俺の毎日の楽しみは、コンピュータ部でのプログラミング。
 元々コンピュータ研究会と言う名前で、パソコンを使ってゲームをするだけの同好会だった。
 人数はそこそこにいたのだが、教師の方もゲームで遊ぶだけの場所を部に昇格はできないと今まで同好会で続いていたのだ。
 が、俺はゲームの作成がしたかのだから、どうしても機材が必要になる。そのためには部費が必要で、部に昇格させる必要があった。
 なので、現在のパソコンの普及率やこれからの将来に役立つからと、教師を説得しなんとか部に昇格させてもらった。
 月に1回、パソコンの苦手な教師にパソコンの基礎教室を開くことが条件ではあったが。
「さて、今日はボス系の敵の調整だな」
 コンピュータ部の部室のドアをあける。
「あ、部長。こんにちわっす」
「おう。はや・・・?」
 部室にはすでに数人に部員と、作業着を着た数人の男でごったがえしていた。
 狭い部屋ではないが、大人の男が6人ほど動き回ってればさすがに狭く感じる。その上、見たことのないパソコンやそれに付属する機材が所狭しと並んでいる。
「なんですこれ?」
 入り口近くの副部長に聞く。副部長って言っても俺よりも先輩の3年なのだが。
「伊集院さんの差し入れらしいですよ」
「伊集院?」
 まさかここでその名前を聞くとは。朝の一件以来、完全に忘れていたのだが。
 嫌な予感とともに頭が痛くなってくる。
「なんでも、この部に伊集院さんがはいるとか」
「それは違うのだ!」
 部室のドアが勢いよく開かれると、そこには伊集院が腕を組み立っていた。
 誰が、ドアを開けたんだ?
「ここはメイの電脳部なのだ。コンピュータ部を吸収して新しい部を作ったのだ」
 俺は再度頭が痛くなる。
 なんなんだ、この理不尽娘は。
「そうなんですか部長?」
「こいつがそう言うんだからそうなんだろ」
 どうせ、学校の方で寄付金をもらってるんだ。抗議に行ったところで俺に勝ち目は無いだろう。
「もちろんメイが新しい部長なのだ。貴様は副部長兼雑務兼キーボード掃除係にでもなっているといいのだ」
 思いっきり見下してきた。
 いや、俺の方が背が高いから、見上げているのだが、言葉遣いやその態度がすでに俺のことを格下と位置付けている。
 俺の頭痛は限界を超えていた。
「好きにしろ、あと俺は辞めるから、副部長なら先輩にまかせますよ」
 俺はカバンを持ち廊下にでる。
「あ、部長?」
「部長はそっち、俺は部外者。じゃあな」
 さすがに付き合ってられん。これ以上、こんな馬鹿話に付き合ってたら頭が割れてしまう。
 いつの間にやらドアの、コンピュータ部のステッカーも、電脳部に書換えられている。
 とりあえず、帰ろう。部室の中で伊集院の笑い声が響いているが、無視だ無視。


「よ、なにたそがれてるんだ」
 俺が屋上で弁当を食っていると、隣のクラスの赤井ほむらが声をかけてきた。
「別に。新しいゲームの構想を練ってたんだよ」
「お、マジか。お前のゲーム面白いからな。今度はもうちょっと難易度あげてくれよ」
「考えとく」
 ほむらは俺のゲームのテストプレーをやってくれている。
 指摘も的確だし、俺が思いつかないようなアイディアも出してくれる。自他共に認めるゲーマーだ。
 こんなんが生徒会長をやってるんだから、生徒も自由になるさ。
「そういやコンピュータ部やめたんだってな?」
「電脳部」
「あぁ、一部のセンコー、完全に伊集院の言いなりだからな。あたしも色々言ってるんだけどな」
「サンキュ。でも気にするな」
 俺はほむらの頭をポンと軽く叩く。俺は光を除けば、女子の中ではこいつとが一番、仲がいい。
 まぁ、さばさばした正確で、たまに男子にも見えるのだが。
「絶対にコンピュータ部を取り戻してやるからな」
「ん。期待しないで待ってる」
「だぁぁ!!絶対の絶対だ!!ようし、反伊集院派の生徒や先生をまずは味方につけないとな」
 そう言うと、ほむらが屋上から校舎に入っていく。
 元気なヤツだ。しかし、その性格のせいか、生徒や先生の人望も厚いし、あいつなら生徒会長当選間違いはないだろう。
「ねぇ、今の赤井さん?」
 今度は光がやってくる。今日はずいぶんと人が来るなぁ。
 ここは俺の憩いの場なんだけどな
「あぁ、伊集院を倒すために仲間を集めにいったぞ」
「伊集院さんを?」
 光の顔に、疑問符が浮かぶ。
 こいつはあんまり伊集院に関わってないせいか、よくわかっていないらしい。
 ま、大抵の生徒はそうだろうな。
「んで、どうした?」
「あのね。今日の放課後、暇?」
 光が俺の隣に座る。光のシャンプーの香りが風下の俺の鼻をくすぐる。
 ん。この匂いは、好きだな。
「あぁ、暇だけど」
「よかった。じゃあじゃあ、駅前に新しく出来た喫茶店があるから行ってみない?」
「いいぞ。ちょうど新しいゲームの構想も煮詰まってたし、気分転換がてら行ってみるか」
 光の顔が輝く。こういう時の光の顔は本当に可愛い。
「よかった。じゃあ、ホームルーム終わったら、帰らないで待っててね」
「待つもなにも、同じクラスだろ」
「だって、最近、ホームルームの後、すぐ帰っちゃうし」
 あの一件のあと、俺はほぼ毎日、すぐに帰って自宅のパソコンの前に張り付いていた。
 おかげでゲームは完成したが、部のみんながいないといまいち達成感が少ない。
「わぁったって。そろそろ教室に戻ろうぜ」
「うん」

