「そういうわけで、よろしく。部長」
あの男は、悪びれた様子もなく言ってきた。
一度、退部または自主退部した生徒を同部活で再度受け入れる場合、部長の権限によりその申し出を拒否することが出来る。
その規則を聞いたときメイは勝ったと思った。だから新しい部を作って部長になった。
けど、今回のような1ヶ月猶予後の強制入部から3ヶ月間は拒否は出来ないという規則が存在していたとは。
まぁ、いいのだ。機会を見てまた追い出すのだ。
「なぁなぁ、和輝。なんか作るのか?」
「私ね、前に話してたゲームのデザイン画、作ってあるんだけど。和輝くん見てくれる?」
みんな二言目には、和輝、和輝って。
一年は私に従うのに二年や三年はダメだ。どうして私のよさがわからないのだろう。
そもそも、メイの方が牧よりも有能なのは誰の目にも明らかなのに。
「作成するゲームはメイが考えるのだ。勝手に作られてはこまるのだ」
そう言うと、あたりは静まり返る。
この部で一番えらいのはメイなのだ。それをちゃんとわからせてやるのだ!
「一学期は今作っているのを完成させるのだ。夏休みは文科系合同の合宿に参加して、文化祭に備えるのだ」
パソコンのスイッチを入れる。
ちなみに、今作ってるのは単純なパズルゲーム。
みんな複雑なのは無理だと言うからとりあえず基礎を覚えさせるために簡単にしたのだ。
「そこは何をしているのだ?」
あの男を中心とした、2・3年生の集まりが出来ていた。
「2・3年はゲームしてろって言ったんだろ?だから自分たちで作って遊ぶことにしたんだよ」
「な、何を」
「勝手にするなって言いたいなら指示をくれよ。部長さん」
あの男が、私の前にくる。相変わらずむかつく態度だ。
人を見下したような態度を取る。
なんで、みんなこんなヤツを頼るのか全然、わからない。
「だったら、このプログラム組むのだ」
机の上から適当に紙を渡す。
よくみると、没案にしたゲームの企画書だ。
まぁいいのだ。どいせろくなモノも作れないヤツラにやらせるなら十分なのだ。
「企画書だけしか渡されないってことは、その後の設計からなにから全部やっていいってことだな」
ヤツは、不気味に笑うと、また集まりの中に戻っていく。
「ついでに、この部活にある機材、色々使わせてもらうからな」
1年もそれが気になるのか、ずっとそっちを見たままだ。
「勝手にするのだ!」
『先輩。ここなんですけど』
『ありがとうございます。先輩って教え方、上手ですよね』
どいつもこいつも先輩先輩。
あの牧和輝が戻ってきて一ヵ月半。この部でのヤツの株は急成長だ。
元コンピュータ部部員のの2・3年はもとより、1年も頼り切っている。
その上、辞めていった部員が、何人も戻ってきた。
何とかして辞めさせる機会をうかがっているのだが、どうにもうまくいかない。
「部長。これ、β版出来たんでテスト頼みますよ」
ヤツが戻ってきた時に渡したゲームの企画書。
あれをたった1ヶ月半という短期間で形にしたというのだ。
面白くなければ、即つき返してやろう。
パソコンにCDを挿入する。パソコン上のCDのマークが剣のマークに変わった。
そのマークをダブルクリックしゲームを起動する。
「!?」
オープニングから驚愕する。
オープニングに使われている映像は3Dグラフィックスの動画。
最近のゲームではもちろん珍しいことではないが、それはあくまでちゃんとした会社で作成されたゲームだ。
3Dで描かれた美麗なキャラクターたちが画面狭しと戦いを繰り広げる。
いや、それだけではなく、バックに流れる音楽も高校の部活動の作品という域を越えている。
「綾平先輩のグラフィックは綺麗で丁寧だろ?音楽も1年の雪峰が頑張ってくれてな」
綾平のグラフィックの技術は私も認める。
雪峰って確か全然プログラミングの技術が向上しないでほおっておいたヤツだ。
最近、牧と話をしていると思ったら、そう言うことか。
「雪峰、最近デジタルサウンドにはまってるらしくてな。素人の域を越えた作曲すんだよ」
「そうなのか。知らなかったのだ」
出来るだけ平静を保つ。
肝心の雪峰は、他の1年に混じりこっちを恐る恐る見ている。
「そらそうだろ。どうせ、アイツの入部届けの情報欄も見てないんだろ?ちゃんと書いてあったぜ」
入部届けなんてほとんど見ていない。
どうせ、私から見れば下々ヤツらなど。みな同じレベルでしかないのだから。
「ではこのグラフィックはなんなのだ。モーションキャプチャーでもしなければここまで綺麗には」
「したに決まってるだろ」
モーションキャプチャーとは、実際の人間の動きをコンピュータで取り込み、それに3Dのキャラクターを当てはめる作画技法。
