週刊ウィンリィちゃん 第13号:寡黙の鷹


「今日からキミは私の子だよ」
 彼女は馬車の中で、隣に座る男性にそう声をかけられた。
 彼女は孤児だった。
 こうやって里親の下に引き取られるのはいったい何度目だろうか。
「私は今までのお父さんたちとは違うからね」
 男は語りつづけるが少女の表情はまったく変わらない。
 単に無視しているだけなのか、関心が無いのか。それとも、全てに対して心を閉ざしているのか。
「さぁ、家についたらまずはその汚い服を脱がせて綺麗にしてあげるからね」
 男の卑しい目が少女の胸元や下半身に突き刺さる。
 男はある種の好事家だった。
 まだ年端のいかない少年や少女を引き取り、世話をさせる。
 肉体的にも精神的にも。
 もちろん、それは犯罪だ。
 だが、犯罪だからこそ需要があり、それを生業とする業者も出てくる。
「・・・さぁ。もうすぐ、新しい家だよ」
 そのとき、急に馬車が止まる。
「な、なんだ!」
 ドアが開き、黒い筒のようなものが伸びてくる。
 その先には鋭い刃もついており、それが男の喉下に突きつけられた。
「ハーベン・ローマンだな」
 黒い筒をもっているのは青い軍服に身を包んだ男。
 その後ろに何人も同じ軍服の男たちがいるのが見える。
「貴様を、婦女暴行ならびに、未成年者保護条例違反で連行する」
「ば、ばかな!軍がなぜここに」
 ハーベンと呼ばれた男は肩を落として馬車から降りる。
 その身はすぐさま、軍人たちによって取り押さえられ、軍用車に押し込められる。
「・・・私が来るまでもなかったな」
「そうですね。もう少し抵抗を予想していたのですが」
 その様子を遠目に見ている二人の男女。
 ロイ・マスタングとリザ・ホークアイ。
「マスタング大佐。馬車の中の子供はどういたしましょうか?」
「軍施設に預ける。その後、民間の孤児院に引き取ってもらう手筈になっている」
「了解いたしました」
 一緒に馬車に乗っていた少女がおろされ、一人の女性軍人に抱きかかえられる。
 こんな状態でも無表情だ。
 まだ十年ほどしか生きていない彼女は、常人には考えられないような経験をしたのだろう。
「どうした?」
「いえ、私は恵まれていた・・・そう感じただけです」
「そうか」
 少女は、男とは別の軍用車に乗せられ現場を後にする。
 その車を見送る二人。

