週刊ウィンリィちゃん 第16号:ハガレン愛の劇場:前編


「そこの方、お助けくださいませ」
 誰かが駆けてきてエドの背に隠れる。
「お、おい」
「もうしわけありません。悪い方に追われているのです」
 背に隠れたのは少女だった。
「兄さん、どうする?」
「どうするもこうするも・・・あん?」
「見つけた!!」
 少女が駆けて来たのと同じ方向から、今度は黒コートの男が3人やってくる。
 黒コートにサングラス、黒帽子。
 見るからに怪しい。
「・・・ぁ」
 少女は怯えたようにエドのコートを掴んでいる。
「面倒ごとは避けたいんだけどな」
「でも、さすがにこれは回避できないよね」
「だな」
 アルは黒コートたちに向かって格闘戦の構えをとる。
「お前ら・・・その後ろの子をこっちに渡してもらおうか」
「おとなしく渡した方が身のためだぞ」
 黒コートたちがそんなことを言う。
「だってさ」
「従ったところで事態が好転するわけじゃないしな・・・やりすぎるなよ」
「了解」
 言うと同時にアルが動く。
 巨体な鎧からは予想できないようなスピードで黒コートの1人に蹴りを放つ。
「がはっ」
 アルの蹴りを受け1人吹き飛ぶ。
 積みあがっていたごみの山にぶつかる。
 起き上がってこないところを見ると一撃で気絶したようだ。
「て、てめぇ!」
「おっと、アンタの相手は俺だ」
 エドが自分の両手を合わせ、直後に地面にその掌を当てる。
 掌を当てた地面から光が発生し、その光は残った2人の男を包み込む。
「・・・あ?」
 光が収まったあと、そこには鉄の縄で身体を縛られた黒コートが転がっていた。
「ま、そのうち誰か見つけてくれるだろ。これで全員か?」
 エドが振り向いて少女に尋ねる。
 少女はブラウンの髪と瞳。長い髪を首の後ろで束ねている。
 目鼻立ちはスラッとしていて可愛らしい顔立ち。
「あ、は・・・はい」
「んじゃ、俺たちはこれで。気をつけて帰るんだぞ」
「え?兄さん・・・いいの?」
「これ以上面倒事はごめんだ」
 エドが歩き出すのを見て、アルもそのあとを追う。
「・・・見つけた・・・」
 少女はエドが歩いていった方向を見つづけた。

「ういっす」
「あ、兄さんおはよう」
 ベッドから起き上がり伸びをするエド。
「この街にも石の情報はなかったね」
「全くだ。その上、昨日は変なのに巻き込まれるし」
「あら、変なのってわたくしのことですの?」
 部屋のドアが急に開き1人の少女が入ってくる。
 昨日、エドたちが助けた少女だ。
「君・・・昨日の」
「エド様。おはようございます」
 アルの脇を抜けて少女がエドの元へとやってくる。
「お、おはよう」
 急なことにエドは少女とアルを交互に見ている。
 少女は笑顔でエドの顔を見つめる。
「あれ、俺・・・名前言ったっけ?」
「嫌ですわ、エド様のことでわたくしが知らないことなどありませんのよ」
 そう言うと、少女はエドの隣に腰掛ける。
「エドワード・エルリック様。最年少の国家錬金術師で銘は鋼。練成陣を必要としない練成で有名なのですよね」
 エドとアルが顔を見合わせる。
「出身はリゼンブール。右腕と左脚が機会鎧で作成者はピナコ・ロックベルとウィンリィ・ロックベル。弟さんの名前はアルフォンス・エルリックですわよね」
「合ってるけど・・・」
 エドの顔が怪訝な表情へと変わる。
 エドの方はこの少女のことは名前すら知らないはずだ。
「あ・・・えっと・・・君は一体誰なんだ?」
「あら、わたくしったら。自分のことをお話せずに・・・わたくしはオレンジ・ナッツ。この街の領主の娘ですわ」
 立ち上がりエドの前で礼をしてみせる。
 確かに、立ち振る舞いには気品が見られる。
「領主の娘?・・・で、ナッツさん俺に何か用か?」
「あら・・・エド様。他人行儀な呼び方はおやめください。オレンジ・・・でいいですわ」
 また、エドの隣に座って、エドを見つめる。
「エド様とわたくし、庶民と領主という身分の違いはございますが、想いはそんなものには負けませんわ」
「は?」
「エド様・・・」
 オレンジがエドを真剣に見つめる。
 その瞳は徐々に潤んできている。
「ちょ、ちょっと待て。何がなんだかわからんぞ」
「そうですわよね。いやだ・・・わたくしったらはしたない。エド様、今日はお忍びなのでもう帰らないといけません・・・また、お会いしとうございます」
 それだけを言うと、オレンジは立ち上がりスカートを軽く持ち礼をする。
 そして、エドとアルが呆気に取られている間に部屋から出て行ってしまった。
「に、兄さん?」
「なんなんだ・・・今のは」
 2人はすでに閉じられたドアの方を見つづける。
「あ・・・えっと・・・オレンジさんだっけ?ここのナッツ領主の娘さん・・・なんだよね?」
 やっとのことでアルが言葉を発する。
「みたいだな。はぁ・・・けどそれなら納得だよな」
 エドが頭をかきながら窓の外を見る。
 窓の外では子供たちが笑顔で外の広場を走り回っているのが見える。
「何が?」
「昨日のだよ。ここの領主の娘だったら狙われる可能性だってあるってことだ」
「あ、そっか」
 この街は活気にあふれ、とても平和な街だった。
 領主が良き治を行っている証拠だ。
「領主が狙われてるの知ってて見過ごすわけにわいかねぇよなぁ・・・」
「兄さん国家錬金術師だもんね。こう言うとき、軍に所属してると大変だねぇ」
「ったく、他人事みたいに」
 エドはコートに袖を通す。
「どこかいくの?」
「領主に話を聞いて来る。狙ってる相手がわかれば、こっちから打って出てやるさ」
 エドは部屋から出る。
「あ、兄さん待ってよ」

