「今年は、和輝も招待してやるのだ」
私は、和輝にクリスマスパーティの招待状を渡した。
伊集院家主催パーティ。
本来は本宅で行うのだが、向こうはお姉様の関係者やお父様とお母様の関係者も来るからあまりゆっくり出来ない。
だから、今年は、私の関係者だけ集めて、特別に別宅で行うことにした。
「おう。サンキュ」
なのに、この男。たったそれだけの反応しか示さない。
なぜだ?伊集院家のクリスマスパーティの呼ばれるだけで名誉なことであると言うのに。
「綾峰。この招待状を電脳部員に配るのだ」
「え?」
「今年は、いっぱい呼んでパーティするのだ」
本当は、2人っきりでパーティしたかったのだが。
ヤツがあのような態度では、もうどうでもいい。
「咲之進」
「はっ」
何処からともなく、私の背後に咲之進が現れる。
「和輝は来たか?」
「いえ、まだお見えになってはいませんが」
「そうか」
現れた時同様、瞬時に消える。
現在は夜の8時。
パーティ自体は7時から始まっているから、もうすでに1時間がたっている。
どうしたのだろう。招待状はちゃんと渡したし。
「メイちゃん。お招きありがとう」
光だ。そういえば、和輝の知り合いにも招待状を配ってしまったな。
「いいのだ。それより、和輝を知らないか?」
「え?和輝君まだ来てないの?おかしいなぁ、私が家を出た後寄ってきたんだけど。いなかったよ」
光がさらに、不安になるようなことを言う。
電話掛けてみようかな。
『現在、電話にでることが・・・』
和輝の携帯からは、嫌なメッセージが流れる。
事故、じゃないよね。
「そんなはず無いのだ。きっと、きっと来てくれるのだ」
「メイちゃん。今日は招待ありがと」
「ん。うむ」
ヤツは確か、和輝のクラスメートの。あ〜。名前は知らない。
「貴様。和輝を知らないか?」
「和輝?あぁ。そっか・・・まだ来てないか」
ヤツは時計を見る。
「もうすぐ来ると思うよ」
「何か知っているのか?」
「え?うん。今、何処にいるかは知ってるんだけど」
私は気がついたら、ヤツの襟首を掴んでいた。
「教えるのだ!和輝はどこにいるのだ」
「え。あ、他のヤツには教えるなって言われてるけど、メイちゃんには教えてもいいか」
「和輝」
「ん?あ、メイちゃん。ここ・・・よくわかったね」
こことは、ひびきの霊園。つまりお墓だ。
和輝は、じっと一つの墓の前でたたずんでいた。
この寒空の中。今にも雪が降りそうだという、夜の最中に。
「和輝の友達に聞いたのだ」
和輝は動かない。
「匠か。まぁ、メイちゃんにはそのうち話すつもりだったし。いいか」
『和輝、こっちに戻ってきたのって理由があるんだ』
『理由?』
匠とかいうやつは、和輝がいる場所も教えずそんなことを話し始めた。
『うん。昔ね、こっちに住んでたときに、なにか約束をした女の子がいるらしくて。その子に会うためになんだって』
昔の約束。私も少し、胸が痛くなる。
しかし、今は和輝の居場所だ。
『それと今日来ないののどんな関係があるのだ?』
『今日はあいつの誕生日なんだ。3年前にご両親が亡くなってから、毎年この日には墓参りに行ってるんだ』
『墓参り』
『この世に生を与えてくれてありがとうって・・・あと今年一年間の報告だって言ってた』
「このことは光も知らないことなんだ。匠には、去年ちょっとした理由でばれちゃったけど」
和輝が淡々と語る。
「両親が事故で死んで、親戚の家にやっかいになってたんだ。けど、どうしてもこの街のことが忘れられなくて」
約束のことだろうか。
聞きたい。その話。けど。
「親父とお袋の墓もこっちに移したんだよ。元々、住んでいた街だし。2人ともこの街好きだったから」
「メイも・・・手を合わせていいか?」
「もちろん」
和輝が立っている墓前へと行く。
そこには『牧家之墓』とかかれており、和輝が買ってきたのであろう、小さな花束が二つ、生けられていた。
ゆっくりと手を合わせる。
和輝の両親がどんな人だったのかは知らない。けど、和輝を見ていると、きっといい両親だったのだと思う。
和輝はこんなにも優しくて、親想いで。きっとご両親も今は天国で見ていてくれるに違いない。
「ん・・・」
「ありがとう。親父もお袋も、喜んで、いるよ」
和輝の声が少し小さくなる。
見上げると、その目に涙が浮かんでいる。和輝の涙。いや、男性の涙は初めて見た。
「すまん。ここに来ると。どうしてもな」
一生懸命、笑顔をつくろうと努力する。
けど、それが逆に、心を縛るのかもしれない。
「いいのだ、いつものお礼なのだ」
手を伸ばし、和輝の頭を抱く。
和輝も力をいれずに、私の胸にすがってくれた。
和輝はいっぱい私にしてくれた。だから、お礼をしたい。
私の目にも熱いものが浮かぶ。
「和輝のご両親は幸せ者なのだ。こんなにも。想ってもらえて」
「メイちゃん」
和輝が顔を上げる。
その顔は、少し赤い。
「メリークリスマス」
「違うのだ。ハッピーバースデー。なのだ」
今日はキリストの誕生日なんてどうでもいい。
和輝が生まれた日。そっちの方がずっと重要だ。
「プレゼントはないのだ。ごめんなのだ」
「いいよ。ここに来てくれただけで、それが一番のプレゼントだよ」
和輝の笑顔。
今までとは、何かが違う。
いや、和輝が違うんじゃない。私が。私の気持ちが。違うのかもしれない。
「ん」
私は背伸びをして、和輝の唇に口付けした。
初めての自分からのキス。
けど、こんなにも、自分からしたいなんて思ったことが無いから・・・初めてでも、とても自然に出来た。
「メイ。ちゃん」
「さぁ、帰るのだ。みんなが待っているし、せっかくの料理が冷めてしまうのだ」
「うん。あ、すぐに行くから、先に戻ってて」
よくはわからないが、先に車に向かう。けど、ちょっと気にもなる。
ここなら、影になってるけど、すぐ近くだから声、聞こえるかな。
「親父、お袋。今の娘がさっき話した俺の最愛の人。多分、これから大変だろうけど、頑張るから、見守っていてくれ」
さいあいのひと。
頭が回らない。けど、早く車に戻らないと。和輝より早く。
私は。和輝のこと。どう思ってるんだろう。