けたたましい電子音が部屋に鳴り響く。
「ん。誰だ、こんな時間に」
携帯電話を見ると、表示は・・・伊集院メイ。
メイちゃん?
「はい、もしもし」
『おぉ、起きていたか。今から2年参りに行くぞ』
「は?」
『だから、2年参りだ。知らんのか?』
「いや知ってるけど。俺はこれから年越し蕎麦を」
『そんなの神社で売ってるのだ。用意しておくのだ。すぐに迎えに行くから』
電話が切れた。
あぁ、もう。なんだってこう、あのわがまま娘は。
これから年越しで見たいテレビだってあったのに。
まぁ、いいか。メイちゃんに会えるんだし。
「うわ。凄い人」
「うむ、今日はさすがにみな、日本人であるということを忘れていないようだな」
メイちゃんの方が普段は、全然日本人ぽくない気がするんだけど。
ま、今日は晴れ着が似合ってるから、日本人ぽいけど。
「何か言ったか?」
「別に。さ、行こう。もうあと5分で来年だよ」
リムジンから降りると、除夜の鐘の音が鳴り響いていた。
そっか、ここの神社でも鐘を突いてたのか。
普段、2年参りなんてしないから、初めて知った。
「ふむ。それにしても、出店もいっぱいあって、どちらかというとお祭りなのだ」
確かに、出店はいっぱいある。
甘酒や蕎麦はもちろんのこと、普通に射的やくじ引き、りんご飴なんかも売っている。
これは普通なのか?
「いいんじゃない?おめでたいことには変わりないし」
「そうだな。では行くのだ」
石段をゆっくりあがっていく。
あ、こりゃはぐれそうだな。
メイちゃんの手を探し、その手を握る。
「あ」
「ん、嫌だった?」
「嫌じゃないのだ・・・嬉しい・・・のだ」
メイちゃんの顔が主に染まる。
ホント、初心で可愛いな。
「あ、賽銭箱につく前に0時回っちゃうな」
「別にいいのだ、お賽銭は明日になってからでも」
「そうなの?」
「そうなのだ」
ふぅん。そういうものなのか。
ってことは、ここに集まってるのは、単純にみんなにあけましておめでとうを言うためか?
時計の針が、もうすぐ12時を指す。
「10・9」
メイちゃんがカウントダウンをはじめる。
「まわりも似たような人が大勢だな」
「5・4・3・2・ん」
1と言おうとしたメイちゃんの口を俺の口でふさぐ。
『あけましておめでとう』
周りでは、大勢の参拝客が同じことを口走る。
「ん・・・おめでとう、メイちゃん」
「お、おめでとう・・・なのだ」
メイちゃんの顔が真っ赤だ。
ふふふ。さすがにこれは予想できなかったようだな。
「急にするから・・・驚いたのだ」
「でも、これで2年越しのキスだね」
「う、うむ」
家でテレビを見ていなくてよかった。
こういうことがあるなら、来年もさ来年も来てもいいな。
「じゃあ、お賽銭・・・入れに行こうか」
もう一度、メイちゃんと手をつなぐ。
今度は、メイちゃんの方も握り返してくる。
暖かくて、気持ちがいい。
人が多かったため、賽銭箱まで結構時間がかかってしまったが、メイちゃんとゆっくり話ができたし。よかったかもしれない。
俺は財布から500円玉を出し、賽銭箱に入れる。
「・・・メイちゃんと・・・もっと仲良く出来ますように」
う!?
隣をみるとメイちゃんが、賽銭箱の中に札束を入れている。
「メイちゃん?それ・・・」
「ん?メイの願いはどうしても叶えて欲しいから、今年は奮発なのだ」
そう言って、メイちゃんが祈りはじめる。
少しだけ聞こえた『来年も一緒に』か。嬉しいな。
「ふぅ。やっと人ごみを抜けれたね」
途中で、お蕎麦を食べたり、甘酒を飲んだりしているうちに、なかなかいい時間になった。
それでも日の出にはまだ時間はあるか。
「メイ様。お帰りですか」
咲之進さんがリムジンの前に立っている。
「帰るのだが。今日は歩いて帰るのだ」
「しかし」
「大丈夫なのだ。和輝もいるし、家も遠くないから大丈夫なのだ」
俺って頼りにされてるのかな?
