先ほどからずっと真剣な表情だ。
「あの。カズキさん。質問に答えてもらえますか?」
急にメイさんがそんなことを言う。
なんの前触れも説明もなく言われたら、さすがに困ってしまうぞ。
「答えれるのだけでいいなら」
「それで結構です」
出会ってから全然表情が変わらない。
なんか、実験動物を前にした研究者と言った感じかな。
「ごめんね。メイってあまり感情を表に出さない子だから」
そんなところまで正反対とは。
「まずは、名前と年齢。あとは、アメリカに来た理由を教えてください」
そうか、研究者というよりも、詰問している警察官とかに似ているのかも。
まぁ、テレビでの知識だから本当にこんな風なのかはわからないけど。
「名前はカズキ・マキ。年齢は17歳。理由は学問を学ぶため」
嘘はついていない。理由の大半はコミナの研修だが、学問を学ぶのも理由の一つだ。
「では、なぜ、大学での最低習得単位以下の学科しか受けないのですか?このままでは進級は出来ませんが」
そうきたか。いや、まぁ不思議に思われてもしかたないか。
「必要ないから」
「必要ない?」
ここで初めて顔にゆがみが出る。
「なぜ?」
「ノーコメント」
これ以上話したら、さすがにコミナの事や伊集院のことまで話さなくてはならない。
別に口止めされているわけではないが、無理に話したいとは思わない。
ウェイトレスが注文の品を運んできた。
「質問を変えます。恋人はいらっしゃいますか?」
恋人か。
そういえば、俺とメイってまだそう言う関係ではないのかもしれない。
ちゃんと告白してないし。でも、周りからみればそう見えてるみたいだしな。
「一応いる」
そう答えた。
「日本に?写真か何か見せてもらってもいいですか?」
「あぁ」
俺は、ポケットから手帳を取り出し、その中の写真を見せる。
そこには、俺が日本を発つ直前に撮ったメイが写っている。
「・・・幼女趣味?」
メイさんがボソっといやな言葉を言う。
「ありがとうございます。これはお返しします」
このメイさんがする質問と俺の答えを、逐次ミシェルがメモしていく。
一体なんなんだ。
「今日はこれで最期にします。3週間前のアレについて」
う。。。。あれか。
アメリカに留学して、俺はなるべく目立たないようにしようと努力していた。
しかし、変な時期の日本人の編入と言うだけですでに目立ったいる俺だ、簡単に言えば、ここの学生から因縁をつけられたのだ。
「あなたはたった一人で4人の男性を戦意喪失させてしまった」
「そうね、その話は私も興味あるわ。あの4人は大学でもボクシングやレスリングやってる人たちだし」
「どんな力を使ったのですか?私は信じてはいなかったのですが、東洋の気とかいうものだと言われても今なら信じてもいいかもしれません」
どんなと言われても。普通に喧嘩しただけだし。
ただ、数発殴って投げただけで簡単に降参してしまったからな。俺は別に特別なことをしたつもりは無い。
「気なんて使えないし。別に普通に殴り合いをしただけだけど」
「男性の1人の証言では、急にあなたの目が変わったと言っていました。まるで殺人鬼だと」
「殺人鬼?おいおい、俺は人を殺したことは無いぞ。確かに日本にいた頃は色々あったから、腕には自信あるけど」
総番長との決闘。果てには、あの伊集院さんとサシで話し合いをしたんだから、腕っ節も眼力もついたのかもしれないけど。
あの頃は俺も無茶をした。
勘違いをしていた総番長と、それこそ死闘を繰り広げた。あの時はさすがに死ぬかと思った。
伊集院さんとはメイを必要とする者同士で、それぞれ主張を譲れずに、俺は3階から飛び降りたっけ。
「ふむ。そうか。今日は時間を取らせたな。では」
「ごめんね。今度、この穴埋めはするから。あ、ここの払いも私が持つからね」
俺が思い出に浸っていると、2人はそう言って外に出て行ってしまった。
「それにしても、あの質問はなんだったんだ?」
部屋に戻ってきてゆっくりと考える。
と言っても情報が足りなさすぎだな、ま、次にミシェルにでも会った時に聞いておこう。
時計を見ると、午後7時。
ニューヨークはサマータイムを取っているから、13時間の時差か。ってことは日本では朝の8時。
「メイ・・・いるかな」
俺は受話器をはずし、電話をかける。
久しぶりの電話だ。
数回のコール後に電話がとられる。
『もしもし、和輝か』」
「あ。メイか・・・久しぶり」
1週間ぶりのメイの声。やっぱり、もう少し短い期間でかけるようにしよう。