「なにをしているのだ」
「メイか。いや、ちょっと考え事をな」
 文化祭が終了し1ヶ月。電脳部は特にやることもなく、それぞれで自由に物を作らせていた。
 季節も徐々に冬に向かっている。
 いつものように屋上で街の方を見ていたところだ。
「まぁよい。今日はちょっと付き合って欲しい場所があるのだ」
「ジャンクショップか?」
「うむ。パソコンをもう一台作ろうと思っているのだ」
「了解。俺も掘り出し物でもなにか探そうかと思ってたところだ」
 今、あることで悩んでいるのだが、気分転換にはちょうどいいだろう。


「ふふん〜」
 メイちゃんが鼻歌を歌いながら俺の隣を歩いてる。
 ジャンクショップでかなりの掘り出し物を手に入れたからだ。
 俺も探していたものの一つが見つかってかなり上機嫌だが。
「あんまり浮かれてると転ぶぞ」
「メイはそんなにおっちょこちょいじゃないのだ」
「どーだか」
「なんか言ったのだ?・・・あれ?」
「どうした?」
 メイちゃんが不意に足を止める。
 その視線の先にあるはブティック。俺にはあんま縁の無い店だ。
 メイちゃんだって着るものはオーダーメイドだろうしあんま関係ないと思うが。
 誕生日に頭が回らず、ブティックで買い物しようとしたのはメイちゃんには内緒だ。
「欲しい服でもあったのか?」
「ううん。お兄様」
「お兄様?」
 メイちゃんのお兄さんってことはレイさんだよな。
 レイさんがブティックへ?メイちゃんと同じであまり行かなさそうなのだが。
「見間違いじゃないのか?」
「見間違うわけないのだ。けど、男2人で入ってどうするのだ」
 男2人?ってことは、レイさんともう1人だれかってわけか。
 って、まだ自分が女だって言ってなかったんだ、レイさん。
「ほ、ほら、誰かへのプレゼントとかさ」
「気になるのだ。これを持ってるのだ」
 そう言うと、メイちゃんは俺に荷物を全部預け、走ってブティックの中に入っていく。
 あ〜。やばいのか。これは。
 俺も荷物を抱えたままブティックに向かって走り出した。
「はぁ、はぁ、メ、メイちゃん・・・?」
 ブティックの入り口をくぐったところでメイちゃんが固まっている。
 ん?あ・・・あれは。
 俺とメイちゃんの視線の先には、ちょうど、女性用のドレスを着て試着室から出てきたレイさんがいた。
「メイ?それに、君は」
 レイさんも俺たちに気がついた。
 しかし、さすがレイさんだ、取り乱した様子もなくメイちゃんに近づいていく。
「メイ」
「お、お兄様。そんな、お兄様に女装癖が」
「違う。ふむ、メイ。まさかこんなことでバレるとは思っていなかったよ。続きは屋敷で話そう」
 そういうと、レイさんは試着室にかけてある、自分の白の制服を取りに行く。
「雪之丞はここの支払いと彼らを。咲之進は私とメイを屋敷へお願いするよ」
『御意』
 いつの間にやら、俺の後ろには2人のタキシードが立っている。
 1人は咲之進さん。もう1人が雪之丞さんなのだろう。
「あ、咲之進さん。これメイの荷物です」
「ありがとうございます」
 咲之進さんは荷物を持ち、外にこれまたいつの間に来たのか、停めてあるリムジンの後部座席のドアを開ける。
 レイさんが、いまだ呆けているメイちゃんを車に乗せる。
 俺たちの見ている前で、リムジンが発車した。
「それでは、高見さま。牧さま。お送りいたしますのでこちらへ」
 先ほど発車したリムジンと同じ位置にまたもやリムジンが停まっている。
 謎だ。


