あの修学旅行の一件以来、メイちゃんとはまともに会話していない。
かといって、メイちゃんの機嫌が悪いのかといえばそうでもない。
むしろ、周りのヤツらには、最初の頃とはうって変わって打ち解けている。
「お前、何をしたんだ?」
「なにが?」
屋上で昼飯を食っていると、匠が話し掛けてきた。
珍しく深刻そうな顔だな。
「1年の中で、特に女子からかなり嫌われてるぞ。何か悪い噂が流れているみたいだな」
「俺が?」
「うん。なにか心当たりは?」
1年で俺につながりがあるのは電脳部くらいだし。
メイちゃんかな?
「なくもないんだけど」
「まったく。一応、忠告はしたからな」
そう言うと、匠はまたどこかへ行ってしまう。
けど、メイちゃんがそんなことするとは思えないんだけど。
「和輝君!まだ、メイちゃんに謝ってないでしょ」
今度は光だ。顔が明らかに怒っている。
「なんか言い出しにくくってな」
あれから毎日のように交わされた会話だ。
「もぅ。君はメイちゃんとこのままでいいの?」
「嫌だけど・・・」
「だったら謝る。今日、絶対に謝りなさいよ」
それだけ言って、光も戻っていく。
謝るって言ってもな。
すでに1ヶ月以上たってしまったのだ。きっかけがないと難しい。
「やっぱ、俺が悪かったのかな」
あの時は、置いて行った二人に腹が立ち、あんなことも言ったが。
メイちゃんは自家用機に乗ってまで来てくれたのだ。
本当に俺のために来てくれたのかどうかは、本人には聞いてないからわからないけど。
俺のためだとしたら、確かに悪いことをしたと思う。
「先輩!!」
また屋上の扉が開く。
「雪峰か。どうした?」
電脳部の後輩が、これまた光にも負けないような形相でこちらを睨んでいる。
「どうしたじゃありませんよ。どうにかしてくださいよ」
「メイちゃんがまた何かした?」
「メイさんではありません。先輩です!」
やばい、光より怖いかもしれない。
徐々に詰め寄ってくる。
「メイさん、普段はみんなと話すのに、先輩が来たとたんに機嫌悪くなるんですから」
「う・・・」
「おかげで、電脳部の1年の誰かが、先輩がメイさんをいじめたんだとか噂流しちゃって」
そうか。やはり噂の出所は電脳部か。
噂の中身も当たらずとも遠からずだな。否定もできやしない。
「噂に否定しないんですか」
俺は黙り込む。今は、何を言っても言い訳にしかなりそうもない。
「私は、先輩とメイさんの関係に憧れてたのに」
「ごめん」
「わたしじゃなくて、メイさんに謝ってください」
本日2度目の台詞。
謝るか。俺だってそうしたいけど。多分、そのまま謝っててもメイちゃんはきっと。
「明日、メイさんの誕生日です。知ってました?」
「そうなのか?」
「きっかけなら、それで十分ですよね。絶対に、明日。謝ってくださいよ」
誕生日か。そういえば、匠に前に教えてもらった情報にそう書いてあったかも。
全然気付かなかったとは、俺ってバカだな。
「今日は先輩は部活お休みです。ちゃんとプレゼント選んでくださいよ」
「あぁ、ありがとうな。雪峰」
「なんで俺がここにいるんだ」
「匠。お前より、俺の方が場違いだと思うが」
匠と純がブティックの中で2人でため息を吐く。
プレゼントを選ぶにしても1人だと決めれなさそうだから、2人に来てもらった。
「なぁ、どっちの服が似合うと思う?」
サイズは匠のデータで完璧だから、試着しなくても問題なし。
あとは何とかいいものを選ばないと。
「あのさ、伊集院さんにだろ?なら服ってあまり貰って嬉しいものじゃないんじゃないか?」
う。女の子にうとい純に的確に指摘されてしまう。
「そうだね。宝石とかも好きそうな子じゃないしね」
匠にもダメだしされた。
そっか、そうだよな。2人を連れてきて本当によかった。
と言うわけでブティックを出て来たわけだが。
「伊集院さんと遊びに行ったことは?」
「あるけど」
「どこに?」
「ジャンクショップにゲーセンに遊園地」
基本的にメイちゃんは電脳系や光るものが大好きなのだ。
別に派手好きってわけじゃなくて、コンピュータ関連が好きというだけだが。
「なら、ジャンクパーツやゲームソフトでいいんじゃないか?」
「いや、それもきっとダメだね。ジャンクパーツは自分で選ぶことに意義があるし、ゲームソフトは好きなら自分で揃えてるだろうね」
さすがは匠、伊達に数多くの女の子にプレゼントを渡してきたわけじゃないな。
けど、そうなるとなにがいいんだろう。
自分では買わないけど、興味のあるもの?