「リザ!」
 男の叱咤の声が飛ぶ。
 男の名は、グレッグ・ホークアイ。
 軍人の家系であるホークアイ家の現当主。
「もうしわけありません」
 そして、叱咤を受け持っていた銃を構えなおすのは、その娘のリザ・ホークアイ。
 と言っても、この二人は血を分けた親子ではない。
 グレッグの妻ティリアは、幼少の頃に高熱を発する病にかかった。
 その時、体の一部が変調し子供を作ることが出来ない体になってしまっていた。
「いいか!お前はホークアイ家を担う軍人となるのだ!!それを忘れるな」
 リザは孤児院で育てられた。
 幼くして両親を無くし、身寄りの無い彼女を引き取ってくれた孤児院。
 グレッグはその孤児院に多額の寄付をしていた。
 だからこそ、彼のためというよりも、育ててくれた孤児院への恩返しのためにリザはつらい訓練に耐えた。
「・・・っ」
 銃を撃つたびに、体のあちこちが悲鳴をあげる。
 まだ成長途中の体には耐れるような訓練ではなかった。
「ダメだ!肩が下がってる!そんなんじゃ人は殺せないぞ!!」
 リザは孤児院の中で肉体的にも精神的にも同年齢の子供から群を抜いて飛びぬけていた。
 だからこそ、グレッグは彼女を引き取り、自らの後継者として彼女を育てているのだ。
「はぁ・・・はぁ・・・はい」
 もう一度、拳銃を構え直す。
「いや。もういい。今日はここまでだ。着替えたら食堂にくるように」
「はい」
 グレッグが地下射撃場から出て行く。
 リザの部屋はこの射撃場からつながっている倉庫の一室だった。
 部屋にはベッドや机など、最低限生活に必要なものはそろっている。
「・・・いっ」
 服を脱ぎ鏡の前に立つ。
 右肩が赤く腫れ上がり、その形もいびつになっている。肩がはずれているのだろう。
 今までにも何度も同じことはあった。
 自らの手で肩の骨をはめる。
「・・・っぁ」
 熱した鉄を当てられたような鋭い痛みが彼女を襲う。
 腫れの引かない肩に無理矢理、ドレスの袖を通す。
 肩を圧迫するような作りになっているドレスは、常に彼女に痛みを与えつづける。
 しかし、食堂では作法の訓練が始まる。
 ドレスで正装していなければ、その時点で叱責が飛ぶのは目に見えていた。
 痛みにもなれ、平静を装って食堂へと足を運ぶ。
「遅い」
「もうしわけありません」
 指定されている席につく。
 テーブルの対面には、グレッグとティリア。
 その眼はリザの一挙手一投足を見逃さない。
「ナイフの使い方が違うぞ!」
「はい」
「口の周りはすぐにナプキンで拭きなさい」
「はい」
「軍人たるもの全ての見本となるべく生きよ」
「はい」
 彼女がこの家で生きていること。その全てが軍人としての訓練だった。
 食事が終われば、自室で勉学に励む。
 軍人になるには、全ての法を覚え、数々の学問に精通していなくてはならない。
 だからこそ、幼いころから多くのことを学ばないといけないのだ。
 だが、リザは勉学を好んでいた。
 元々、人や物を傷つけるのが嫌いな少女だったのと、知識を得ることが彼女にとっては楽しいことであったことが理由だ。
「銃を使う軍人よりも・・・学者になりたい・・・」
 机の前で教本を開くたびに、彼女はそうつぶやく。
 事実、グレッグが課した課題も、実技よりも学術面の方が彼女は長けている。
 夜も更け、そろそろ就寝時刻に近づいたころ、誰かがリザの部屋をノックした。
「はい・・・」
 ドアを開け、入ってきたのはグレッグだ。
 夜中だというのに軍服を着ている。
「どうされたのですか?」
「ここから西へ行ったグレイバーという街で紛争が起こった」
「紛争?」
「・・・クーデターと言ったほうが近いかもしれないな。街の軍施設を占拠し、あろうことか中央軍司令部に声明をだしたらしい」
 リザが自分の知識の中から、グレイバーと呼ばれる地名を思い出す。
 他国からの移民者が多く生活している街で、近隣の街とは毛色が違っている。
 そして、過去に三度ほど軍と住民との間で衝突のあった街だ。
「俺の隊にも召集がかかった。そこでだ、リザ、お前も連れて行く」
「私を・・・」
「そろそろ戦場と言うものを知っておいてもらわねばならないからな。1時間後に迎えに来る。それまでに用意を終わらせるように」
 そう言って部屋を出て行く。
 正式な軍服はもっていないが代わりとなるものは渡されていた。
 それに着替え、普段から持たされている拳銃を机から取り出し点検を行う。
 止血剤や携帯食料など、以前にグレッグから講義を受け必要のなるものを身につける。
「・・・リザ」
 身支度が終わり、玄関前に出る。そこに、ティリアが立っていた。
「気をつけて。あなたは・・・私の子供なんですから」
 ティリアの言葉にリザの胸が締め付けられる。
「必ず・・・必ず生きて帰ってくるのよ」
 リザを抱きしめ涙を流す。
 今から行く場所はそれほどまでの・・・本当の戦場なのだ。
「いってきます」

 リザの目の前が真っ赤になる。
 そして、その真っ赤な海に倒れこむグレッグ。
「衛生兵!止血だ!!こっちだ!!こっちを先にしろ!!」
 側にいた軍人が軍用テントに向かって叫ぶ。
「くそ・・・どこから狙ったんだ」
 倒れているグレッグと、その場に膝を落としているリザを守るように数人の軍人が駆け寄ってくる。
「・・・た、大佐」
 リザがグレッグの手を取る。
 徐々に体温は奪われ、冷たくなっていく。
「リザ。大佐は我々が守る。だから心配しなくても」
 軍人の一人の頭が言葉の途中で弾け飛ぶ。
「今ので相手の場所がわかったわ!レッグ。大佐とリザちゃんを頼むよ!」
「お前」
 駆け寄ってきた軍人の中の唯一の女性軍人が拳銃を取り出し森へと入る。
 同僚の男が止めようとしたがすでに遅い。
「・・・リザ。大佐をテントの中に運ぶ。キミは自分で歩くんだ」
 男はグレッグを肩に担ぐと、テントまで走る。
 リザもそれについていくが、あまりのことに足が震え普段どおりには動けない。
「あっ」
 テントの直前。彼女は足をもつらせて転倒してしまう。
 もしも、先ほどの狙撃手が狙っていたら、今の彼女は絶好の的だ。
「リザ!」
 一発の銃声。
 だが、それはリザを狙ったものではなかった。
 男がテントから出てきてリザを担ぐ。
「・・・大丈夫か?」
「ありがとうございます」
 男はテントの中で安堵のため息をつく。
「・・・はっ。おと・・・大佐は!」
「大丈夫。出血は酷いが弾は貫通してるから・・・命に別状はない」
 ベッドに寝かされたグレッグの傷を、衛生兵の一人が縫っている。
 輸血のおかげで顔色も先ほどよりはましになっていた。
「さっきの銃声・・・いったい」
 森に入った女性軍人か。それとも、敵か。
 音が一発だったところを見ると、どうやら決着がついたようだが。
「・・・怖いかい?」
「え・・・あ。はい」
 リザは正直に答えた。
 知識でしか知らなかったことが、こうして目の前に現実として存在している。
「大佐はね、キミに期待しているんだ」
「え?」
「家ではどうかはわからないけど、たまにね、僕らの前では・・・キミのことを本当に誉めているんだよ」
 リザが目を閉じているグレッグを見る。
「その時はだけは、僕らも大佐が一人の父親なんだなって・・・そう思うんだ」
 彼女の頭の中には、軍人としての彼の顔しかない。
 父親としての顔は見たことが無い。
「さっき森にはいった女性、ミリって言うんだけど、今度結婚するんだ。大佐を見てたらさ、家庭もいいかななんて」
 男はそう言ってテントから出る。
 ミリを迎えに行くために。
「それで、リザみたいな女の子を」
 男の頭に血しぶきが舞う。
 狙撃手は死んではいなかった。ならば、先ほどの銃声は。
 リザの頭を人の死がよぎる。
「・・・そんな・・・」
 リザがテントの裏から出る。
 そのまま森の中へと入る。
 先ほどの二人の男が撃たれた位置から、敵の場所を割り出す。
 息を殺し、気配を消し。
「・・・見つけた」
 木の上でライフルを構えた男。
 その男に向かって銃を構える。
「!?バカな・・・俺に気配を」
 リザの放った弾丸は、振り向いた男の眉間を貫いた。即死だろう。
 男が木から落ちた。
 その側には、先ほどの女性軍人。
 この女性軍人に気をとられていたために、転んだリザに気づかなかったのだろう。
「・・・人を・・・」