そう言う風に言われると、嬉しいな。
「わかりました。では、和輝さま。メイ様をよろしくお願いしたします」
咲之進さんがリムジンに乗って走り去ってしまう。
「さ、帰るのだ」
メイちゃんの方から俺の手を握ってくる。
気温は低いけど、メイちゃんの手はとても暖かい。
「ねぇ、初日の出ってどうする?」
「ん〜。それにはまだ、時間があるのだ。そうだ、メイの部屋で一緒にみるのだ」
メイちゃんの部屋?
そういえば、誕生日の時に部屋にいったけど、たしかにかなり高い建物だったし見晴らしはよさそうだったな。
「そうだね。じゃあ、お言葉に甘えてお邪魔しようかな」
「うむ。ついでに咲之進のおせちも食べていくといいのだ。美味いぞ」
咲之進さんはかなりの料理上手だ。
夏の合宿の時に、咲之進さんの料理を食べたのだが、高級レストランや料亭で出されそうな味。
その咲之進さんのおせちとあらば、素晴らしいものだろう。
「あ、その咲之進さんって、一体なんなの?SPとかにしては身の回りの世話とかもしてくれてるし」
「咲之進は伊集院家特殊部隊だから、なんでもこなさないとダメなのだ」
伊集院家特殊部隊??そんなものまであるのか。
ってことは、レイさんお付のあの、雪之丞って人もそうなのかな?
「あ、そういえば、あれはどうなったのだ?」
その後は2人でゆっくりとおしゃべりを楽しみながら歩いていた。
「あ」
「ん?どうしたの?」
伊集院大橋の前でメイちゃんが止まる。
「なんでもないのだ。ちょっと」
「トイレ?」
「違うのだ!」
頬を膨らましこっちを睨む。
けど、すぐに顔を下げてしまう。
「あ、あの。こっちに戻ってきた約束って・・・なんなのだ?光との約束か?」
「え?あぁ。ううん。光は関係ないよ」
そういや、クリスマスに匠に聞いたんだったっけ。
けど、言っていいものか。
「教えて欲しいのだ」
夢の少女とメイちゃん。今は、メイちゃんの方が大事だ。
「メイちゃんには関係ないって。それに、今はその約束よりメイちゃんが大事だし」
「え?ど、どういうことなのだ?」
まぁ、いいか。俺にとってもただの思い出だし。
言ってしまって、もう忘れてもいいかもしれない。
「今から8年前。俺がまだ小学生の頃。こっちに住んでたことがあるんだ」
夢には見なくなったが、今もまだあのことは鮮明に覚えている。
「8年前の夏休み。引越しの直前に、俺は、そう、丁度この伊集院大橋の下の河川敷公園で1人の少女と出会ったんだよ」
メイちゃんは黙って聞いている。
しかし、心なしか顔が暗い。そうだろう、自分とは違う女の子の話なんだし。
「その女の子と、俺はまた会おうって約束したんだけれど。引越しで会えなくなってしまって」
あの時は、子供ながら罪悪感にさいなまれた。
光や華澄さんと別れるより、そっちの方がつらかった。
「だから、もう一度、会いたくて。会って、ごめん。って謝りたくて」
けど、きっともう会えないと思う。
名前も知らないし。それに、この街にまだその子がいるかどうかもわからない。
「俺はその約束のために戻ってきた。けど、今はメイちゃんがいればそれでいい」
「・・・なのか?」
「え?」
「貴様はその女の子よりもメイをとると言うのか!」
メイちゃんの顔には激しい怒りが見える。
はじめて会った時も、俺に対しては嫌悪や怒りがあったけど。その時とは全然違う。
修学旅行後のあの怒っていた時期よりももっと、激しい怒りが感じられる。
怒り。拒絶。メイちゃんの目は、俺のあらゆるものを否定していた。
「だって、俺は」
「もういいのだ」
メイちゃんはそのまま黙ってしまう。
「一体、何を怒ってるんだ?」
わからない。俺が昔の女の子を今でも想っていて、メイちゃんを拒絶したならわかるけど。
俺は今はメイちゃんの方が大切なのに。
急にあたりが明るくなる。いや、強烈なライトの光だ。
その光と共に、一台のリムジンがそばに止まる。
「メイ」
後部座席の窓が開く。
そこには男性が座っている。恐ろしく、鋭い眼光が俺を睨む。
「お父様」
メイちゃんのお父さん。
伊集院財閥の総帥。確かに、その身体から発せられるオーラは普通ではない。
「咲之進から聞いた。このような時間に一般人の男と一緒など許さん。帰るぞ」
後部座席のドアが開く。
「あの男は何者だ」
「・・・ただの、学校の先輩です」
メイちゃんは、リムジンに乗り込む。
俺の方は見ようともしない。
「貴様は、気付いていてくれたのだと思っていたのだ」
たったそれだけ。俺の方は見ずにそれだけの言葉を発し、ドアを閉める。
そうして、俺が何も言うまもなくリムジンは走り去ってしまう。
俺の胸ポケットから電子音が流れる。
名前は表示されず、番号だけだ。
「・・・もしもし」
『和輝か』
聞き覚えのある声が聞こえる。
「レイさん?」
『あぁ。急にメイが本宅の自室に戻ってな。何事かと思って、直人に番号を聞いたんだ』
「そうですか。実は・・・」
俺は先ほどの話をした。
しかし、今もまだ、メイちゃんが怒った理由はわからない。
『なるほどな。そういうことか』
「けど、なんでメイちゃんが怒ったのかわからなくて」
『ふむ。では、私も昔話をしてやろう。今から8年前、メイがひびきの市の別宅に遊びに行っていた頃の話だ』
8年前?別宅?