「えっと、君が牧和輝くん?」
「えぇ。あなたは?」
 リムジンの中で、レイさんと一緒にいた男性が俺に声をかける。
「俺は高見直人。同い年なんだから直人でいいよ」
「じゃあ、俺も和輝でいいです」
 直人はレイさんと同じできらめき高校の生徒らしい。
 今日は、レイさんの新しい服を調達するために来たのだが、きらめき市では学校にみんなにみつかると危ないからと言う理由でこっちに来たのだ。
 が、結局、一番見られたくない人物に見られる結果になってしまった。
「ふぅ。メイちゃんてあのレイの妹だろ。あぁ、この後は・・・お互い大変かもな」
「そうだな。メイちゃん、自慢のお兄様だっていつも言ってたから」
 リムジンが俺の部屋のあるアパートの前に止まる。
「お互い連絡取り合おう。同じ伊集院に関わるものとしてさ」
「そうだな」
 携帯の番号とアドレスを交換した。
「それじゃあ、また」
 リムジンが走り出す。


 部屋のインターホンがなる。
 時間は22時半を少し回ったところか。
 誰だこんな時間に。
「はいはい」
 ドアを開けると、そこには伊集院の姉妹と高見直人が立っていた。
「夜分遅くすまないね」
「ごめん。一応、止めたんだけど」
 3人とも部屋に上がりこむ。
「ふむ。直人の部屋よりも片付いていて、いい感じの部屋ではないか」
「大きなお世話だ」
 それぞれが勝手に、適当に座る。
 メイちゃんとレイさんが絨毯の上に。直人がベッドの上に。
 広い部屋ではないので、俺も必然的に直人の隣に座る。
「んで、なんなんだこれは?」
 とりあえず聞く。というか、聞かないと何も始まらないだろう。
「それは俺も聞きたい。急に連れてこられたから」
「申し訳ない。メイがどうしてもここに来たいと言うのでな」
 肝心のメイちゃんは黙ったままだ。
 うつむいたまま、何も話さない。
「・・・・のか?」
「え?」
 いや、かすかに言葉を発する。
「和輝も知っていたのか?」
 今度は顔を上げ、はっきりとした声だ。
 その目にはかすかに涙が浮かんでいる。
「レイさんのこと?あ、うん。ごめん。知ってたよ」
「しかし、それは私が口止めしていたからだ。彼は悪くない」
「けど!私は・・・お兄様お兄様って・・・絶対、笑われてたのだ」
 涙がこぼれる。
 メイちゃんの涙を見たのはこれで何度目だろう。
 けど、いままでで、一番、つらそうな表情だ。
「そんなことはないよ。俺だって最初はレイさんを男と間違ったし」
「そうそう。きらめき高校でコイツが女だって知ってるの、俺とあと3・4人だぞ」
「ちょっと待て、3・4人?誰のことだ、私は聞いてないぞ?」
「今はそんな話してる場合じゃないでしょ」
 メイちゃんがまたうつむく。
 かなり嫌な空気だ。まったく。
「ふぅ。それじゃあ、とりあえず、レイさんと直人は帰ってくれ」
「なに?」
「帰っていいのか?」
 2人がこっちを向く。
 特にレイさんは微妙に視線が痛い。
「メイちゃんは俺のところに来たかったってことは俺に話があるんだろ?」
 メイちゃんがかすかに首を縦に動かす。
「なら、2人は帰ってよ。別に手を出そうとかそんなことは考えてないからさ」
「い、いや。しかし」
「そうだな。俺たちがいてもメイちゃん話づらいだろうし。帰ろうぜ」
 直人が立ち上がり、レイさんの手を引く。
 少し、考えたがレイさんも立ち上がる。
「話が終わったら必ず電話をくれ、迎えにくるからな」
「んじゃ。おやすみ〜」
 2人が玄関から外へ出て行く。
「ふぅ。んで、どうした?」
 俺はメイちゃんの隣に座る。
 う、すでに結構涙が流れている。
 メイちゃんを抱き寄せ、頭を撫でる。
「とりあえず、気がすむまで泣いていいよ。ここにいるのは俺だけだから」
 シャツがゆっくりと湿っていく。
 部屋にはメイちゃんの嗚咽の声だけ。他には音は何もしない。
 少しずつ、その声も小さくなる。
「このまま、話・・・しても・・・いい?」
「いいよ。このまま聞いててあげる」
