「そこは違うのだ、こっちが先なのだ」
「無茶言うな、どこまで難易度あげるんだよ」
「先輩、ここのBGMこれで合ってます?」
「あぁ、敵のグラフィックデータ忘れてきた!せっかく、無理言って綾平先輩に手伝ってもらったのに」
「声が。声優さんの声がぁぁ」
文化祭1週間前の電脳部はまさに修羅場と化していた。
思った以上に作業が難航してしまい、スケージュールが大幅にずれてしまったのだ。
私も誕生日の一件以来観察を再開したのだが、今は、自分の作業のせいで思うように出来ない。
誕生日・・・それを思い出すだけで、まだ顔が熱くなる。
「だぁ、またバグだ!誰だここ作ったの!!」
しかし、あの時とは違い和輝も普段のやさしさが全く見えない。
おかしい。こんなはずでは。
「部長。今日中にβ版を作成できないとさすがにまずいですよ」
「すみません、敵のグラフィックデータを取りに家に一旦帰ります」
ゲームの作成以外にも、最近は部長の仕事として部員の話もよく聞くようにしている。
ただ、もちろん、それは副部長の仕事でもあるはずなのだが。
「だからここの敵は出さないっていっただろ!!!」
うぅ、和輝のうそつき。サポートしてくれてないのだ。
「時間は生徒会に掛け合うからβ版はなんとかあげるのだ。そっちは咲之進に車を回させるからそれで取りに行くのだ」
私は、生徒会室に向かった。
いまからあの山猿と会わなくてはいけないのかと思うと気が重い。
絶対に何か言われる。まぁ、黙って言われてるつもりもないけど。
「おい、山猿いるか!」
生徒会室に私の声が響く。
やっぱり始めが肝心だろう。
「ん?なんだ、お前か。どした?」
生徒会長の山猿、いや、赤井ほむらが返事を返す。
生徒会長の机の上には山のような書類が。相変わらず最後まで仕事のしないヤツだ。
その上その顔はいつ見てもバカ面だな。思わず鼻で笑ってしまいたくなる。
「実はな、我が電脳部は、作品を更なる物とするために!夜間も作業を」
「いいぞ」
私が最後まで言う前に、あいつは答えた。
まるでこうなることがわかっていたかのように。
「つうか、昨日な和輝に言われた。間に合わないから夜間作業の許可とっておいてくれって」
山猿は机の上から一枚の紙切れを私に差し出す。
そこには夜間作業許可証と書かれており、校長の印も押してある。
「あぁ、もう。アタシも忙しし、お前だってここで油打ってる暇無いだろ。ほら帰った帰った」
生徒会室から締め出された。
あれ?おしまい?
手には校長お墨付きの許可証がある。
和輝が昨日?
「なんだ、ちゃんとサポートしてくれてるのだ」
自分でもわかるほど顔がほころぶ。
嬉しい。ちゃんと助けてくれる。
今までならこんな風に思えただろうか。絶対に、余計なことだって思っただろうな。
「よ〜し。あと1週間。頑張るのだ」
文化祭当日。
『なんだこの敵、強いぞ!』
『隠しルート発見』
『あ、この声、知ってる』
電脳部の展示場は朝から大盛況だった。
つい3時間前に完成したソフトをみんなが遊んでいる。
「か、和輝。解説たのむのだ」
「それは・・・部長の仕事でしょ」
私を含めて部員のほとんどは、展示場の奥に作ったスタッフルームで丸くなっている。
昨日、何人か帰らせておいて正解だった。全員つぶれてたらここまで盛況じゃないはずだ。
「メイのサポートをするのではなかったのか」
「ったく、はいはい」
和輝が立ち上がり、人だかりの方へ行く。
なんだかんだいっても、やっぱりやさしい。
私たちが作ったのは、最初の和輝の案でシューティングとなった。
しかし、ただのシューティングではゲームをやらない人間とゲーマーとでは難易度に差が出来てしまう。
だから、それを回避するためのしかけを入れてみた。
それが、自動ルート設定である。
「このゲームは、プレイヤーのコントローラーの操作でレベルを判断し、そのレベルにあったルートを自動で選択していきます」
和輝の解説が始まった。
「じゃあ、うまい人がやれば?」
「難易度の高いコースへ」
「初心者は、難易度の低いコースってこと?」
「そうです。数十秒ごとに判定をおこないますので、そのルートパターンはなんと100を越え、難易度に関係の無い隠しルートも存在します」
つまりは、2度目にやったものが、敵の位置を覚えていたりすると、難易度の高い方へ行ってしまうのだ。
よっぽどのことが無い限り、全く同じパターンのルートを越えるのは無理だろう。
「それとこのゲームの目玉は、豊富なボイスパターンです」
ゲームを飽きらせることが無いように、ボイスパターンを多量に詰め込んである。