「ま、あとは和輝が自分で考えた方がいいよ。行こう、純」
「え?あぁ、うん。じゃあな。頑張れよ」
2人とも俺を置いて先に帰ってしまう。
まったく薄情なヤツだ。といっても、そりゃそうか。
さて、何にしようかな。
「あれぇ。牧く〜ん。やっほ〜」
「ん?お、寿さん」
「お買い物?」
「うん。ちょっとね」
寿美幸。俺の友達で名前とは裏腹にものすごく不幸な子だ。
「ご一緒していい?」
「ん〜。そうだね、アドバイスも欲しいし」
2人でショッピングセンターを歩く。
と言っても、寿さんがなにか見つけるたびに止まるから全然、先に進めない。
「あれ〜?」
「どうした?」
寿さんが、急に立ち止まって商店街の裏通りの方を見ている。
「ううん〜。見たことのある子がいただけ〜」
「そっか。今日はどうもありがとう。おかげでいいものが買えたよ」
なんとか、メイちゃんが気に入ってくれそうな物を選ぶことが出来た。
でも、本当に気に入ってくれるかな。
考えてもしょうがないか。明日を待とう。
「それじゃあ〜ね〜」
「うん。また来週に学校でね」
やばい緊張する。
咲之進さんに連絡をとって、メイちゃんが暮らしてる伊集院の別宅の場所を教えてもらったんだけど・・・でかい。
別宅でこのでかさか。
「本宅はどんだけでかいのかな」
あれ、ここ・・・伊集院大橋の近く。
昔の記憶がフラッシュバックする。
「そういえば、あの子と遊んだ場所、この近くだな」
去年まで、ほとんど毎日のように見ていたあの夢を、今は見なくなった。
なんでだろう。まだ、覚えてはいる。忘れてはいないのに。
「ま、今はメイちゃんだな」
意を決して、呼び鈴を押す。
『どなたですか?』
「あ、伊集院さんと同じ学校のの牧和輝と申すものですが」
『少々。お待ちください』
数分して、目の前の門が開く。
開いた先には咲之進さんが、立っていた。
「お待ちしておりました、和輝さま」
礼儀正しく俺にお辞儀をする。
「本日は誰もお通しするなとメイ様に言われております」
「え?そうなんですか」
「しかし、和輝さまでしたら、よろしいかと私の一存で通させていただきます」
おいおい、いいのか。
咲之進さんは、伊集院に雇われてるのだから、そんなことして怒られたら首が飛ぶんじゃ。
「それに、和輝さま。どうかメイ様をよろしくお願いします」
どういうことだろう?まぁ、謝りにきたんだけど。よろしくって?
