週刊ウィンリィちゃん 第14号:禁断の愛2


 街は雪に覆われ真っ白。
 その街の中央にある広場。
 そこには色々な飾りで彩られた巨大なモミの木が立っている。
 辺りにはどこからか鈴の音。
 そして、そのモミの木を見上げる数多くのカップルたち。
 今日は年に一度のクリスマス。
「はい。兄さん。プレゼント」
 ここにも一組のカップルが。
 まだ幼さの残る少女と少年。
 少女は手にマフラーを持っている。どうやらそれがプレゼントのようだ。
「・・・おい」
「兄さん。これ長いから一緒に巻こうね」
 ただ気になるのは、少女が少年を兄と呼ぶことだが。
「あ、ボクは・・・兄さんとこうしていられるだけで嬉しいから」
 そう言って少女は顔を赤くしてうつむいてしまう。
 仲のよさそうないいカップルだ。
「アル・・・しまいにゃ殴るぞ」
「殴ってから言わないでよ・・・冗談なのにぃ」
 少女が小突かれた頭を撫でながら顔をあげる。
 少年の名前は言わずと知れたエドワード・エルリック。有名な鋼の錬金術師だ。
 少女の名前はアルフォンス・エルリック。エドの弟。
 なぜ、弟であるアルが少女なのかと言うと、エドのちょっとしたミスといったところだろうか。
 ま、今はそんなことを気にする必要性はまったくないのだ。
「おひ・・・気にしろよ」
 はいはい。ナレーションに突っ込まない。
「ハイ兄さん。あ〜んして。このケーキ美味しいよ」
「おい。アル。今日はいったい何の日だ?」
「へ?・・・クリスマスだけど?」
 モミの木に鈴の音。
 どこからどう見てもそれ以外の行事には見えないと思うのだが。
「クリスマスって・・・なんだ?」
「えぇぇ!?クリスマスってキリストの産まれた日で、みんなでお祝いする日じゃないか」
「キリスト?」
「そう。キリスト・・・キリスト・・・きり・・・・・・何した人だっけ?」
 まぁ、あたりまえなのだが、彼らの世界にはキリストはいない。
 キリストがいないのであれば、産まれているはずも無くクリスマスだってないはずなのだが。
「ほら、そこはご都合主義的季節ネタで」
 という、アルの言い分通りだったりする。
「納得いかねぇ」
 ほらほら、そこ。
 眉間にしわを寄せて、嫌な顔しても今日と言う日はもう来てるんだから。
 せっかくキミらにクリスマスという楽しいイベントをプレゼントしたんだから、楽しんで楽しんで。
「・・・まさか!」
「どうしたの兄さん、周りを見回して」
「ひょっとして運動会パターンじゃないのか?ホムンクルスどもが急に」
 大丈夫大丈夫。
 今回はホムンクルスは出ないから。
「ほっ」
 ウィンリィも大佐も中尉も出ないから、二人っきりで存分に楽しんでくれ。
「へ?」
「ふ、二人っきり・・・ドキドキ」
「ちょ、ちょっと待て!どういうことだ!!おい」
 はいはい。このナレーターも気にしないで楽しんでよ。
 じゃねぇ。
「に、兄さん」
「アル」
 見詰め合う二人。
 だが、お互いの心境は全くの正反対だ。
 アルの熱い心はエドの凍った心を溶かすことが出来るのか。
「・・・帰るぞ」
「へ?」
「いつまでもこんな寒いところにいてもしょうがないだろ?」
 エドはもらったマフラーに顔をうずめる。
 確かに、現在の気温はマイナス2℃。
 猫もコタツで丸くなるような気温だ。
「ぶぅ。もっとこの雰囲気を楽しみたいのに!」
「アル!帰らないのかぁ!」
 すでにエドはアルをおきざりにして歩き出している。
 アルは一つため息をつくと、エドに背を向けて逆方向に歩き出した。
「アル?・・・どこいくんだあいつ・・・ま、いいか。先に戻ってるからな!」
 エドはそう言うが、アルは見向きもせずに人ごみの中へと消えていった。
「ったく・・・うぅぅ。寒い。早く宿に戻るか」
 長いマフラーをぐるぐると顔に巻き、エドも人ごみの中へと消えた。