 メイちゃんの声は、途切れ途切れで、小さい。
 けど、他に物音のないこの部屋なら、ちゃんと聞き取ることが出来る。
「メイは・・・お兄様が好き・・・だったのだ」
「うん」
「お兄様は・・・かっこよくて・・・頭もよくて・・・メイの・・・理想の男性なのだ」
「うん」
「けど・・・ウソ・・・だったのだ・・・お兄様・・・じゃなくて・・・お姉さまなのだ」
 そっか。メイちゃんはウソをつかれたことよりも、男としての理想が崩れたことがショックだったんだ。
「ねぇ、メイちゃん。レイさんってさ・・・かっこいいよね」
「かっこいい・・・のだ」
「それってさ、女性だってわかったら、かっこよくなくなるのかな?」
「そんなこと・・・ないのだ」
「ならさ、レイさんを今度は、姉として1人の女性としての、自分の理想に出来ないかな?」
「女性として?」
 メイちゃんが顔を上げる。
 涙の筋をぬぐってやる。
「そう、今度は、自分が好きな人の理想じゃなくて、自分がこうなりたいっていう理想」
「メイには・・・無理なのだ。おに・・・お姉様のようにはなれないのだ」
「かっこよくなるのは無理でも、レイさんのように、気高く強くはなれるんじゃないかな?」
「気高く・・・強く?」
 俺は天井を見る。
 そう、レイさんのかっこよさは、見た目だけじゃない・・・あのオーラだ・・・あれが、あの人のかっこよさなのだ。
「うん。レイさんってさ、見た目以外にもカッコいいだろ。そういうかっこよさなら、メイちゃんだって」
「そう・・・かな?」
 メイちゃんの目に少しだけ、光が戻ってきた。
 もう、大丈夫だろう。
 持ち前の明るさや、力強さで、きっとすぐに元に戻る。
「うん。ほら、レイさんって、メイちゃんと違って、気高く孤高なイメージだけど、わがままじゃないし」
「メイだってわがままじゃないのだ!!」
「どうかなぁ」
 メイちゃんが、頬を膨らませ、明後日の方を向いてしまう。
 ふふ。元通りになった。
 やっぱり、子供だよな。本人に言ったら怒るけど。
「なんなのだ」
「なんでもないよ」
「ウソだ!貴様のその目はよからぬことをたくらむ目だ」
 俺って結構、顔に出るタイプなのかな。気をつけないと。
「俺が何を考えていたか教えてあげようか?」
「うむ」
「メイちゃんが可愛いなってことだよ」
 メイちゃんの不意をつき、その小さな唇に口付けをする。
 今度は、誕生日のときよりも、少しだけ濃厚で、少しだけ刺激のあるキスを。
「ん・・・」
「ふふ。メイちゃん」
 メイちゃんを抱きしめる。
「頼ってくれてありがとう。嬉しいよ」
 好きだよ・・・メイ。
 心の中でつぶやく。俺は、完全にこの少女を好きになってしまった。
 このまま抱きしめていたいが、さすがに、まずいだろう。
「レイさんに連絡しないとな」
 電話をメイちゃんに渡す。
「はい、電話かけて」
 メイちゃんが、なれた手つきで番号を打つ。
「・・・・・あ、メイ・・・なのだ」
 まだ、少しだけレイさんと話をするには抵抗があるらしい
「お・・・お姉様・・・あ、あの・・・今日は和輝の家に泊まるのだ」
 うん。泊まる・・・へ?
 泊まるって、いつどこでそんな話なったんだ?
「え・・・嫌なのだ・・・今日は帰らないのだ・・・今日は、和輝と床を共にするのだ!!」
 メイちゃんが勢いよく、受話器を置く。
 床を共にする?
 あれ・・・俺・・・明日、朝日拝めるかな。
「メ、メイちゃん?どういうことかな?」
「今日は帰りたくないのだ。一緒にいたいのだ」
 メイちゃんは、俺の膝元に丸くなって乗っかる。猫じゃないんだから。
 って、そんなこと考えてる場合じゃない。
「メイちゃん」
「すぅ・・・」
 って、既に寝てるし・・・
 ふぅ、このわがまま娘が。何を考えているのか。

 この後、レイさんがアパートに乗り込んできて、おもいっきり怒られたのは言うまでもない。

 
 

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