週刊ウィンリィちゃん 第7号:舞台裏


「はいOK・・・おつかれさん」
 監督の声がスタジオに響く。
 これで、今日の撮影は終了だ。
「ふぅ・・・終わった終わった」
 一人の青年が右腕と左足に付けられた金属のかたまりをはずす。
 彼の名はエドワード。
 現在撮影中の作品でデビューを果たした期待の新人役者だ。
「お疲れさま。エドさんの台詞、今日は多かったですからね」
 そこに兜だけはずした、全身鎧に身を包んだナニかがやってくる。
「お前はいいよな、寝てるだけだし」
「ひどいなぁ。あれでも結構大変なんですよ?暑いし、肩と腰は痛いし」
 兜をはずしているがそこに人の頭はない。
 胸の鉄板が中からはずされ、そこからエドワードと同世代くらいの青年が出てくる。
 彼の名前はアルフォンス。
 エドワードと共にこの作品で主役をはっている青年だ。
 といっても、彼自身は自分の背丈よりも大きな鎧の中にはいっているのだから、顔は映らないが。
 鎧の中は特殊技術の集合体で、中にはいっているアルフォンスが自らの体のように動けるようになっている。
「お疲れ、鋼の」
「ロイさん。もう芝居終わったんですから、その鋼のっていうのはやめてくださいよ」
「おっと失礼」
 顔立ちの整った長身美麗な男。
 名をロイ。作品中ではエドワードの上司にあたる役をこなしている。
 ベテラン俳優として、役をこなしながら新人の演技指導などもおこなっている。
「今日はこれからどうだい?」
「飲みにですか?えぇ。時間ありますし、いいですよ」
 アルフォンスがロイの誘いにのる。
「エドワード君はどうする?」
「俺ですか?・・・ん、今日はパスします。台本読みしたいですから」
「そうか。残念だ」
 心底残念そうな顔でエドワードを見つめる。
「ロイさん!店が混みだす前に行きましょうよ」
「・・・ロイさん・・・」
 同じ作品に出ている、ハボックとホークアイがロイを呼ぶ、
 ハボックとホークアイは養成所時代の同期。その先輩がロイにあたるのだ。
 ちなみに、まだ極秘裏にではあるが、ロイとホークアイが恋人仲だという噂も出ている。
「また、誘うとするよ。では行こうか、アルフォンス君」
 ロイがアルフォンスをつれて、スタジオから出て行く。
 一人残ったエドワード。
 スタジオの中に組まれているセットを見上げる。
「・・・もう終わるんだよな」
 そう。彼が主演をつとめている作品は、あと数話の撮影で終了してしまう。
 このあと映画もひかえてはいるが、このスタジオとセットを使うことはないだろう。
「なに、感傷に浸ってるのよ」
「ウィンリィか」
 作品中でエドワードの幼馴染を演じている少女。
 実際年齢も同じとはいえ、わずか4歳の時に芸能界デビューを果たしている彼女は、いわばエドワードにとっては大先輩だ。
「あんたほどの実力なら、すぐにいろんな方面からお呼びがかかるわよ」
「そうじゃないんだ。このセットとも、もうお別れだなと思ってさ」
「・・・そうね。でも、別れがあるから出会いがあるのよ・・・あれ、逆だったかしら?」
 何度も何度もそれを経験しているウィンリィならいざしらず。
 エドワードにとってはこれがはじめての別れとなるのだ。
 名残惜しいのは仕方のないこと。
「そういえば、あんたロイさんと行かなかったんだ?」
「あぁ。まぁ、今日はそういう気分じゃなかったしな。そういうお前は?」
「アタシはこれから夜のお仕事」
「なに!?」
 そう聞いてエドワードの頭の中には、ウィンリィが裸で男と抱き合っている姿が浮かび上がる。
「なんなら、アンタも一緒にする?大勢の男や女を前にして自分自身をさらけだすのよ」
 こんどは、ステージの上でピンクのスポットライトを浴びたウィンリィが、服を1枚・・・また1枚と脱いで・・・
「ちょ!ちょっと待て!!お前、なんて仕事を」
「あははは。もう、今日は何曜日?」
「木曜・・・あ、ラジオか」
 ウィンリィはこのドラマの他に、毎週木曜の夜にラジオのパーソナリティも勤めているのだ。
 遅い時間ではあるがスタッフに無理を言って生放送で行っている人気番組だ。
「ばぁか。本当にエッチなんだから・・・それに・・・私は・・・」
「ん?」
「なんでもない。あ、もうこんな時間・・・それじゃあ、またね」
 ウィンリィもスタジオを出て行く。
 また一人。
 自分の衣装の一部として身に付けてきた、金属の腕と足を手に取る。
 最初の頃はそのあまりの重さに、演技がまともに出来なかったほどだ。
「あの頃はNGだしまくりだったもんな」
 しかし、今では自分の体の一部のようにさえ感じる。
「お前とも、もうすぐお別れ・・・だな」
 アルフォンスが身に付けている鎧。
 ロイが常に持ち歩いている手袋。
 ホークアイ愛用の拳銃。
 大道具小道具のすべてが、彼には宝物だった。
「しっかりしろエドワード。この程度じゃ、最終回を迎えられないぞ」
 自分自身に活をいれ、天井を見つめる。
 浮かぶ涙をこらえ、彼もスタジオを後にした。