俺は咲之進さんの後ろをついて歩いていく。
すさまじい調度品の数々だ。さっき乗ったエレベータも高級ホテル並みに綺麗だったな。
まるでテレビの豪邸訪問の世界。ってか、豪邸には違いないか。
「メイ様」
咲之進さんが、ドアをノックする。
『どうしたのだ?』
中からメイちゃんの声が聞こえる。
ここがメイちゃんの部屋らしい。
「和輝さまがこられました」
『今日は誰も通すなと言ってあったはずなのだ』
「しかし」
『ダメなものはダメなのだ!!』
「メイ様。失礼します」
咲之進さんは、ポケットから鍵を出し、鍵穴にはめ込む。
カチリと音がなり、鍵が開いた。
『なにをするのだ!咲之進』
ドアノブに手をかけ、ゆっくりと開く。
「叱責は後ほど受けます。今日は和輝さまとお話をしてください」
俺は咲之進さんに促され、部屋の中へ入る。
完全に入ると、ドアが閉まり、外から鍵をかけられてしまった。
「何しに来たのだ」
メイちゃんがいる。
まぁ、あたりまえのことなのだが。
「えっと、誕生日のお祝いに」
メイちゃんは立ったままこっちを睨んでいる。
いつもの私服ではなく、ドレス姿だ。
「今日はこれから、パーティに出るのだ。お祝いなどこれから聞き飽きるほど聞くからいらないのだ」
「あと、メイちゃんに謝りたくて」
メイちゃんの顔が一瞬暗くなる。が、すぐにまた俺のことを睨む。
「別に、貴様に謝られるようなことは何もないのだ」
また呼び方が貴様に戻っている。それもかなり刺があるな。
完璧に嫌われちゃったかな。
「これ、プレゼント」
俺は持ってきた包みをメイちゃんの前に差し出す。
少し、逡巡があったが受け取ってもらえた。
メイちゃんが包みを開ける。
「なんなのだこれは」
「え?」
俺があげたのは化粧品のセット。
口紅やアイシャドーはメイちゃんに似合いそうな色を一生懸命選んだつもりだ。
「そうか。大方、昨日一緒にいたヤツへのプレゼントと渡すものを間違ったのだな。確か寿といったか」
「ちょ、ちょっとメイちゃん?」
昨日?なんで、知ってるんだ・・・あ、そういえば寿さんが。
『見たことのある子がいただけ〜』
あれってメイちゃんのことだったのか?だとしたら。
「これはちゃんとあの女に渡して来い」
俺の前に化粧品セットの箱を投げつける。
「違う。これはメイちゃんに」
「咲之進、咲之進。こいつをつまみ出せ」
メイちゃんはドアの向こうにいるであろう、咲之進さんに向かって声を発する。
「貴様は帰れ。帰って誰とでも仲良くしているのだ」
「違う!!」
俺は、たまらず大声をだしてしまう。
さすがのメイちゃんも動きが止め、俺の方をみる。
「違うよ・・・これはメイちゃんのために買ってきたんだ」
俺は化粧品セットから口紅を取り出す。
その色は、ピンクを少し薄くしたような、控えめな色。
「メイちゃんに似合いそうな色を探して」
俺は口紅に視線を落とした。
さっきのショックで、先が少し欠けてしまっている。
「ごめんな。修学旅行の時から、俺、メイちゃんの気持ちも考えないで」
「あ・・・」
俺はメイちゃんの顔を見ることが出来ないでいた。
何を言っていいのかわからない。それが正直な気持ちだ。
けど、メイちゃんが拒否する以上・・・ここにいても彼女の気を悪くするだけだろう。
「ごめん、帰るな。これは置いていくよ。使いたくなかったら、捨ててもいいから」
俺はメイちゃんを見ないように背を向ける。
「待つのだ」
え?
「貴様の言葉は・・・どうして、こんなにも・・・心に響くのだ」
後ろでメイちゃんが動いている気配だけがする。
「絶対に・・・もう、許さないって・・・決めてたのに」
「ごめん」
振り向く。
メイちゃんの顔が見たい。このまま帰りたくない。
「あ・・・」
メイちゃんの唇には薄く、口紅が塗られている。
俺がプレゼントした口紅が。
「まったく・・・この色は、このドレスには合わないのだ」
メイちゃんの目に大粒の涙が溜まる。
そして、それが流れ落ちる。
けど、その口元は、微笑んでいた。
「ごめん」
「さっきからそればかりなのだ」
メイちゃんが俺の目の前までゆっくりと歩いてくる。
「和輝は、メイの心を動かすのだ。お父様よりもお母様よりもお兄様よりも。和輝が一番」
そう言って、目をつぶる。
俺は、自然とメイちゃんの肩を掴み、ゆっくりと顔を近づける。
その唇は、甘く・・・いい香りがした。
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