「なぁ、このボイスって」
「はい、現在ご活躍中の様々な声優陣によるものです」
和輝が声優の名前をあげると、そのたびに会場から声があがる。
無理言って、20人以上の声優から、のべ10時間以上分のボイスパターンや台詞などを集めた。
ギャラはもちろん、部費では無理なので私のポケットマネーだ。
「ふわぁぁ。でも、盛況でよかったのだ・・・」
不覚なことに意識が遠のいていく。
「ん」
眠ってしまったのか。外はもう、夕暮れ。
「はっ。展示はどうなったのだ?文化祭は?」
「おはよう。大丈夫。今日は無事終了したよ。けど、これが後2日続くのは、正直しんどい」
和輝が笑って私に言う。
和輝も同じように寝ていなかったのに。いや、私よりもずっと頑張っていたのに。
「メイになにか出来ることはないか?」
「ん?」
明日の準備をしながら、和輝が振り向く。
「メイは和輝に頼りきってしまっていたのだ。今日だって。だから、お礼を」
「いいよ。別に。俺だって好きでやってるわけだし」
「でも、それではメイの気がすまないのだ」
「そうだな。じゃあ、抱きしめさせて」
「抱き・・・」
顔が熱くなる。自分でもはっきりとわかるくらいに。
絶対に今の私の顔は真っ赤だ。熟れたトマトのように真っ赤になっているはずだ。
言葉が何も出ない。
「メイ・・・」
心臓が壊れそうに激しく動いている。
こいつはなぜ、こんなにも平然としていられるのだ?さっぱりわからない。
ダメ・・・だけど、嬉しい。
「・・・和輝」
和輝が後一歩のところまで迫り手を伸ばす。
平気そうに見えていた、和輝の肩も震えている。
「ん」
私は和輝に抱きしめられた。何も考えれない・・・考えたくない。すごく気持ちがいい。
急に外が騒がしくなって、和輝が手を離した。
もっと、抱きしめていて欲しかったのに。
「あ、部長、おはよ〜っす」
「あれぇ、メイさん顔赤〜い」
「和輝先輩もだ〜。あやし〜」
和輝の方を見上げる。和輝の顔はさっきとうって変わって真っ赤だ。
なんか、ちょっと嬉しい。
「文化祭も今日で終りなのだ。みんな気合いれるのだ!」
『お〜』
「これが終わったら打ち上げだ。バックに伊集院がついてるんだ。楽しみにしてろよ」
『ひゅ〜ひゅ〜』
スタッフルームで拍手喝采が巻き起こる。
なんとか3日目を迎え、最後の日を迎えた。
私は昨日、自由行動だったから、今日は1日ここでスタッフだ。
「和輝。打ち上げの話なんか聞いてないのだ」
「あれ。そうだっけか?」
本当は和輝と一緒に文化祭をまわりたかったんだけど、和輝の自由行動は今日。
さすがに、部長と副部長のどっちもいないのはまずいだろうということで。
「んじゃ、後よろしくな。俺は色々とまわってくるよ」
和輝はそう言うと、さっさと出て行ってしまう。
初日のあの時以来、ちょっと避けられてしまっている。
なんか、寂しい。
「部長、お客さんきましたよ」
展示室から声が聞こえてきたので、そちらに向かう。
今日の最初の客はスーツ姿の2人の男性だった。
昨日と今日は一般客も入ってきているのだが、それにしてもこれはちょっと異色に見える。
「これ、プレーしてもいいかな」
「あ、はいなのだ。解説は」
「いや、いい」
そういうと、スーツ姿の一人の男がゲームをプレイし始める。
「げ、うまい」
「うそ、あのコースって最難関難易度でしょ」
私の後ろで真柴と雪峰の声が聞こえる。
この男、ゲーム慣れしている。いや、ゲームをしているというより、機械的に作業していると言う感じなのだが。
「ほぅ。なるほど」
あっという間にクリアしてしまった。多分、和輝の最高記録より早い。
「もう一度やっていいかね?」
「かまわないのだ」
他にも客はきているのだが、みんなこの男のプレーを見ている。
2週目のプレーには私も鳥肌が立った。
このゲームの難易度変更は、敵の撃墜率と弾の命中率、それに自機の残数できまる。
1週目でそれを見破ったのか、まず最初の敵で自機の残数を0にした。その後は、神業だ。
敵を一機も撃墜せずに無駄弾だけを撃つ。シューティングとしては最悪なプレーだが、そんなことすれば敵の攻撃は増えるわけで、クリアは難しくなる。
だが、このゲームはそれを行えば難易度がさがるのだから徐々に簡単になっていってしまう。
ボスのみを撃破し2週目もなんなくクリアしてしまった。
『おぉぉぉ』
会場からは大歓声だ。あれだけの神業を出されたのだからそれもそのはずだ。
多分、このゲームでもっとも点数の低いクリアだったはず。
しかし、狙って出せるものではない。
「このゲームのソースを見せてもらうことは出来ないかな?」