「これはこれは。国家錬金術師殿。私がこの街の領主、アムール・ナッツです」
 領主の家につくとエドたちは応接間に通された。
 そこで待つこと数十分。
 アムールという男がその部屋に入ってきた。
「はじめまして。エドワード・エルリックです」
 男は年齢は40代前半ほど。気品に満ち、上に立つ者の貫禄が見て取れる。
「それで、お話というのは」
「昨日、ナッツさんのご息女が何者かに襲われている現場に遭遇しました。この場合、あなたの命を狙うための誘拐の可能性があります。なにか思い当たる節はございますか?」
 エドがそう言うとアムールは、顔を伏せ黙る。
「狙われる。それは昔から何度もありましたよ。しかし、もう全ての組織はつぶしたと思ったのですが・・・そうですか」
「街の人に聞きました・・・貴方が良き統治を行っているおかげで街は潤いと活気を見せています。しかし、そうなれば」
「裏のものには住みにくい街ですからね・・・ここは」
 エドがうなずく。
「しかし、オレンジからはそんな話は聞いていないのだが」
「アムールさま。失礼します」
「来客中だぞ」
 アムールの側近だろうか、男が1人部屋に入ってくる。
「ん?・・・あぁぁぁぁ!!昨日の」
「てめぇ!!昨日はよくもふんじばってくれたな!」
 入ってきた男は昨日、オレンジを追いかけていたコートの男のうちの1人。
 エドが錬金術で縛った男だ。
「私の家のガードを知っているのかね?」
「こいつ・・あ、こちらの国家錬金術師殿は、昨日・・・無断で外に出られたお嬢さまを見つけ出し、保護していただいていたのです」
「なるほど。それは礼を言わねばならぬな。しかし、先ほどオレンジが狙われたということ・・・あと、何か叫んではいなかったかね?」
 男とエドの額にダラダラと冷や汗が流れる。
「まぁ、よい。それで、何か話があったのではないか?」
「あ。お嬢さまが・・・」
「また脱走か。現在は少々こみいった状況だからな・・・至急連れ戻すのだ」
 アムールがそう言うと男はきびすを返し部屋から出る。
 しかし、丁度入ってこようとした別の男と鉢合わせになる。
「あ、隊長・・・アムール様・・・ご報告が」
 今入ってきた男は頭に包帯を巻いている。
 昨日アルに蹴り飛ばされた男だ。
「どうした?」
「・・・お嬢さまが何者かに誘拐されました」



オレンジ    「エドさまぁ」
エドワード   「だぁぁ、くっつくな」
オレンジ    「わたくし、お慕いしてもうしますわ。お慕いするあまり・・・押し倒しとうございます〜」
エドワード   「するなぁぁぁ!」
アルフォンス  「うわ・・・また凄い子が出ちゃったねぇ」
ウィンリィ   「むぅ。また私が出れない!」
アルフォンス  「まぁまぁ」
次回予告
 本当に誘拐されたオレンジ。
 エドは無事、彼女を取り戻すことが出来るのか。
 そして、2人の愛の行方は。
 次回『ハガレン愛の劇場:後編』
 次回もこのチャンネルに練成してくださいまし。

オレンジ    「わたくし、エドさまを信じております」
エドワード   「あぁ・・・なんか行きたくねぇ」
アルフォンス  「さすがにそういう訳にはいかないんじゃない?」
ウィンリィ   「いいのよ。エド。帰っておいで」
アルフォンス  「ウィンリィ・・・」
オレンジ    「・・・クス・・・ヒロイン交代・・・ですわね」
ウィンリィ   「なんか言った!?」
 
 

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