『はぁい。こんばんわ、ウィンリィよ。さっそく今日の一枚目のお手紙・・・』
 街頭のビル。
 その一枚の巨大なモニターに先ほどの少女が映し出される。
 ビルは彼女が現在いるであろうラジオ局。
 このラジオ局では、そのラジオの風景を街頭モニターに映し出すという変わった視聴も行っていた。
「・・・ウィンリィ」
 エドワードは顔をあげモニターを見る。
 そして、ポケットから一つのリングを取り出す。
 飾り気のない、しかし、気品ある仕上がりの指輪。
「・・・よし」
 彼は意を決して歩き出す。
 ラジオ局に向かって。

『はぁい。じゃ、後半もまだまだ続くよ』
 番組がCMにはいり、ほっと一息つくウィンリィ
「前半おつかれさま。あ、ウィンリィちゃん、エドワードくんが来てるわよ」
「エドワードが?」
 マネージャーから報告を受けラジオブースの外を見てみる。
 そこには、確かにエドワードが立っている。
「ねぇ、後半、ゲストで彼をいれちゃだめ?」
「ん〜・・・そうね。聞いてくるわ」
 マネージャーがブースの外にでてエドワードと話をはじめる。
 最初は困ったような顔をしていた彼だが、あきらめたかのような顔でブースの中に入ってくる。
「なによ。アタシとラジオでるのいやなの?」
「そんなんじゃねぇよ。マネージャーになんも言わずにここに来たから、ばれたら怒られるなと思ってさ」
「大丈夫。エドワードくんのマネージャーさんとは知り合いだから私から言っておいてあげるわ」
 ブースの外でディレクターがCMがあけるサインをだす。
「あ、じゃあ、アンタはゲストだからね。紹介するまでしゃべっちゃだめよ」
 5。4。3。・・・
『ウィンリィのハッピー×2』
 タイトルコールと同時に、ウィンリィは自分のマイクのスイッチを入れる。
『はぁい。ウィンリィーのハッピー×2。後半戦に突入ぅ。と、普通ならここでウィンリィ人生相談のコーナーにいくんだけど、な、な、なんと。緊急ゲストが登場』
 エドがタイミングよくマイクのスイッチをいれる。
『こんばんわ。エドワードで〜す。突然遊びにきちゃいました』
 エドワードも場慣れした様子で話し始める。
 その後も、特に問題もなくコーナーをすすめていった。
 そして、番組のエンディング。ここはフリートークや告知の時間。
『さぁ、今週もエンディングとなってしまいましたが、いかがでしたでしょうか。いきなりの珍客に驚いた方も多いと思います』
『珍客って俺かよ』
『アンタ以外誰がいるのよ。あ、なにか告知とかある?』
『告知か。告白でもいいか?』
 エドワードの顔が急に真剣になる。
『告白?なに、あんたなんか事件でも起こしたとか?まぁ、どっちでもOKよ』
 そんな表情の変化に気づかずにウィンリィは笑顔で微笑んでいる。
『・・・ウィンリィ・・・好きだ』
 瞬間、ウィンリィもそのマネージャーも・・・そしてディレクターや構成作家も・・・耳を疑った。
 そして・・・その場にいる誰もが言葉を発することはしなかった。
『俺と付き合ってほしい』
 エドワードのその言葉と同時に、ラジオの放送が終わる。
 沈黙するブース。
「な・・・なに言ってるのよ!まったく。おかげで最後の台詞言い忘れたじゃない」
「冗談じゃない。俺はそれを言いに来たんだ」
 再度訪れる沈黙。
 それを破ったのはディレクターの一言だった。
「・・・今日はとりあえず解散。エドワード君はちよっと残ってくれる?」
 スタッフたちが機材を片付けはじめる。
 ウィンリィもマネージャーとブースの外に出て行く。
 エドワードもブースを出て周りを見回したが、すでにウィンリィの姿はそこにはなかった。
「ウィンリィ・・・」

