『また今度、ここで会おうね』
指切りをする少女。
その少女が徐々に遠くに行ってしまう。いや、俺が自ら離れてしまっているのかもしれない。
「ういっす。和輝」
「おぉ、匠。オハヨ。ふわぁぁ」
俺は大あくびとともに、目をこする。
「お前目が真っ赤だぞ。また徹夜か?」
今、俺に声をかけてきたのは、坂城匠。
高校に入ってからの友人だが、なかなかの腐れ縁で、2年目も同じクラスになってしまった。
高校とは、ひびきの市のひびきの高校。通称ひび高。
実はこの高校には伝説があって、卒業式に告白をして、中庭の鐘が鳴ればそのカップルは永遠に幸せになれる。って内容だ。
まぁ、鐘は壊れてて今は鳴らないんだけど。
「1時間寝た」
「いいかげん、身体壊すぞ?」
こうやって気遣ってはくれるが、何かあったら平気で裏切りそうなヤツではある。
ちなみに俺の徹夜の原因はゲームのプログラム。
ゲーム好きがこうじて今じゃコンピュータ研究会を部に昇格させ、自分でゲームを作っている。
「にしても、今日はなんか学生が多くないか?」
「何言ってんだ。今日は新入生の入学式だろうが」
「あ〜。そういやぁ、そんなことを担任が言ってたな。ってことは、今日からデータ取りか?」
「春休み中にほとんど終わったよ。残ってるのは数人だけかな」
匠の趣味に女子のデータの取得がある。
どこから調べてくるのか、趣味や好きな食べ物、住所や電話番号、果てには3サイズまでそろえてくる。犯罪者一歩手前って感じだ。
いや、十分に犯罪者かな?
「あのさ、データ。後で見せてくれないか?」
「いいけど。あ、お前、まだあきらめてなかったのか。夢の姫」
「いいじゃねぇかよ」
「まったく、名前もわからないんじゃ調べようもないし。それにお前には陽ノ下さんがいるだろ」
「光はただの幼馴染みだって言ってるだろ」
陽ノ下光は俺の幼馴染み。頭もよくて運動神経もいい。そのうえ明るく人なつっこい。
俺なんかにはもったいない幼馴染みだ。
俺がこの街に戻ってきてあいつがあんな可愛くなっててかなり驚いた。
そして、夢の姫って言うのは、俺が小学校のころにこの街でであった少女。
川辺で一度だけ遊んだ子。また会おうねって約束したのに。俺は急な引越しでその後に会うことが出来なかった。
引っ越してから、ほぼ毎日のように夢を見る。
「いくらなんでもなぁ。無理だと」
匠の言葉が轟音によってさえぎられる。
俺たちのすぐ上空をヘリコプターが通過していったのだ。お、前の女の子のパンツ見えた。
ヘリコプターは、俺たちの通う学校。ひびきの高校のグランドに降りたように見える。
「おい、見たか」
「あぁ。すごいな、ヘリコプターで登校とは」
「さすが伊集院だよな」
「伊集院?」
「今のヘリだよ。伊集院の家紋がついてただろ。伊集院の本家の娘が来るって話、本当だったんだ」
伊集院家と言えば、現在、世界トップクラスの財力と発言力を持った家だ。
政治、経済、科学、世界中のありとあらゆる分野で伊集院家の人間が活躍している。
「なんだって、こんな学校に?」
「知るか。けど、隣のきらめき市のきら高にも伊集院家の息子だか娘だかが通ってるらしいからな。ま、社会勉強の一貫とかだろ」
「ふぅん。よくわかんねぇな」
「まぁ、なんでもいいじゃねぇか。俺たちも見に行こうぜ」
匠が急に走り出したので俺もそれについていく。
と言っても、寝不足状態の俺にこの坂を駆け上るのはかなりきついぞ。
誰だよ、ひび高をこんな場所に立てたのは。
グランドは凄い音と風、それに人だかりで埋まっていた。
「この人だかりじゃ無理だって。教室行こうぜ」
「ちょっと待ってろ」
匠が人だかりの外側の生徒と何か会話をはじめた。
ヘリコプターの音で全く聞こえない。
急にその会話していた生徒やその周りの生徒が俺の方を見始めた。
「な、なんだ?」
そして、人垣の一部がまっすぐとヘリに向かって開かれる。まるでモーゼの十戒にでてくる海だ。
「おい!何してんだ。前に行くぞ!!」
匠が俺を呼ぶ。
「なにしたんだ一体?」
「ちょっとね」
俺が匠と、その分かれた人垣の間を歩いていくと、周りの生徒からヒソヒソ声が聞こえてくる。
『あれが和輝かよ。普通のヤツじゃねぇか』
『けど、凄いんだろ?だって総番長を』
『キャー。和輝様。こっち向いてくれないかしら』
なんとなく理由はわかったが、後で匠を締めて吐かせないとな。
俺たちの目の前でヘリコプターのジャイロの回転が徐々に止まっていく。
ちょうど、目の前にヘリコプターの扉がある。運がいいのか悪いのか。
「お、開くぞ」
扉が開き中から、真っ赤な絨毯がコロコロところがり一本の道を作る。
ちょうど俺たちが歩いてきた道の部分だ。
「こんなの生で初めて見た。な、和輝」
その後、屈強なサングラスの2人の男を先頭に、1人の銀髪タキシードとともに1人の少女が降りてくる。
ショートカットにまとめた髪。
整った顔立ち。
容姿は今一歩だが、これからの発展に期待といったところか。
さすが伊集院家のご令嬢だ。
少女はまだ幼い顔つきではあるが、覇気に満ちた顔をしていた。
オーラのようなものがそこいらの生徒とは違う。
「ふん。なんなのだ、この下々の連中は。おい、そこの貴様」
少女が俺を指差す。
ん〜、言葉はあまりいいとは言えないな。
「貴様にメイのカバンを持たせてやろう。カバンを持ってメイを校長室に案内するのだ」
「は?」
俺はいきなりの展開に全くついていけなかった。
カバンを持て?校長室に連れて行け?
「却下」
俺は唐突の内容を、一蹴した。あたりまえだ、誰が初対面のしかも後輩の理不尽な言うことをいかなきゃならんのだ。
「校長室の場所くらいは教えてやる。だが、自分でカバンを持って行きな、お嬢ちゃん」
「な、な、なんだと!メイのカバンを持つなんてとても名誉なことなのだぞ」
「後輩のカバンをヘコヘコ持つことが名誉だなんて思えないね」
そう言って俺は、伊集院に背を向ける。
多くの生徒が俺と伊集院を見比べているが、まぁ、俺には関係ないことだな。
「貴様、ヤツの名前はなんと言う!」
「え。あ、牧和輝です」
「牧和輝。メイをコケにした罰を絶対に与えてやるのだ!!」
後ろで匠が伊集院に詰め寄られ、俺の名前を答えている。やっぱ後でシメる。
ついでに、伊集院のよくわからない叫びも聞こえるが、気にしないでおこう。
本物のお嬢様と言うかお姫様というか。ま、俺は関わりたくないけど。
まぁ、1年の教室に近づかなければもう会うこともないだろ。
に、しても。
今年もいないのかな・・・あの娘。