 コーヒーを一口。うん、うまい。
「ふぅん。じゃあ、和輝くんが部活辞めたのって、伊集院さんのせいなんだ」
「せいってわけじゃないけど、まぁ、原因の大半はしめてるな」
 光が食べているケーキ。なかなか美味しそうだな。
「んぐんぐ。けど、そっか。伊集院さんって本当にお嬢様なんだね」
「そうだな。絵に描いたようなお嬢様だな。あのワガママさは」
 コーヒーだけではやはり口が寂しい。俺もケーキ頼もうかな。
「ん?んふふ。はい、あ〜ん」
 光が俺の考えを読んだのか、ケーキをひとかけら俺に差し出す。
「え。あ、サンキュ」
 俺がフォークを取ろうとしたら、手をはたかれた。
「あ〜ん」
 それはさすがに恥ずかしいのだが。
 光は一度こうと決めると、絶対にとまらないからな。ある意味、筋金入りの頑固娘だ。
「んじゃ・・・あ〜ん」
 ケーキが俺の口の中に入る。甘いクリームが口内に広がり、フルーツの香りが鼻腔を刺激する。
「美味しい?」
「あぁ。おいし!?」
 窓の外に見知った顔が二つ。こちらをのぞいている。
「げげ、匠に純」
 いわずもがなしれた俺の悪友、坂城匠と穂刈純一郎。
 純は剣道部の副主将。成績はあまりよくないが、スポーツ万能な男だ。
 2人は、ニヤニヤとしながら、歩いていってしまった。
「見られたかな?」
「ばっちりと、見られただろうな」
 はぁ、明日、学校で絶対に冷やかされるな。
「ごめんね」
「あ、いいよ。別に。あいつらに冷やかされるのは今に始まったことじゃないし」
 が、言葉とは裏腹にかなり、厳しい状況ではあるかな。

 くそ。どうしてここにいるんだよ。


 匠と純の執拗な冷やかし攻撃を避けるためやってきたのはやはり屋上。
 とはいえ、ばれるのも時間の問題だろう。
「にしても、昼休みだけじゃなくて放課後にまで来るハメなるとは。あぁ、匠のやつ校門の前にいるよ」
 そこまでして俺をからいかいのだろうか。
 あいつの考えはよくわからん。
 と、急に校舎のドアが勢いよく開かれる。純か?
「部長。はぁはぁ。やっぱりここにいましたか」
 ん?コンピュータ部、もとい電脳部の副部長の先輩だ。
「どうしたんですかそんなに息をきらして?それに俺はもう部長じゃないですよ」
「はぁはぁ。伊集院さんなんですけど。ちょっと困ったことに」


「どうしてこんなにバグだらけなのだ!」
「そんなこと言ったって、こんなの渡されたって出来るわけないだろ!」
 廊下にまで伊集院の声が響いてくる。もう一人は、同学年の真柴の声かな?