「え?あ、そういうのは部外者には見せることはできないのだ。それに見てわかるのか?」
ソースとはプログラムの羅列だ。一般人が見ても全くわからない。
「あぁ、すまない。私はこういうものだ」
男が名刺を取り出し、私に渡す。
名刺には『株式会社コミナ 広報宣伝担当』と書いてある。
「コミナ!?あのゲーム会社の?なんだってこんなところにいるんだ?」
真柴が驚くのも無理は無い。
コミナの名前は私も知っている。最近、急成長しているゲーム会社だ。伊集院財閥も出資していたはずだ。
「真柴、この人たちをスタッフルームへ案内して、ソースを見てもらうのだ」
スタッフルームには緊急用のノートパソコンが置いてある、そこに生のソースが入っている。
私は、廊下にでて一応、和輝がいるか確認してみたが見当たらない。
「何処に行ってるのだ。こんな時に」
スタッフルームでは、先ほどゲームをした男とは別の男が、ものすごいスピードでソースを読んでいる。
この男はプログラマか何かだな。
「あっと、失礼。このプログラムは君が?」
「私はデザイナー担当です。プログラマは別にいます」
こんな時に敬語が出てしまうのは、伊集院家のしきたりのせいか。
「開発期間は?」
「約3ヶ月ですね」
「3ヶ月!?これをか・・・凄い!凄いぞ!!」
ソースを読んでいた男が声を荒げる。
「2週目は色々ためしながら動かしたのだがね、バグも少なそうだ」
「綺麗なものです。これを3ヶ月で。こんなの10年目のヤツらにもそうはいませんよ」
2人の男は目を輝かせて話をしている。
「これの作成者は今どこに?」
「多分、校内のどこかにいるとは思うのですが、放送で呼びましょうか?」
「いや、いい。この名刺を渡しておいてくれないか。携帯番号もはいっている。ここにかけて欲しいと」
そう言うと2人の男はスタッフルームから廊下に出て行ってしまう。
「すげぇ。ひょっとしてスカウトとかですかね?」
「わからないのだ。なんなのだ一体」
『かんぱ〜い』
学校の側のファミリーレストランで打ち上げが始まった。
「いやぁ。最高な3日間だったな」
「思ったより人が入ったし、それに人気も上々」
「苦労したかいがあるってものですよね」
みんないい顔だ。完全に羽目をはずしている。
「メイさん。お疲れさま」
「うむ。お疲れさまなのだ」
雪峰とグラスを合わせる。
同学年ではこいつが一番、私を気にかけてくれる。
「ようやく終わったね」
「この3ヶ月間。さすがに死ぬかと思ったのだ」
「あはは。メイさんでもそう言う風に感じたんだ」
雪峰は私にも、隔てなく会話してくれる。
友人とはこういう人物を指すのだろうか。
「ところで。牧先輩とはどうなんですか?」
!?
私は口に含んだジュースを危うく噴出しそうになった。
「だって、初日の方付けの時。なんかあったんでしょ」
「べ、別に何もないのだ」
「ウソだ。だって、2人っきりで、その上2人とも顔赤かったもん」
雪峰は正直に話せと、詰め寄る。
別に、ちょっと抱きしめられただけだし。キスだって誕生日のあの時以来してないし。
「んふふ。何を思い出してるの〜。顔赤いぞ」
ウソ!?
顔が赤い?えっと。でも、あれを思い出したんだし。そうなってもおかしくは無いわけで。
あうぅ。
時間も11時を回り、解散となった。
高校生の打ち上げにしては、ずいぶん遅くまでやった方なのかな?
「お疲れさまなのだ」
「メイちゃんもお疲れさま」
ファミレスの前に残ったのは、私と和輝だけ。
私が、車を待つといったら、和輝だけを残してみんな帰ってしまった。
2人っきり・・・ちょっと恥ずかしい。
「それにしても咲之進遅いのだ。いつもはすぐ来るのに」
「メイちゃん。寒くない?」
今は11月の頭。さすがに、風がかなり冷たい。
「大丈夫なの、くしゅん」
「ほらほら。強がらないの。まったく」
「あ」
和輝が私の背中から、着ていたコートで私をくるむ。
私は背中に和輝を感じ、徐々に熱くなる。
「本当なら、もっと、いつも抱きしめていたいんだけどね」
「か、和輝?何かあったのか?」
「う〜ん。俺の気持ちの再確認・・・かな」
避けられていたわけではなかったのか。
よかった。
「ほら、もっと中に入らないと寒いよ」
和輝に背中を預けていると、和輝の体温が感じられる。
ちょうど、頭が胸のところに来るので、少しだけ頭を傾けてみた。
「どうしたの?」
「こうしていると和輝の鼓動が感じられるのだ」
目をつぶる。
少し早めの鼓動を感じる。暖かく心地よい。
咲之進・・・もう少し遅く来ても・・・今日は許す。