「兄さんのバカ兄さんのバカ兄さんのバカ兄さんのバカ兄さんの・・・・」
 先ほどからこの言葉を何度繰り返しただろうか。
 どこを見てもカップルだらけの通りを歩くアル。
「はぁ。やっぱりボクって変・・・なのかなぁ」
 窓にうつる自分の姿を見てため息をつく。
「そこの彼女。クリスマスを一人で過ごすのかい?」
 声をかけられ振り向くと、そこには数人の若い男女が立っていた。
「ひゅぅ。けっこうかわいいじゃん。なぁなぁ、暇なら俺たちと遊ばないか?」
「結構です」
「つれないこと言わないでさぁ」
 声をかけてきた男がアルの腕を掴む。
「・・・怒りますよ?」
「怒ったらどうなるのかなぁ?」
「こうなります」
 アルは、男の手を振り解くと両手を合わせる。
「気をつけてくださいね」
 それだけを言って、地面にその両手を叩きつける。
 同時に若者たちの周りに光の円が生じ、それに呼応するかのように地面の一部が隆起しはじめる。
「お、おい」
 隆起した地面は、若者たちを囲う高い塀になってしまった。
「出してよ!」
「出せ!!おい、こら!!ガキ!!」
 中に閉じ込められた若者は騒ぎ始め、塀を叩く。
 だが、塀は練成により固められているために人の力ではどうにもならない。
 先ほどアルに声をかけてきた男は塀の外で呆気にとられている。
 どうすることもできずに、アルと塀を見比べて。
「まぁ、スコップでもあれば掘れますから頑張ってください。今から頑張れば夜中までには人が出れる穴をあけれますよ」
 アルは若者たちの叫びを無視して通りを進む。
「あ、八つ当たりしちゃってごめんなさい」
 振り返ってそういうが、誰も聞いちゃいない。
 まぁ、あたりまえと言えばあたりまえだが。
「はぁ・・・これからどうしようかなぁ」
 通りをフラフラと歩いていると、大きな公園に出た。
 だが、そこも全て見回す限りカップルだらけ。
 また胸の中を黒い何かがうずきだす。
「・・・ここの雪が全部水に変わったら、みんな驚くだろうなぁ」
「アル。何を考えてるんだ」
 誰かがアルの頭に手を乗せる。
「あ。兄さん」
「ったく。さっきより寒くなってきたのに戻ってこないから探しにきたんだが」
 アルの首にあまったマフラーを巻く。
「あっ・・・」
「戻るぞ。うまい料理でも食ってな」
「うん!」
 アルがエドの手を握ると、エドは一瞬躊躇したがアルの手を握り返す。
「あ。お前、大通りで練成しただろ。ったく、元に戻すの大変だったんだぞ?」
「あ。あれは・・・あはは」
「笑ってごまかすな」
「あのチキンの照り焼き美味しそう」
「他の話題でごまかすな!!」
 アルがエドの胸に、自分の頭をうずめる。
「兄さん・・・ありがと」
「お、おう・・・メリークリスマス・・・アル」
「うん!メリークリスマス」



エドワード   「アルは弟アルは弟アルは弟アルは弟アルは弟・・・・」
アルフォンス  「ぷはぁ。この化粧っていうの、なんか顔がこわばるね」
エドワード   「アルは弟アルは弟アルは弟アルは弟アルは弟アルは弟・・・・」
ウィンリィ   「二人ともメリクリ〜」
アルフォンス  「ウィンリィ。メリクリ〜」
ウィンリィ   「エド・・・どうしたの?」
アルフォンス  「自分の中のもう一人の自分との葛藤中・・・ってとこかな」
ウィンリィ   「ふぅん。ま、どうでもいいんだけど」
アルフォンス  「だね。あ、今回の話で今年のは終わりだってね」
ウィンリィ   「うん。次回は1月1日の新年1発目ってことになるわね」
次回予告
 はぁい、ウィンリィです。
 みなさん、年の瀬をいかがおすごしでしょうかw
 恋人や家族と一緒にいる人。仕事で会社にいる人。一人で過ごす人。
 いろんな方がいると思いますけど、誰にも等しく新年はきます。
 ってわけで、また来年。皆さんにお会いできることを楽しみにしてますね。
 では。皆さんよいお年を。

アルフォンス  「って!次回予告になってないし」
ウィンリィ   「よいお年を」
アルフォンス  「もう終わり!?」
エドワード   「アルは弟アルは弟アルは弟アルは弟アルは弟アルは弟・・・・」
ウィンリィ   「まだやってるし・・・」
 
 

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