たしかに、私が電脳部を立ち上げた際にそういった機器も一式揃えてはいるのだが。
「俺のコネで運動系の部活と演劇部にちょっと協力をしてもらったんだ」
そうだ、こいつはそう言うヤツなのだ。
周りの話だと、こいつはこの学校のどこへでも顔が利くらしい。すさまじい人脈だ。
「ふん。テストは持って帰ってするのだ。今日はもう解散していいのだ」
β版のディスクを取り出し、カバンに入れる。
そのままの勢いで、部室を出て玄関で靴を履き替える。
「お帰りですか。メイ様」
「うむ、帰るのだ。明日と明後日の予定はキャンセルなのだ」
渡されたゲームは面白かった。
ゲーム自体はシステムの単純なシミュレーションRPG。
しかし、ゲームを開始してグラフィックと音楽にまず感動する。
その他にも随所に様々なイベントがもりこまれ、たった1ヶ月で素人が作ったとは思えなかった。
だが、そこまで完成されているゆえ悪い点もはっきりと見つかる。
「このイベントはいらないのだ」
仲間次々に石になっていくシーンにペケ印を書き入れる。
「ん〜、ここのイベントはこうで、敵をもっと王女の周りに配置するのだ」
戦闘シーンの敵の位置を変更する。
その他にも、こと細かに指摘の点をメモに取っていく。
ゲーム性や音楽。グラフィックは満足点なのに、肝心のストーリーとイベントの見せ方に不満が残る。
「まぁ、これであいつも大きい顔ができなくなるのだ。月曜が楽しみなのだ」
ここまで来たらエンディングもみてやろう。
月曜日。目の下にクマが出来ていた。
不覚にも昨夜までにクリアができず、結局エンディングは朝日と同時に迎えてしまった。
「どうだった?どうやら最後までやったみたいだけど」
牧がやってくる。
そのしたり顔を今すぐ崩してやる。
「これを見るのだ」
私はヤツにメモを押し付けた。
そこには50以上の指摘のポイントを記してある。
さぁ、自分のレベルの低さを嘆くがいい。
「ん。へぇ、さすが伊集院。なるほど、ここはこうした方が盛り上がるのか」
「へ?な、納得するのか?」
ヤツは関心したように何度もうなずく。
「自分の作ったものが指摘されてるのだぞ?なんでそんなに笑顔で入れるのだ?」
「あん?だって俺はプログラマーだぞ。それにもともとこういうイベントとか考えるの苦手だし。ほむらにもよく指摘されてたっけな」
なんだと?よくはわからないが、これは私の勝ちなのか?
なにか納得がいかない。
私ならこんな指摘されたら、そのゲームは駄作として破棄してしまうが。
「サンキュ。完成品はこの注意点を踏まえていいゲームにするよ」
牧が自分の席へ戻ろうとする。
「ちょ、ちょっと待つのだ」
「なんだ?」
「よくわからないのだ。悔しくないのか?」
ヤツはよくわからないと言った顔をして私の方を見ている。
よくわからないのは私のほうなのに。
「ゲームデザイナーとしての能力は俺よりも伊集院の方が上だろ。ならその話はちゃんと聞くさ」
「ゲームデザイナー?」
「絵を描けるヤツもいるし、音楽が出来るやつもいる。けど、全体のイベントを考えるデザイナーがいなかったから。まぁ、この指摘は仕方ないかなって」
仕方ないだと?どういうことだ?
ますます頭の中が混乱してくる。
「ひょっとして伊集院は全部自分でやろうとしてるのか?」
ヤツがあきれたような顔になる。
やれやれと言った雰囲気だ。
「あのな。コンピュータゲームって様々な分野のヤツが一丸となって作るものなんだよ。一人じゃ限界があるだろうが」
「けど、メイは一人で出来るのだ」
「あの企画書。没案だろ。右上に没の印がついてたし。なんで、没なんだ?いいゲームできるじゃないか」
「それは、時間が足りなかったのだ。プログラムは複雑になるし、音楽やグラフィックを作成する暇が・・・」
そこで私の言葉が詰まる。
「だろ?けど、俺はここまで作った。自慢じゃないが俺の設計とプログラミングの速さはそこいらの成り立てプロ以上だぜ」
「しかし、他のヤツの力が」
「だから言ってるじゃないか。一人じゃ無理なんだよ。だから俺はみんなに手伝ってもらって物にした。最後に伊集院の力も借りてね」
言いたいことはわかった。
けど、納得はしたくない。納得してしまったら、私の今までが崩れてしまう。
「牧・・・」
「なんだ、まだ何かあるのか?」
「メイは・・・間違っていたのか?」
私は部室を出た。
私が1年と共に作ったパズルゲーム。いろいろ仕掛けを考えたが、みんなのレベルが低くてやめた。
グラフィックも音楽も、単調でつまらない。
これが。違いなのだろうか。