週刊ノベコンベイベー 第2回:Magician of needle and string

 昼休み。
 弁当を出して昼食を食べ初めている者。教室から出て行く者。
 他の生徒ともども、石田雨竜も一人教室を出ようとする。
「石田、飯一緒に食おうぜ」
「ん?」
 背中から声をかけられ雨竜は振り返る。
 そこには同じクラスの黒崎一護がしかめっ面で立っている。
 しかめっ面で誘うなと言いたいが、この男は普段からこんな顔なのだから仕方ない。
「・・・・・・」
「今日もケイゴのおごりだ」
「いただこう」
「今日も!?!?!?」
 クラスの後方で浅野啓吾が叫んでいる。
 啓吾も同じクラスの人間だ。
 まぁ、典型的な不幸人間と言えなくも無い。
「んじゃ、ケイゴ。パンを4つと飲み物な。お前の好みに任せる」
「・・・・はいはい」
 啓吾は観念して教室から出て行く。
「俺らは屋上にでも行くか」
「・・・ちょっと待て」
 雨竜は自分の机のなかからペンケースのようなものを取り出す。
 その中には針と糸が詰まっている。
 いわゆるソーイングセットだ。
「ん?」
「シャツを脱げ。袖がほつれてる」
 一護のYシャツの左袖が破れている。
 どうやらどこかに引っ掛けてしまったようだ。
 一護はシャツを脱いで雨竜に渡す。
 雨竜はシャツを机の上に置くと、一本の針と白い糸を取り出す。
 一発で糸を針に通し、破れた個所を縫い合わせる。
「ほら。これでいいだろ」
「おぉぉ。サンキュ」
 一護は渡されたシャツに袖を通す。
 シャツの袖は破れていたようには全く見えない。
「にしてもよ、なんでお前はこんなこと出来るんだ?」
「どういうことだ?」
「普通の男子高校生はこんな器用には出来ないだろ?」
 一護に言われ、雨竜は窓の外へと顔を向ける。
「自分の服を縫うために決まっているだろ」
「は?」
「親が買ってくる服はセンスが無かったんだ。だから自分で縫っていた」
「マジか?」
「さぁな」
 雨竜はソーイングセットをしまい、教室を出る。


「おぉぉぉ!?いっちごぉ!!そのシャツどうしたんだ?」
 啓吾が屋上に上がってきて開口一番そう叫んだ。
「何がだ?」
「背中背中」
「あん?・・・・げ!?」
 一護が背中を見て驚きの声をあげる。
 そして、シャツを脱いで再度確認をする。
 そこには小さな白い布がひらひらと何枚もついている。
 背骨部分に沿って規則正しく並んでいるが、センスはかけらも感じられない。
「なんでこんなものが!」
「僕がつけた」
 雨竜が眼鏡をキラリと光らせて言う。
 先ほどシャツの袖を直した時につけたようだ。
 あの一瞬でこんなことをしてしまうとは、まさに神業的だ。
「水色とチャドは気づいてたんだろ?言ってくれよ」
「あ、ボクそれって一護が好きでつけたのかなって」
 一護の友達の小島水色がそう答え、茶渡泰虎は無言でうなずく。
「そんなわけないだろ・・・こんなセンス無いの」
「なんだと!?今のは聞き捨てならないな」
 今の一護の一言に雨竜の眼鏡が更に光る。
「僕の手がけたこのハイセンスが君にはわからないのか?」
「いや、これはちょっとなぁ」
 一護が嫌そうな顔になり、水色たちに同意を求める。
「ノーコメント」
「・・・俺は・・・結構好きだ」
「はぁ・・・お前らに聞いた俺がバカだった」
 一護が頭をかいてため息をつく。
「はいはいはぁぁい。俺はその布は」
「石田。いいからこれ・・・はずしてくれ」
 突然割り込んできた啓吾を無視してシャツを雨竜に渡す。
「がぁぁん・・・無視!?なぜ!!どうして??why」
 雨竜はシャツを受け取り考え込む。
「ふむ。これは君のセンスにはそわなかったか・・・じゃあ、少し待て」
 雨竜は自分のシャツのボタンをはずす。
 シャツをまくるとそこには針と糸が。
「おいおい。そんなところにもいれてあるのかよ」
「これは非常用だ・・・よし、これでいこう」
 そこから黄色い糸と針を取り出す。
「待て。俺ははずして欲しいんだぞ?なぜ針と糸を取り出すんだ」
 一護が止めるのを聞かずに雨竜は作業を始める。
 針を持つ右手がまるでミシンのように高速かつ正確に動き出す。
「おぉぉぉぉ」
 見ていた水色と啓吾がその動きに感嘆する。
 わずか数十秒。
 出来上がったシャツを一護の目の前に突きつける。
「これでどうだ」
 シャツの裏地には巨大な獅子が牙をむいている模様が描かれている。
 ここまでくれば、神業の域すら凌駕しているようにも思える。
「・・・どうだじゃねぇだろ!」
「む。まだ不満があるのか」
「俺はいつの時代の不良だ!いまどきこんな裏地のシャツを着てるやつなんていないだろ」
「どこに行くんだ?」
「どっかで代わりのシャツを調達してくる」
 一護はシャツを片手に屋上から出て行く。
「・・・ふぅ・・・どこが不満なのか」
「真面目に言ってるのか?」
 啓吾のツッコミを無視してパンを食べ始める雨竜。
 だが、残されたうちの二人の目は違っていた。
「へぇ、話には聞いてたけど予想以上に凄いんだね」
 水色とチャドがしきりにうなずく。
「なんの能も無い啓吾よりも全然ましだよ」
「がぁぁん。水色・・・そ、そりは言いすぎでは。俺ってばショック」