『そこである男の子と出会ったらしい。しかし、また会おうと約束したが、1日たっても2日たっても男の子はこなかった』
「それって」
『あの時は、ものすごく泣いてな。しばらく部屋から出てこなかったりと大変だった』
俺の思い出の少女は、メイちゃん?
『まさか、その男の子が貴様だったとは。運命とはわからないものだな』
そうか、夢を見なくなったのは、メイちゃんと会ってから。
もう、再会していたから。俺の本能の部分は、少女がメイちゃんだってわかってたから。
だから、夢を見なくなったのか。
『それで、どうする。このままメイのことをあきらめるか?』
嫌だ。
あきらめるなんて、出来ない。俺は、まだ謝ってないのに。なにも。
「メイちゃんと、もう一度、会いたい」
『そうか。ならば、車を回す。自宅ではないな、どこにいる?』
「伊集院大橋の河川敷公園」
『では、少し待っていろ』
電話が切れる。
俺はメイちゃんとの思い出を、自らで切り捨ててしまったんだ。
だから、その思い出を、俺以上に大切にしていたメイちゃんはあんな風に。
子供の頃の思いでもメイちゃんも。どっちも大事にしなければいけなかったんだ。
「待っていたよ」
俺は雪之丞さんのリムジンで、伊集院家の本宅に来ていた。
そこにはレイさんだけではなく、直人も待っていてくれた。
「話は聞いたよ。大丈夫だ、和輝ならきっとメイちゃんを」
「ありがとう」
「さぁ、ここが、メイの部屋だ」
と、案内されたのは、3階建てほどの屋敷の前。
いや、屋敷というよりは学校や研究所といった方がいいような感じか。
「部屋って」
「この建物全てだ。もちろん侵入者よけのトラップも多々あるからな」
これが部屋。たしかに、ここに来るまでも、伊集院家の門をくぐってから多くの建物を見てきたが。
「メイは3階のベッドルームにいるはずだ。3階の階段までは雪之上に先導させる。3階では咲之進が待っていてくれる手筈だ」
「ありがとう。なら、行ってくる」
俺はメイちゃんの屋敷の扉を開ける。
「あぁ。メイを頼むぞ」
「がんばれよ」
2人にうなずき返し、屋敷の中に入る。
「では、私の通った後をついてきてください。それ以外の場所は、トラップだと思って」
「わかった」
俺は雪之丞さんの後をついて行く。
時には大またで。時にはジャンプし。ほふく前進やダッシュを繰返し、なんとか3階への階段前にやってきた。
「私がトラップを知っているのはここまで。この上に咲之進がいるのでそこからは彼に」
「ありがとう」
俺は階段を1段1段踏みしめ上っていく。
「お2人に祝福があらんことを」
階段を出た先は、暗い廊下だ。
かすかに、壁の足元の位置につけられた非常との淡い光だけが光源になっている。
「おまちしておりました」
咲之進さんがいつものように、どこからか現れる。
心臓に悪い人だ。
「では、こちらへ。下と同じく。私の後についてきてください」
俺はうなずく。
暗闇の中、なんとか咲之進さんの後をついて行く。
「もうすぐです」
「わかった」
その時、地面がゆれる。
地震かとも思ったが、ゆれ方がおかしい。
「メイ様!?」
廊下の先にかすかに人がいるのがわかる。
メイちゃん?