「遅い。いつまで待たせるのよ」
「ウィンリィ!?」
 エドワードがラジオ局から外にでると、そこにはガードレールに腰掛けたウィンリィが。
 あれからすぐに外に出たのだとしたら、もう20分近くは外にいたことこになる。
 季節は秋。夜中ともなれば冷たい風が体を冷やしていく。
「・・・私になにか言うことは?」
「・・・ごめん。番組・・・台無しにして」
 ウィンリィが立ち上がり、エドワードを睨む。
「・・・バカ・・・」
 そのまま彼の前まで歩いて行き、その胸に自分の頭をゆだねる。
「・・・もっと・・・シチュエーションってものを・・・考えなさいよ・・・」
「ウィンリィ・・・」
「・・・アタシだって・・・エドワードのこと・・・好き・・・なんだから」
 ウィンリィの瞳からこぼれる涙がエドワードの服に飲み込まれる。
 エドワードがウィンリィの頬に触れ、顔を上にあげる。
「・・・こんなに冷たくなって・・・ごめん」
「なら・・・暖めてよ・・・あなたの・・・体で」
 涙を浮かべた瞳は閉じられる。
 そして、真夜中の街のネオンと車のライトを背景に、二人の唇が重なる。



エドワード  「・・・・・」
ウィンリィ  「・・・・・」
アルフォンス 「ラブコメ?」
ロイ     「この作者ならいつかはやるだろうと思ってたが」
アルフォンス 「まぁ、そうですね。それにしても。ふむぅ(ニヤニヤ)」
エドワード  「な、なんだよ」
アルフォンス 「ううん。なんでもなぁい」
エドワード  「てめぇ・・・こ、これは俺の意思とはまったく全然、これっぽっちも関係ないからな」
アルフォンス 「そういうことにしておくよ」

次回予告
 今日は幼稚園のお芝居の日
 けれども、芝居団がこれなくなってしまった
 園児たちを楽しませるために、彼らが立ち上がる
 次回。西遊記もどき・・・みたいな代物
 次回もこのチャンネルに・・・れ・・・練成よ///

ホークアイ  「・・・練成よ///」
ロイ     「おや。中尉?顔が赤いぞ」
エドワード  「あれ、ウィンリィは?」
アルフォンス 「あそこ」
ウィンリィ  「・・・・・」
エドワード  「まだ、呆けてるのかよ」
ロイ     「意外と彼女の方は・・・(ニヤニヤ)」
アルフォンス 「いやいや、兄さんもじつは(ニヤニヤ)」
 
 

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