 バグとは間違ったプログラムでコンピュータが動作しなかったり不正な処理をすることを言う。
「普通はフローチャート渡せばできるものなのだ。それに、こっちは全く出来てないのだ」
「私はプログラムなんてやったこと無いもん」
 今度は綾平先輩の声だ。
「と言う感じなんだよ」
 予想通りというか、なんというか。
 やはり伊集院のヤツ、周りのやつのレベルも何も考えないで作業を押し付けたな。
 真柴は多少プログラムを教えたが、まだまだ初心者だし、綾平先輩に関してはグラフィック担当だ。
「無茶ばかり言うな」
 俺が我慢できずに、部室に入っていく。
「あ、和輝」
 真柴の机に置いてある紙を手にとる。
 一般的なフローチャートだが、ずいぶんと大雑把だ。
 ここからプログラムを書くには、先に設計という工程を通るのだが・・・普通は無理だろうが。
「何し来たのだ。部外者は出て行くのだ」
「真柴はまだ初心者だし、綾平先輩はグラフィック専門。この2週間なにやってたんだ?」
「う、うるさいのだ。メイについてこれないこいつらが悪いのだ」
 あたたた。
 俺、このまま慢性頭痛で入院するんじゃないだろうか。
 ったく、このワンマン振りにもあきれたが、こいつの言ってることはおかしすぎる。
「なぁ、和輝。コンピュータ部復活させてお前が部長に戻ってくれよ」
「そうよ。和輝くんが部長だった時の方が面白かったよ」
 他の部員も、言葉は発さないが首を縦に振る。
 数人減ったな。まぁ、こんな部なら辞めたくなるもわかるが。
「辞めたければ辞めればいいのだ。でも、メイは電脳部をつぶすつもりは無いのだ」
 このひびきの高校には、同一種の部活は一つまでという規則がある。つまり、電脳部があるかぎりコンピュータ部を再度つくることはできない。
 それに、生徒は必ず部活または生徒会にはいることも義務づけられている。
 途中で部活を止めたヤツの猶予は1ヶ月。それ以上たってしまうと、強制的にどこかの部活に所属させられる。
 まぁ、俺は実は体育会系のいくつかの部活から誘いをかけられてるからいざとなればそこに行くが、この部活に来ているヤツの多くはそうはいかないだろう。
「別にメイ一人で物は作るのだ。お前たちは適当にゲームでもしていればよいのだ」
 そう言うと、伊集院は廊下にでて、近くの階段を上がっていく。
「せっかく和輝くんが部にしてくれて、楽しかったのに」
「そうだ。俺だって、去年の方が面白かった」
 周りのヤツも同じようにざわめく。
「すまん、みんな。今のところ戻る気はないというか、今はさすがに戻れん。もう少し頑張ってくれないか」
 それだけ言うと、俺も廊下にでる。
 ふぅ。少し考えたが、俺も階段を上り屋上へのドアを開ける。
「メイは悪くないのだ。グラフィック担当なんて一言も言ってないし。なんにも教えていかないアイツが悪いのだ」
「アイツって俺のことか?」
 グランドの方を向きぶつくさ言っていた伊集院に不意の一言。
「何をしている!!」
 伊集院が顔を隠し、目を指でぬぐう。
 あれ、ひょっとして泣いてたか?
「なんも。ここは俺の安らぎの場所だもの。こっちこそ何をしているだ」
 まぁ、伊集院が上に行ったのが見えたからもしやと思ってきてみたのだが。
 安らぎの場所と言うのもウソではないし。最近はそうでもなくなってきたかもしれないが。
「ふん。かってに安らげばよいのだ。メイはもう行く」
 伊集院が校舎の中に入っていく。
 可愛げが無い上に、相談にのろうと思った俺が馬鹿だった。


 入学式から一ヶ月。別の意味では俺の自主退部から一ヶ月ということでもある。
「本当にいいんだな?退部経験者は今度は自分の意志では辞めれないんだぞ?」
 その規則は初耳だ。
「はい」
 俺は担任の先生に、職員室に呼び出された。まぁ、部活を決めろということなのだが。
 どの部活にするかそれはもう決めてあった。ただ、問題があったのだが、それもこれで解決する。
「わかった。学年主任と教頭には伝えておく。それじゃあ、顔を出しでもしてこい」
 職員室を出て、階段を下りる。
 部室棟の一室の前に立ち、一回深呼吸。勢いよくドアを開ける。
「今日から、またこちらの部活に入ることになった牧和輝です。よろしく」
 部員全員がこっちを見つめる。また少し減ったな。
 電脳部。元コンピュータ部部長の俺がここに戻ってくることになるとは。お人よしと言うか、なんと言うか
 さすがに、俺を頼ってきてくれたヤツラに悪いしな。
 俺が間に入って、伊集院との緩衝材になるしかないか・・・
 しばらくは頭痛との格闘だな。
「おぉ、和輝。戻ってきてくれたのか待ってたぜ」
「和輝くん。いや、部長。おかえりなさい」
 同級生や上級生が俺を迎え入れてくれる。さすがに下級生は戸惑っているが。
「俺は新部員だからね、部長はあいつに任せるさ。って、その部長は?」
「さぁ、まだ来てないよ」
「ふぅん。で、今は何を作ってるんだ?シューティング系か?」
 俺が近くのパソコンに触れ、それらしいフォルダを探す。
「いや、俺たちは今はゲームしてるだけ。まぁ、1年の何人かは伊集院に従ってプログラムしてるみたいだけど」
 真柴は自分のパソコンのゲームを指差す。
 モニタには市販のパズルゲームが写っているのが見える。
「あのバカは」
「あのバカとはメイのことか?」
 背中から声が聞こえた。さすがに不意を突かれたせいで驚いてしまう。
 振り向くと、部長の伊集院メイがそこに立っていた。
「この前の仕返しなのだ」
 不機嫌そうに、パソコンが3つ載っている机の椅子に座る。
「今、先生に聞いて来たのだが、どうして戻ってきたのだ」
 なるほど、俺のことで部長が呼ばれていたらしい。
 言う手間が省けてよかったよかった。
「そんなの簡単。ここの部員のためだ。と、言っても普通に入部としても部長の権限で却下されるだろ。だから、1ヶ月待ったんだよ」
 伊集院の顔が歪む。
「そういうわけで、よろしく。部長」
 
 

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