「何故来たのだ。貴様はメイには必要ないのだ」
「メイ様。和輝さまは、メイ様のことを」
「知らないのだ。もう会いたくないのだ」
確かに、メイちゃんの声だ。
こころなしか、声が震えている。
「和輝さま。お気を付けください」
「え?」
周りをみると、俺と咲之進さんが立っている位置の、前後の廊下が消えていく。
少しずつ、廊下に穴が空いていくのがわかる。俺たちをめがけて。
「落ちても、軽く怪我をする程度でしょうが」
「トラップなのか?」
「はい。しかし、これはメイ様、ご自身がボタンを押さねば作動しない罠。どうやら私たちの行動はばれていたようです」
メイちゃんが自分で?
ってことは、俺とはどうしても会いたくないってこと、なのか。
「メイちゃん!」
俺は闇の向こうの人影に向かって叫ぶ。
「すまない。俺は君があの少女だったなんてわからなかった。なのに、あんなことを言ってしまって」
人影は動かない。
「けど、俺はあの日のことを忘れたことはなかったんだ。引っ越した後はずっと夢に見てた。けど、メイちゃんに会ってその夢を見なくなったんだ」
廊下の穴はどんどん広がる。
もうすぐで足場がなくなるだろう。
「だけどそれは、俺の心が、メイちゃんと少女が同じ女の子だってわかってたから。だから俺も君に惹かれたんだ」
人影が少しだけ動く。
「心でわかっていても、頭ではわからなかった。それがメイちゃんを悲しませる結果になってしまった」
俺の心はあの時以上の罪悪感でつぶれそうだ。
「ごめん。さっきのことも、8年前も、それだけが言いたかった」
出来ることなら、目の前で謝りたかった。
けど、それは叶わないかもしれない。
「メイちゃんが怒ってるのはわかってる。けど、俺はあきらめたくない。ずっと一緒にいたいんだ。俺はメイが好きなんだ!!」
叫んだ。
屋敷中に響き渡るほどの大声で。
廊下の穴の拡大が止まる。
すると、今度は一気にその穴がふさがっていく。
「メイも。メイも・・・一緒にいたいのだ」
人影がこっちに向かって駆けてくる。いや、人影じゃない。メイちゃんだ。
俺は、メイちゃんを抱きとめる。
すぐ隣にいたはずの咲之進さんは、いつのまにかいなくなっている。
「ごめん。本当に、ごめん」
「いいのだ。メイも意地をはってしまったのだ。わがままなのだ」
「いいよ。メイちゃんは、それで」
メイちゃんが顔を上げる。
「いいのか?わがままでもいいのか?」
俺は大きくうなずく。
「そういうところを含めて、俺はメイちゃんのことが」
「ありがとうなのだ。あ、メイのことは、メイと呼んでいいのだ。さっきのように」
そういえば、さっき俺はメイちゃんを呼び捨てで叫んでしまったな。
けど、本人がいいって言っているんだし。
メイ・・・か。さすがにちょっと恥ずかしい。
「メイ」
「和輝」
ゆっくりと唇を合わせる。
メイと夢の中の昔の少女。2人の女の子が俺の思いの中で溶け合う。
唇を離し、見詰め合う。
突然、廊下の照明が全て点灯する。
「どういうことかね、これは?説明してもらおうか。メイ、それに牧和輝くん」
どこかのスピーカーから男の声がする。
この声はさっきの。
「お父様!?」
伊集院財閥総帥。そして、メイのお父さん。
廊下の曲がり角から、サングラスをかけた黒服が何人もこちらに走ってくる。
「こっちなのだ」
メイが俺の手を引く。
「なんなんだ!?」
俺はメイに手をひかれ、走り出す。
向かった先に階段がある。
階段を上がった先。ドアをあけると、鋭く痛く冷たい風が感じられる。
「屋上?けど、これじゃあ」
「大丈夫なのだ、ここから。え!?ないのだ」
メイが、屋上に設置された小屋を覗き声をあげる。
「ここに、脱出用の隠し階段があったのだ。それが、なくなっているのだ」
屋上へのドアが叩かれる。
先ほどの黒服たちがやってきたのだろう。
ドアが激しい音と共に破られる。
「メイ。どこかに隠れて」
「ダメなのだ!メイが説明するのだ!!」
俺がメイを隠し階段があったであろう部屋へ、押し込む前に、黒服に囲まれてしまう。
手には黒い鉄の塊。普通の拳銃ではなさそうだが、その銃口らしきものがこちらに向けられる。
スタンガンか何かか?