「ふん・・・墓参りか」
 先日の戦いで散った軍人が埋葬されている霊場。
 リザはグレッグの回復を待って、ここに連れてきてもらった。
「まさか、こんなにも使えない連中だとはな」
 グレッグが持っていた酒を墓石にかける。
 その言動に対して冷ややかな目を向けるリザ。
「そうだ、その目だ。俺を憎め・・・それが人殺しへの第一歩だ」
 そう言ったグレッグの目は、少し暗い。
「・・・私は」
「気にするな。あいつらは軍人としてすべきことをして、死んだ。それだけだ。そして、お前は俺たちを救った」
 リザが殺した男。
 彼は元軍人で、グレッグの上司だった男だった。
 銃の腕は右に出るものがいないとさえ言われた男。
「お前はその意思をつげ。ホークアイ家の一員として・・・一人の軍人として」
 涙が流れた。
 誰一人として悪くはないのだ。
 少しだけ歯車がずれただけで・・・多くの人が死んだ。
 その悲しみだけがリザを胸を締め付ける。
「泣けるのは今だけだ。お前は人を憎むことが出来なさ過ぎる。だから、俺を憎め・・・それが今はお前の一番の薬だ」
 悲しみは絶望への道だが、憎しみは時には生きる原動力にもなる。
 だからこそ、グレッグはリザにきつく当たっていた。
「・・・リザ・・・お前は俺の娘だ・・・」

「ゅうい・・・ホークアイ中尉!」
「え?」
「え?じゃありませんよ。ほら、時間ですよ」
 今、彼女の前には多くの軍人予備生がいる。
 軍人になるべく日々鍛錬をつむものたちが。
「珍しいですね。中尉がぼーっとするなんて」
「昔のことを思い出していたから」
 自分も数年前にはこの場で、軍人の話を聞いた。
 それは、グレッグが死んだ翌年のことだった。
「じゃあ、お願いしますよ。中尉は彼らの中では人気が高いんですから」
「そうなの?」
「えぇ。いつも沈着冷静で射撃が神業なんですから・・・憧れの的ですよ」
 リザは父親の二つ名を思い出した。
 常に冷静で無駄なことを省き、任務を遂行する様からつけられた名だ。
「寡黙の鷹・・・か」



エドワード   「ほっほ・・・まさか中尉にそんな過去が」
リザ      「ないですよ」
エドワード   「へ?」
リザ      「完全フィクションです・・・本当の私の過去は・・・私の心の中に」
ウィンリィ   「えぇぇぇ!?そうなの?真剣に読んで損したぁ」
エドワード   「ったく。まぁ、さすがにこれは2次創作の域を越えてると思ったよ」
次回予告
 じんぐるべーじんぐるべー
 街はクリスマスムード一色。
 カップルや家族連れでにぎわう街。
 そんな街の一角にあのカップルが。
 次回『禁断の愛2』
 次回もこのチャンネルに練成よ。

エドワード  「え゛」
ウィンリィ  「あぁ。このタイトルは・・・まさか」
アルフォンス 「兄さんwまた・・・会えたね」
エドワード  「どわぁぁぁ!抱きつくな!!」
アルフォンス 「んもぅ・・・兄さん・・・」
ウィンリィ  (ドキドキ)
エドワード  「よるなくるな目をつぶるな!顔を近づけるなぁぁぁ!!」
ウィンリィ  「アダルト編・・・早くできないかなぁ・・・」
 
 

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