「い〜し〜だくん」
 放課後、教室から出ようとした石田に誰かが声をかける。
「・・・・あぁ、井上さん」
 井上織姫。彼女も雨竜たちのクラスメートだ。
「部長が展示会のどうなったって」
「あぁ・・・すまないが持っていってくれないか。物は出来ている」
 雨竜はカバンから一枚の布を取り出す。
 それは真っ白なワンピースドレス。
 飾り気は無いが、清潔感と高級感が感じられる。
「うわぁぁ。さすが石田くん」
 雨竜と織姫は手芸部に属していた。
 特に雨竜は卓越した技術で部のトップクラスの逸材だ。
「本当はもう少し変えたかったんだがな」
「部長に止められたんだよね?なんでだろうね。じゃあ預かっていくね」
 織姫がワンピースを持って教室を出て行く。
「石田。ちょっと時間あるか?」
「黒崎・・・どうした?」


「うわぁぁ。ありがとぉ」
 一護の妹のユズが瞳をきらめかせて雨竜を見ている。
 ユズの手の中には、彼女がいつも持っているぬいぐるみが。
 本当は普通のウサギのぬいぐるみなのだが、今はフリフリのいっぱいついたドレスを身に付けている。
「悪いな」
「これくらいなら別に労力は使ってない」
 もちろんやったのは雨竜だ。


「ふぅ・・・」
 自分の家に帰ってきて落ち着く雨竜。
 時間は午後9時。
 そして、彼には毎日の日課があった。
「よし」
 タンスから白い布を取り出し縫い始める。
 どうやら服のようだ。
 マントのような布のついた服。
 お世辞にもセンスが良いとはいえない。
「・・・これで10着目・・・これだけあれば十分だろ」
 石田雨竜。
 最後の滅魔師。
 趣味、裁縫。ただし・・・極端なセンスの持ち主。




雨竜    「・・・・(コンの口の部分を縫い付ける)」
コン    「んごむごもむんむむむむむ」
ジン太   「なんか、スゲーのはわかったけど、ある日の一日って感じだな」
ウルル   「(コクコク)」
雨竜    「・・・ふぅ・・・付き合いきれないな」
ウルル   「じゃあ、次の主人公・・・は」
チャド   「・・・・・・・・・・」
ジン太   「デカ・・・テッサイ以上じゃねぇのか」
ウルル   「・・・あ・・・鳥」
ジン太   「こんなごつい癖に動物には好かれるのか。意外」
コン    「んむもんんむむむむむむ」
ジン太   「うるせぇ!しゃべれないなら何も言うな」
チャド   (コンの糸を解く)
コン    「おぉ。誰だか知らないがサンキ・・・・(ぞわわわわわわわわ)
       お、おまぇはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ウルル   「次回予告・・・」
ジン太   「お前も・・・他のヤツ以上にマイペースだな」


次回予告
 砂が舞う。
 血が踊る。
 腕が舞う。
 脚が踊る。
 人と血と無の輪舞
 −the Battle−


ジン太   「戦い。シンプルでいいねぇ、俺はそういうの好きだぜ」
コン    「殺伐としたやっちゃなぁ」
ジン太   「いいじゃねぇか。今回がバカみたいな内容だったし」
ウルル   「あむあむあむ」
ジン太   「何食ってるんだ?」
ウルル   「おじちゃんにもらった・・・」
チャド   「・・・高校生だ」
ジン太   「それに、おれらは・・・はぁ、まぁいいか」
コン    「んじゃ、来週まで!バイビーブンブン」

 
 

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