「メイ。どういうことだ」
黒服の後ろから、メイのお父さんがいる。
黒服が動き囲いが割れ、俺たちの前までやってくる。
「お父様」
「メイ。どういうことだと聞いているのだぞ。答えよ」
メイを睨みつける。
その目の鋭さや、身体から出ている威圧感は、先ほど車で感じたものよりもすさまじい。
今までに何人もすさまじい威圧感の持ち主にはあってきたが、桁が違う。
「わ、わたしは」
ダメだ。メイは完全に飲まれてしまっている。
俺も、動くことができない。けど。
「俺が!俺がメイを好きだから。好きだから、連れに来たんだ!!」
「・・・和輝」
言った。言えた。身体は相変わらず、全然動かないが、声は出せる。
メイが俺の方を見上げる。
「ふん。一般人風情が俺の目の前で。伊集院の人間を呼び捨てにし、なおかつ好きと言うか」
「お、お父様。メイも、和輝と一緒にいたい、です」
言葉は途切れ途切れだが、自分の意志をはっきり伝える。
「メイ。お前は伊集院家の跡取だ。レイと共にな」
メイのお父さんが一歩前へ出る。
それだけで、重圧感が2倍にも3倍にも増える。
「和輝と言ったか。貴様はなかなか面白いヤツだ。だが、それとこれは話は別だ。伊集院の娘をたぶらかし、こんな騒ぎを起こしたんだ。きちんと謝ってもらおう」
さらに重圧が重くのしかかる。
「謝った後は、メイとレイさんはどうなるんですか」
「もちろん、2人は学校を辞めてもらい、この屋敷で再度、伊集院家にふさわしい教育を受けてもらう」
つまり、謝ろうが何しようが、メイと一緒にはいられないってわけか。
なら。
「謝りません」
「ほぅ、で、どうするつもりだ?」
「か、和輝!?ダメなのだ、謝るのだ。じゃないと」
俺は、メイを抱き寄せ口付けた。
メイも急なことで目をパチパチと瞬きしている。
「俺は、メイが好きだ。だからあきらめない。メイと一緒にひびきの市へ帰る」
「言いたいことはそれだけか?」
メイのお父さんが腕を上げると、黒服がいっせいに銃口をこちらへ向ける。
もちろんこうなることは予測していた。
けど、どうしてもここを切り抜ける策は一つしか浮かばない。それもあまりいい策ではないものしか。
「ごめんな。メイ」
俺はメイを抱きしめ、そのまま屋上のはじへ行く。
「なにをする?」
「メイ。しっかりつかまってて。絶対に一緒にひびきの市へ帰ろう」
メイは俺をしっかりと掴む。
いちかばちかの賭け。
3階建ての建物の屋上。建物の裏には大きな噴水のある池。そこに落ちれば。
「いくよ」
メイがこくりとうなずく。
「バカな!!何を考えている」
俺はメイを抱えたまま、大きく外に向かって飛び出した。
少し、ずれたか。けど・・・
数秒後、ものすごい水しぶきと共に俺たちは池に落ちた。
「ぷは。メイ!大丈夫か?」
「ん、大丈夫な・・・和輝怪我をしたのか!?」
透明な水の一部が赤く染まる。
少しずれてしまったため、俺の足に池の脇にあった木の枝に引っかかってしまったのだ。
「大丈夫だ。かすり傷だ。それより行こう」
俺たちは池から上がると、外に向かう。
けど、歩きでは必ず追いつかれる。
なにか他に策はないか。
「足を引きずりながら何処へ行こうというのだ」
俺たちが裏門のところにたどり着くと、そこにはすでにメイのお父さんが立っている。
メイの話だと、屋敷には門は10個以上あるとのこと。
俺たちはわざと遠くにある門まで来たというのに。なぜ、この場所が。
「この屋敷内で私にわからぬことは無いのだよ」
「お父様。お願いします。ここを通してください」
メイのそばに歩み寄る。先ほどの威圧感は無い。
「メイ。今は幸せか?」
「え?・・・はい」
「そうか」
何かを考えるかのように夜空を見上げる。
そして、俺の方を向く。
「和輝君。メイをよろしく頼む。君のような勇気と度胸を持ったものを手放すのは少々おしいからな」
メイのお父さんが頭を下げる。
「あ。はい!」
「いい返事だ。しかし、君にはこれからメイの代わりに伊集院家の跡取として多くを学んでもらうぞ」
威圧感が戻ってくる。
拒否はゆるされないといった感じだ。
「大丈夫なのだ。メイがみっちりとしごくのだ」
「そうか。まったく、レイといいメイといい。親の知らぬうちにこんなにも大きくなって」
父親。
もし、俺の親父が生きてたら、なんて言うだろうか。
誉めてくれたか、怒られたか。
いや、どっちもでいいか。
どうせ、怒られたって、これだけは譲れないことだし。